【動画】山野選手の思う「カッコいい運転」とは? 視線移動と車両感覚編・・・山野哲也 基礎からのドライビング集中講座④

  • 【動画】山野選手の思う「カッコいい運転」とは? 視線移動と車両感覚編・・・山野哲也 基礎からのドライビング集中講座④

「もっとスマートに安全に普段の運転を楽しみたい」「スポーツドライビングに興味がある」という方々に、ジムカーナとレース界のレジェンド山野哲也が4回にわたってアドバイス。日常ドライブからサーキットでのスポーツドライビングまで、しっかり役立つテクニックや練習方法をお届けする。

アシスタントは西野洋平。こちらも全日本ジムカーナ選手権チャンピオン獲得回数多数のドライバーで、トヨタカローラ栃木GR Garage宇都宮つくるま工房のGRコンサルタントを務めている。

第4回目は視線移動と車両感覚について。過去の3回では、ドライビングポジション、止まるブレーキと曲げるブレーキ、アンダーやオーバーのクルマの挙動を教えていただいた。
今回はそれらをすべて活用し、さらに一般道でもサーキットでも連続して走行する際に必要となる、自分が通りたいところを通るためのアドバイスだ。
今回もGR Grage 宇都宮つくるま工房の試乗車、GR86を『ドライビングパレット那須』で走らせて、実践レクチャー!

 

視線移動はいまから通る場所を見る。車両感覚はタイヤが通る位置を把握

  • Alt 山野哲也選手の目線の動き

人は見ているほうに動く習性がある。だから、クルマの運転も「行きたいところ」を見ていけば、そこにクルマを持っていきやすい。逆に曲がらなかったときに外側のガードレールを見てしまったり、ぶつかると思ったときに、その障害物を見てしまうと、本当にそこに向かってしまいがち。

そんなわけで、山野選手の『視線移動』アドバイスは、「いまから通る場所を見ていく」だ。『先を見たほうがよい』とはよくいわれるが、サーキットでもストリートでも、見えるものはすべて見ていたほうがよくて、広い視界で先の先を見るのは、確かに大切なこと。
また、見えないブラインドの箇所は「何かが起きるかもしれない」という想像を働かせることも必要なこと。

それらを踏まえたうえで、ワインディングやさらに速度の速いスポーツ走行などでは、これから通る場所をしっかりと見ることを最重視しているという。

一方、「車両感覚」についてはどうだろう? クルマの四隅を意識する方が多いかもしれないが、それよりは『それぞれ4つのタイヤが通る場所』を把握しながら、「タイヤを操っている意識」を持とうとアドバイス。それでは詳しく説明いただこう。

山野哲也流 視線移動の極意

  • コーナーの進入のアウト側を見る山野哲也選手
  • コーナーのクリッピングポイントを見る山野哲也選手
  • 次のコーナーのクリッピングポイントへ目線を移動する山野哲也選手

まずはスポーツドライビングでの『視線移動』について。スピードが異なるだけで、ストリートにも当てはまる話ではあるが、『遠くばかりを見ない』と山野選手は言う。

それはあまりにも早く、先を見過ぎてしまったことで、アウトいっぱいから入れなかったり、インに早くついてしまって、なかなかアクセルが踏めなかったり、立ち上がりでアウトいっぱいまで使えなかったり、といった本当に通りたいコースを外してしまうことになりがちだからという意味もある。

『いまから通るところを見る』もっといえば『いまからそれぞれのタイヤが通るところを見る』というのは、正確に高い精度で走ろうというアドバイスでもある。

コーナーが見えてきたら、ブレーキングポイントのアウト側(写真1枚目)、ブレーキングを始めたらイン側のクリッピングポイント(写真2枚目)、クリッピングポイントに来たら立ち上がりの向かっていきたいところ(写真3枚目)、というように視線を先回りさせる。そんなニュアンスで捉えてほしい。

ビギナーの場合は、逆に視線が近過ぎて、走行ラインがきつくなったり、操作が後手に回ったりしがちだが、その場合は、いったん遠くを見るように意識して、それから、山野選手がいう『いまから通るところを』に切り替えていくとよいだろう。

また、映像では、「しっかりとインを見ること」と山野選手が語っているが、聞き慣れたセオリーながら、中級者でもおろそかになってしまっていたりする。別の機会には「クリッピングポイントは点としてではなく、ゾーンとして考える。インについている時間が長いほど速い」と述べたこともあった。それだけ重要なポイントだということを認識いただければ幸いだ。

ストリートでは、4つ、5つ先の信号までなど、見える範疇のものはすべて視界に入れながら、見えないところは想像を働かせて走りたいという。つねにそう意識して走ることは、安全はもちろん、ペースが一定ではないとか、信号に引っ掛かりやすいとか、黄色信号でギリギリ通過することが多いとか、何かに気づくのが遅れて急ブレーキを踏むとか、リズムの悪さを解消し、スマート運転や燃費向上にも直結する。

しかし、特に交差点などでは、巻き込み事故を防ぐための確認など「近くを目視する」ことも忘れてはいけない。

山野哲也流 車両感覚の極意

  • コーナーに侵入するGR86 
  • クリッピングポイントを捉えるGR86
  • 次のコーナーへの準備をするGR86
  • 次のコーナーのクリッピングポイントへ向かうGR86
  • 次のコーナーでもクリッピングポイントを捉えるGR86
  • 自分が行きたいラインをしっかりと走行するGR86

クルマの運転において、自身が乗っている車両の幅がどこからどこまであるか、長さがどこからどこまであるか、四隅がどこにあるか、把握しながら走ることは大事なことだ。しかし、何を主体に考えれば、その感覚を養えるのだろう? 山野選手の答えは『4輪それぞれのタイヤが通る位置』である。

タイヤの位置を把握できれば、その先のオーバーハング、前後のバンパーや左右のフェンダーの位置はある程度、想像がつく。タイヤはドライバーが操ることで動くので、どこを通るかに注意を払うことと、タイヤを操っている意識を持つことが『車両感覚』を養うことにつながると説く。

映像では『ドライビングパレット那須』の低い縁石を活かしてつくったコースを山野選手が周回。ここに挙げた画像でもわかるが、それぞれのタイヤでどこをどう通るか、決めたとおりのラインをトレースしている。

その精度の高いドライビングには、これまで紹介してきた
手足を自在に操れるドライビングポジション
止まれる自信
止まるブレーキと曲げるブレーキの連動
攻めに活かせる挙動コントロール能力
⑤視線移動 タイヤが通る位置の把握
といったすべてが噛み合っている。映像内で述べている「スピードが上がってもライン取り変わらない」はとても重みがある言葉なのである。

山野哲也流 ヒール&トーの極意

  • 山野哲也選手のヒール&トー

スポーツドライビングでは欠かせないヒール&トーについて、今回はちょっとだけ映像を挿し込んでいる。MT車のシフトダウンで、クラッチペダルを踏んで、ギアをチェンジする際に、ブレーキを踏んでいる右足の右側か、カカトでアクセルをあおって、クラッチペダルを戻してつなぐテクニックで、それによりクルマがギクシャクせずスムーズなシフトダウンが可能となるというテクニック。

山野選手は、
①最も大切なのはエンジン回転を合わせること、
②ブレーキの踏力をできるだけ変えない、
③できるだけ高回転でクラッチをつなぐ、
④最後の調整はクラッチで行い、つなぐ直前に寸止めで合わせる
とコツを語った。

タイヤが通るところを意識して駐車も上達!

  • 山野哲也選手によるGR86での駐車前の停止位置
  • 山野哲也選手によるGR86での駐車でバックを開始
  • 山野哲也選手によるGR86での駐車前
  • 山野哲也選手によるGR86での駐車はしっかり右のパイロンに寄せて停車

駐車も車両感覚が問われる操作だが、山野選手はそれもタイヤが通る位置とタイヤを操っている意識を持つことで上手くいくという。バックの際に、前輪を動かすと、後輪はどこを通り、そのあと、前輪はどういう軌跡を描くのか、確かめながらやっていくと、狙ったところにクルマを運べるようになるとのこと。

わかりにくい場合はステアリングを小刻みに切って、それによって、どう変わったかを、ミラーやバックモニターや振り返っての肉眼で確かめながらやるのがオススメ。映像では、パイロンで狭い駐車スペースをつくり、そこに右側ギリギリに寄せてすんなり停める山野選手の駐車テクニックをご覧いただくことができる。

山野哲也が思う『かっこいい運転』とは⁉

  • 山野哲也選手の思うカッコいい運転は『自身が思い描くところにクルマを持っていけること』

幼い頃の山野少年は、いつも乗るバスの運転手の狭い道でのテクニックに魅了されて、自身もドライバーになろうと思ったそうだ。その運転手の何に魅了されたかというと、『自身が狙った場所に思いどおりにバスを持っていくかっこよさ』だった。

山野選手にとっての『かっこいい運転』とは、まさに『自身が思い描くところにクルマを持っていけること』。そのためには練習を重ねていくことが大事なのはいうまでもない。そして、その領域を目指すのに優先したいレクチャーを並べたのが今回のこの企画。機会があれば、その先をお届けしたい。

車両協力:トヨタカローラ栃木 GR Garage宇都宮つくるま工房
栃木県宇都宮市陽東5-8-24 TEL 028-612-3055
https://www.corolla-tochigi.co.jp/naradeha/tsukurumakobo

(文:蔵田智洋 写真:堤 晋一)

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