「人それぞれいろんな生き方があって、《こうじゃないとダメ》だけではない、今の時代の多様性のあり方を描いているのかなと思いました」(撮影:宅間國博)
「またもやダメ男の役なんです」と笑いながら語るのは、その独特な佇まいで映画にドラマにCMにと引っ張りだこの俳優、松田龍平さん。今度の役は10年間引きこもりの男性だという。ドラマ開始に合わせ、発売中の『婦人公論』2023年6月号から、特別に記事を先行公開いたします。(撮影=宅間國博 構成=上田恵子)

今の時代の多様性のあり方を描いている

――ダメなおじさんの役を演じることは多いですね。映画『モヒカン故郷に帰る』『ぼくのおじさん』……。

今回、『モヒカン~』の監督を務めた沖田修一さんから7年ぶりのオファーをいただいて嬉しかったんですけど、今作も「モヒカン」で演じた役と近いものがあって、すごく自由に生きてる役で(笑)。少し複雑な気持ちはありました。

監督と再び一緒にできるということで、嬉しいなかにも緊張感みたいなものもありましたね。

 

沖田監督との久しぶりのタッグとなったのは、5月よりWOWOWで放送・配信が始まる『連続ドラマW 0.5の男』(https://www.wowow.co.jp/drama/original/the-0.5/)。松田さんは30歳の時から10年間、両親と暮らす実家に引きこもっている、立花雅治を演じる。

雅治は、母親が作ってくれるご飯を食べ、一日中オンラインゲームをしている40歳の男性。そこに妹一家が引っ越してきて、日常が大きく変わっていく。実家は《2.5》世帯住宅にリフォームされるが、2世帯住宅ではなく《2.5》なのは、彼だけが単身者だからだ。

――「引きこもりを描くドラマ」ということで、なんとなく暗いキャラクターをイメージしていたんですけど。脚本を読んで、声に出して笑いました(笑)。

彼が母親とテレビを観ているシーンがあって。朝から40歳の引きこもりが弁当食べながら爆笑してるって、けっこうカオスな状況なんだけど、なんか楽しそうなんですよね。それでも、10年もの間、家から出ていないことの重苦しさとのバランスが面白かったです。

 

雅治は妹から引きこもっていることを非難され、中学生の姪には「キモい」と言われ、5歳の甥にはちょうどいい遊び相手と見なされ……。妹家族に振り回されながらも彼の世界が少しずつ外に開いていくさまは、とてもリアルで、時にコミカルだ。

――母親は息子のことを受け入れて、見守っているんですけど。本人も家族も口にしないだけで、心の奥底では、「いつまでもこの生活を続けられるわけではないよね」と、わかっていて。でも母親は、「自分が自分じゃなくなるくらいなら、リタイアする勇気を認めてあげましょうよ」というスタンス。

人それぞれいろんな生き方があって、「こうじゃないとダメ」だけではない、今の時代の多様性のあり方を描いているのかなと思いました。