【試乗記】日産キックスX(FF)

日産キックスX(FF)【試乗記】
日産キックスX(FF)

割り切りで勝負

日産の新型車「キックス」に試乗。自慢の電動パワートレイン「e-POWER」と、これに合わせて再チューニングしたという足まわりが織りなす走りはひとこと「軽快」だ。海を越えてやってきたこの小型SUVは、日産に久しぶりの明るいニュースをもたらすかもしれない。

タイからやってきたニューモデル

日産のデザインランゲージ「Vモーショングリル」は新世代に移行し、グリルとメッキパーツで二重のV字を描く「ダブルVモーション」に進化した。
日産のデザインランゲージ「Vモーショングリル」は新世代に移行し、グリルとメッキパーツで二重のV字を描く「ダブルVモーション」に進化した。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4290×1760×1610mm。車台を共有する「ノート」よりも全方向にひと回り大きい。ホイールベースはノート比で+20mmの2620mm。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4290×1760×1610mm。車台を共有する「ノート」よりも全方向にひと回り大きい。ホイールベースはノート比で+20mmの2620mm。
六角形のリアウィンドウからサイドへと回り込むグラフィックがユニークだ。最低地上高は170mmを確保する。
六角形のリアウィンドウからサイドへと回り込むグラフィックがユニークだ。最低地上高は170mmを確保する。
2020年6月からの18カ月間に12の新型車を投入するという日産の反転攻勢。その蹴りだし第1弾がキックスである。軽の「デイズ」を除くと、「リーフ」以来、実に10年ぶりになる新規投入モデルだという。

もともとこのクルマは数年前から中国、メキシコ、ブラジルで生産してきた主に新興国向けのコンパクトSUVである。今回それに大きく手を入れ、e-POWERの電動パワートレインと組み合わせた右ハンドルの新型をタイ工場でつくり始めた。日本仕様も現行「マーチ」と同じメイド・イン・タイランドである。

おさらいすると、e-POWERはガソリンで走る電気モーターカーである。エンジンを発電専用に使い、その電気で前輪を常時モーター駆動する。シリーズ(直列)式というハイブリッドの一種だ。エンジンは1.2リッター3気筒。これにリーフ用のモーターと小さなバッテリー(1.5kWh)を組み合わせたパワートレインそのものは「ノート」のe-POWERと同じである。

試乗したのは標準グレードの「X」(275万9900円)。ラインナップはシンプルで、これと「Xツートーンインテリアエディション」(286万9900円)の2グレードのみ。全車に運転支援システムの「プロパイロット」を備える。

日産のデザインランゲージ「Vモーショングリル」は新世代に移行し、グリルとメッキパーツで二重のV字を描く「ダブルVモーション」に進化した。
日産のデザインランゲージ「Vモーショングリル」は新世代に移行し、グリルとメッキパーツで二重のV字を描く「ダブルVモーション」に進化した。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4290×1760×1610mm。車台を共有する「ノート」よりも全方向にひと回り大きい。ホイールベースはノート比で+20mmの2620mm。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4290×1760×1610mm。車台を共有する「ノート」よりも全方向にひと回り大きい。ホイールベースはノート比で+20mmの2620mm。
六角形のリアウィンドウからサイドへと回り込むグラフィックがユニークだ。最低地上高は170mmを確保する。
六角形のリアウィンドウからサイドへと回り込むグラフィックがユニークだ。最低地上高は170mmを確保する。

軽さは正義

パワートレインの設定はエンジンが発電して最高出力129PSのモーターが駆動する「e-POWER」のみ。タイ工場ではe-POWER仕様の「キックス」のみを生産しているため、ブラジルなどで売られているコンベンショナルなガソリンエンジン車を導入する予定は(当面)ないという。
パワートレインの設定はエンジンが発電して最高出力129PSのモーターが駆動する「e-POWER」のみ。タイ工場ではe-POWER仕様の「キックス」のみを生産しているため、ブラジルなどで売られているコンベンショナルなガソリンエンジン車を導入する予定は(当面)ないという。
タイヤサイズは205/55R17。試乗車はヨコハマの低燃費タイヤ「ブルーアースE70」を履いていた。
タイヤサイズは205/55R17。試乗車はヨコハマの低燃費タイヤ「ブルーアースE70」を履いていた。
WLTCモードの燃費値は21.6km/リッター。日産の技術者は「75km/hまでであれば燃費のチャンピオン」と話していた。
WLTCモードの燃費値は21.6km/リッター。日産の技術者は「75km/hまでであれば燃費のチャンピオン」と話していた。
横浜の日産グローバル本社を起点にした試乗会で、ハンドルを握れたのは正味1時間。チョイ乗りの第一印象は「かるさ」だった。最大トルクがすぐに立ち上がるモーター駆動のおかげで、加速感が軽い。ハンドルは軽く、身のこなしも軽い。乗り心地など足まわりから伝わる印象も軽い。そうした軽さが運転のしやすさにもつながっている。

キックスのプラットフォーム(車台)は現行マーチやノートなどが使うものの進化版だ。足まわりではe-POWERに合わせたチューニングを追求したという。

SUVで重心は高くなった。電動でダッシュするe-POWERだと発進時や加速時にノーズリフトが出やすい。そうなると加速感も快適性も損なわれるため、リアサスペンションを固くしてピッチングを抑え込んでいる。

といったような手当てを施した足まわりは、ソールの薄いランニングシューズを思わせる硬さがある。スポーティーでいいし、平滑な路面では乗り心地も軽快だ。ただし、うっかりキャッツアイなどを踏んだりすると途端に大きなショックがボディーを揺する。フトコロは深くない。スピードを上げると乗り心地はかえってよくなるという説明を受けたが、今回、残念ながら高速道路は走れなかった。

パワートレインの設定はエンジンが発電して最高出力129PSのモーターが駆動する「e-POWER」のみ。タイ工場ではe-POWER仕様の「キックス」のみを生産しているため、ブラジルなどで売られているコンベンショナルなガソリンエンジン車を導入する予定は(当面)ないという。
パワートレインの設定はエンジンが発電して最高出力129PSのモーターが駆動する「e-POWER」のみ。タイ工場ではe-POWER仕様の「キックス」のみを生産しているため、ブラジルなどで売られているコンベンショナルなガソリンエンジン車を導入する予定は(当面)ないという。
タイヤサイズは205/55R17。試乗車はヨコハマの低燃費タイヤ「ブルーアースE70」を履いていた。
タイヤサイズは205/55R17。試乗車はヨコハマの低燃費タイヤ「ブルーアースE70」を履いていた。
WLTCモードの燃費値は21.6km/リッター。日産の技術者は「75km/hまでであれば燃費のチャンピオン」と話していた。
WLTCモードの燃費値は21.6km/リッター。日産の技術者は「75km/hまでであれば燃費のチャンピオン」と話していた。

e-POWERならではの加速感

試乗した「X」のインテリアカラーはブラックで統一されている。華美ではないが、随所にステッチ調加工を施すなどしている。ディーラーオプションのカーナビは9インチの大画面だ。
試乗した「X」のインテリアカラーはブラックで統一されている。華美ではないが、随所にステッチ調加工を施すなどしている。ディーラーオプションのカーナビは9インチの大画面だ。
メーターパネルは右に針式の速度計、左にマルチインフォメーションパネルというレイアウト。7インチ液晶はなかなか高精細だ。
メーターパネルは右に針式の速度計、左にマルチインフォメーションパネルというレイアウト。7インチ液晶はなかなか高精細だ。
バイワイヤ式シフトセレクターの操作パターンは「ノートe-POWER」と同じだが、SUVなのでレバー型を採用したとのこと(ノートは円形のマウスのようなセレクター)。
バイワイヤ式シフトセレクターの操作パターンは「ノートe-POWER」と同じだが、SUVなのでレバー型を採用したとのこと(ノートは円形のマウスのようなセレクター)。
本革巻きのステアリングホイールを採用。全車標準装備となる「プロパイロット」の操作系は右スポーク上にレイアウトされる。
本革巻きのステアリングホイールを採用。全車標準装備となる「プロパイロット」の操作系は右スポーク上にレイアウトされる。
e-POWERはよくなった。ノートより100kg以上増えた車重(1350kg)に合わせて、モーターの最高出力は2割近く増強されている。加速が気持ちいいからついつい“踏みたくなる”キャラクターはこれまで通りだが、改善されたのは快適性だ。町なかの速度域でエンジンが突然うなって充電を始める“癖”がなくなった。

試乗中、バッテリーのモニターは3分の1ほどに減っていたが、減速時や停車時だとエンジンはほとんどかからない。かかっても音はノートほど気にならない。「急にうるさくなる」というノートユーザーの指摘に応えた改良がなされている。

35km/h以下の低負荷時では極力エンジンをかけないようにした。かかったときの回転数も従来より低くしている。ロードノイズなどの周辺音が高まる50km/h以上でエンジンを多く回して充電するというしつけにあらためたという。「エコ」モードと「S(スマート)」モードで効く“ワンペダル”の回生制動もつんのめり感が和らいだように感じた。

右足を踏み込めばすぐにエンジンが発電を開始する。軽快な3気筒の音とビートが車速とともに高まるのは普通のエンジン車と同じだが、しかし駆動力は100%電動だ。e-POWERならではといってもいい爽快な加速感はキックスの魅力だと思う。このパワートレインをコックピット背後に横置きしてコンパクトなミドシップをつくったらどうだろうか。「アルピーヌA110」と並ぶグループ2大スポーツカーになると思うのだが。

試乗した「X」のインテリアカラーはブラックで統一されている。華美ではないが、随所にステッチ調加工を施すなどしている。ディーラーオプションのカーナビは9インチの大画面だ。
試乗した「X」のインテリアカラーはブラックで統一されている。華美ではないが、随所にステッチ調加工を施すなどしている。ディーラーオプションのカーナビは9インチの大画面だ。
メーターパネルは右に針式の速度計、左にマルチインフォメーションパネルというレイアウト。7インチ液晶はなかなか高精細だ。
メーターパネルは右に針式の速度計、左にマルチインフォメーションパネルというレイアウト。7インチ液晶はなかなか高精細だ。
バイワイヤ式シフトセレクターの操作パターンは「ノートe-POWER」と同じだが、SUVなのでレバー型を採用したとのこと(ノートは円形のマウスのようなセレクター)。
バイワイヤ式シフトセレクターの操作パターンは「ノートe-POWER」と同じだが、SUVなのでレバー型を採用したとのこと(ノートは円形のマウスのようなセレクター)。
本革巻きのステアリングホイールを採用。全車標準装備となる「プロパイロット」の操作系は右スポーク上にレイアウトされる。
本革巻きのステアリングホイールを採用。全車標準装備となる「プロパイロット」の操作系は右スポーク上にレイアウトされる。

コストをどこにかけるのか

シートには合皮とファブリックのコンビ表皮を採用。地味にみえるが、ブルーのステッチを採用したり、座面と背もたれにはドットパターンをあしらったりと凝った仕上げだ。
シートには合皮とファブリックのコンビ表皮を採用。地味にみえるが、ブルーのステッチを採用したり、座面と背もたれにはドットパターンをあしらったりと凝った仕上げだ。
前席の背もたれ背面をへこませるなどして拡大した600mmの後席ニールームはクラストップの広さをアピールする。
前席の背もたれ背面をへこませるなどして拡大した600mmの後席ニールームはクラストップの広さをアピールする。
後席使用時の荷室容量は423リッター。900mmの奥行きも立派だが、深く掘り込まれていて下方向にも広い。
後席使用時の荷室容量は423リッター。900mmの奥行きも立派だが、深く掘り込まれていて下方向にも広い。
40:60分割の後席背もたれをすべて倒したところ。荷室の床面が低いのでフラットにはならないものの、とにかく広い。
40:60分割の後席背もたれをすべて倒したところ。荷室の床面が低いのでフラットにはならないものの、とにかく広い。
ライバルの「トヨタC-HR」や「ホンダ・ヴェゼル」と比べると、ボディー全長は短く、キックスだけは4.3mをきる。しかし後席は広い。荷室もがんばっている。実測90cmの奥行きはクラス最大だという。リアシートは広いだけでなく座面が高くて抜群に見晴らしがいい。子どもには喜ばれるだろう。クルマ酔いにも強そうだ。

一方、新興国向けという出自を納得させる割り切りもみえる。フロントドア開閉時の品質感は普通だが、リアドアのそれはちょっとチープである。パワーウィンドウのスイッチなどはいまどきの軽自動車より明らかにチープだ。ハンドルが軽いのはいいが、クルクル回してフルロックにぶつかるとガンッと大きなショックが出る。しかしこうした点を潔くていいという感じ方もあるかと思う。そんなところにお金をかけなくてもいいでしょと。

新興国向け戦略車という基本テーマの上に、SUVのスタイルとe-POWERというテッパンネタを載せたのがキックスである。e-POWERのおかげで、ライバルのコンパクトハイブリッドSUVのなかではいちばんファン・トゥ・ドライブだと思う。日産シンパだけでなく、多くの人に試してもらいたい新しい日産車である。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

シートには合皮とファブリックのコンビ表皮を採用。地味にみえるが、ブルーのステッチを採用したり、座面と背もたれにはドットパターンをあしらったりと凝った仕上げだ。
シートには合皮とファブリックのコンビ表皮を採用。地味にみえるが、ブルーのステッチを採用したり、座面と背もたれにはドットパターンをあしらったりと凝った仕上げだ。
前席の背もたれ背面をへこませるなどして拡大した600mmの後席ニールームはクラストップの広さをアピールする。
前席の背もたれ背面をへこませるなどして拡大した600mmの後席ニールームはクラストップの広さをアピールする。
後席使用時の荷室容量は423リッター。900mmの奥行きも立派だが、深く掘り込まれていて下方向にも広い。
後席使用時の荷室容量は423リッター。900mmの奥行きも立派だが、深く掘り込まれていて下方向にも広い。
40:60分割の後席背もたれをすべて倒したところ。荷室の床面が低いのでフラットにはならないものの、とにかく広い。
40:60分割の後席背もたれをすべて倒したところ。荷室の床面が低いのでフラットにはならないものの、とにかく広い。

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