スバルの元広報マンが、定年退職を機にアルシオーネSVX(CXD)を手に入れた理由とは?

1991年から1997年まで販売されたスバル アルシオーネSVX(以下、SVX)。数々の名車のデザインを手掛けてきたジウジアーロがデザインしたことで話題となったスペシャリティクーペだ。

「大人の豊かなパーソナルライフを演出する、本格グランドツアラー」をコンセプトとし「走る歓び」「乗る満足」「持つ誇り」という名目で多くの人々を魅了した。

スバルの宣伝課に所属し、数々の新車を乗り継いできた岡田貴浩さん。最先端のクルマを販売してきた岡田さんは、定年退職を迎えた今年、次の愛車としてSVXを購入したという。あえてこの旧型車を選んだのは何故だろうか?

岡田さんのSVXは1991年製で、本革シートやクルーズコントロール機能なども備えた上級グレードの『バージョンL』。

後部座席を備えた2ドアクーペで、3.3Lの水平対向6気筒エンジンとフルタイム4WD、さらに当時は最先端技術だった4WS(4輪操舵)などを搭載している。

小学生の頃はクラスの男子のほとんどがクルマ好きで、岡田さんもその1人だった。中学生になると、改造車が流行りはじめ、自動車雑誌を読み漁りながら「将来は、カッコいいクルマに乗るんだ!」と子供ながらに思ったという。今でこそ一家に1台クルマがあるというのは珍しくないが、当時はまだクルマがある家庭は珍しかったという。

「僕の若い頃は、クルマ=ステータスという感じでした。だからこそ、大人になったらカッコいいクルマに乗りたいと憧れていましたね」

そんな少年時代を過ごした岡田さんは、数ある自動車メーカーの中からスバルに就職した。スバルを選んだのは、スキーをしに行った時にペンションの駐車場がレオーネで埋めつくされている光景を見たのがキッカケだったという。吹雪の中でたたずむ姿が印象的で、どこのメーカーが作っているクルマだろう?と思ったそうだ。

「入社後8年ほど経った32才の頃に宣伝課へ配属されてからは、どうやったらクルマが売れるのか?ということを毎日必死に考えました。シェア率がトップクラスのトヨタと同じことをやっても勝てないので、水平対向エンジンを搭載した個性的なクルマということを売りに、その差を埋めようとしていました。だから、水平対向エンジンはスバルにとっての切り札で、僕にとって思い入れのある特別なエンジンと言えるかな」

SVXが発売されたのは、岡田さんが宣伝課に配属されるより1年ほど前のことだった。

「なんてカッコいいクルマなんだと心を奪われましたね。絶対に乗りたい!と思い購入を決めました。僕の中でSVXのイメージは大人の余裕がある素敵な叔父様が乗っているというイメージだったんですけど、このクルマに乗ると自分が『いい大人』になった気がしていました。実際は、大人の余裕なんてまったくありませんでしたが(笑)。街を走っていると注目されることも多かったです。その度に、うれしくてね」

しかし、喜んでいたのもつかの間、当時はバブルがはじけたといえども物価が高く、駐車場代が3万円! さらに燃費は6km/Lと金銭的にかなり苦しく、維持するのが難しくなり手放すことになってしまったそうだ。

「乗りたかったクルマを、生活が苦しいから手放すという事実が情けなくて悲しい気持ちになった」と岡田さん。今思い出しても、なんとも言えない気持ちになるそうだ。

アルシオーネに別れを告げてからも、仕事柄、最新の技術が搭載された新車に乗り続けたという岡田さん。新車が登場する度に、一歩、また一歩と快適なクルマへと進化を遂げているのが伝わってきたし、だからこそ、そのクルマに乗ってほしいと宣伝し、売り続けた。
こうして長い期間宣伝を担当し、いつしかマーケティング推進部長という役職に就いていたという。

「在職中は新車に乗らなくてはという使命感があったのですが、定年後は肩の荷がおりたというか。自分が勝手に思っていただけなのですが、開放された感じがしたんです。その瞬間、クルマが仕事ではなく趣味になりました。何のクルマに乗ろうか?と思ったとき、若い頃に乗っていたSVXにもう一度乗りたいなぁと思ったんです」

そう思い始めていた岡田さんに、運命としか思えない出会いが訪れる。レヴォーグの記念企画に関する出張先で、中古車として販売されているSVXに遭遇したのだ。しかも、レガシィの50周年記念モデル限定色『スパークイエローマイカ』にオールペンされた個体だったのである。状態もかなり良く「乗ってくれ!」と言っているようで、購入を決めたという。

ブッシュなど交換可能な部品はすべて純正部品に交換し、ラジエターはアフターパーツメーカーのアルミ製に交換して冷却性能を向上。マフラーはワンオフ品を奢った。

シワシワになっていた本革シートも、純正内装の雰囲気に合わせてスエード生地を組み合わせつつ張り替えている。

「今見てカッコいいデザインかどうかは別として、当時はカッコいいと思っていたんです。見るたびに、その頃の記憶がよみがえってきます。運転すると、昔と変わらない水平対向6気筒エンジンならではのトルクや低重心で安定した走りを味わえました。ちょっと踏んだだけで進むので、飛ばさずにゆっくり走るのが気持ちいいんです。大排気量のゆとりを感じながらダラダラと進んでいくのは最高ですよ」

「時を経て再びSVXに乗って、あの頃の僕は無理をして背伸びしていたんだなと気付いたんです。このクルマの良さは、今だからこそ分かります。やっと自分もSVX を乗りこなせる年齢になったんだなと思うと感慨深いですよ。少しは大人の余裕ができたということかな(笑)?」

「アルシオーネSVX は『500miles a day』というのが、広告コピーでした。1日800km走っても疲れないクルマ、走りたくなるクルマという意味が込められているんです。だから、僕も挑戦してみようかな、と。神社巡りが趣味なのですが、青森あたりに行ってみようかなと思っています。坂道や山道、海沿いも6気筒の余裕で進んでいきますよ。ゆっくり走ればいいんです。時間は沢山ありますしね」

岡田さんとスバル アルシオーネSVXは、走り出したばかりだ。これからどんな場所へドライブに行き、どんな思い出を刻んでいくのだろう。

エンジン音を動画でチェック!

(文:矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)

[ガズー編集部]

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