異様な”眼力”のネズミキツネザル(イラスト:『カラー版-へんてこな生き物-世界のふしぎを巡る旅』より)
かわいかったり、奇妙だったり、どこかひねくれていたり。世界には私たちの常識を軽く超える「へんてこ」な生き物がたくさんいます。作家・川端裕人さんは、30年以上にわたり研究者やナチュラリストと共に活動し、そうした生き物と出会っては多くの写真を撮影してきました。その中でも印象的すぎる「へんてこな生き物」をご紹介。今回はマダガスカルのネズミキツネザルです。

一言でいえば、アンバランス

マダガスカル西部、モゥルンダヴァ近辺にある「キリンディの森」を夜、歩く。森の中には所々、バオバブの木が生えている。

『星の王子さま』のバオバブは、荒涼たる大地からニョキッと突き出している孤高の巨木の印象が強いが、ここでは違う。森林の中で、ひときわ存在感がある樹木の王のような雰囲気だ。

ガイドの持つサーチライトが、暗く沈んだ木々をなめまわすと、時々、きらりと光るものがある。「マウスレムール」とガイドはささやいた。霊長類の中で、最も小さい部類に入る一群の生き物の呼び名だ。

この森には、ハイイロネズミキツネザル(Microcebus murinus)とピグミーネズミキツネザル(Microcebus myoxinus)の2種がいることがわかっている。前者は体長12~14センチ、体重60グラム前後で、これでも十分に小さいが、後者は体長6~7センチ、体重30グラム前後とそれに輪をかける。同じ場所にいるものだから、かつて「ピグミー」は、「ハイイロ」の幼獣だと思われていた時期もあるという。

ガイドが夜の森で見つけたのは、「ハイイロ」だった。2種のうちで大柄な方だが、正直、その小ささに、戸惑った。サルに見えないことは予想済みとはいえ、それを差し引いても、なんとも不思議なルックスなのである。一言でいえば、アンバランスだ。

こちらを見ている目は、顔の大きさと比べて異様に大きい。つぶらでかわいいともいえるけれど、ぎりぎりのところで異様なアンバランス感が勝っている。夜行性の動物だ。

木々の枝を伝って行動し、果物を食べたり蜜を吸ったりする。さらに、小さな昆虫やカメレオンなども食べるという。体重数十グラムしかないのにカメレオンを食べるというのは不思議だが、マダガスカルには、成熟しても体長数センチにしかならない小さなカメレオンもいる。ネズミキツネザルにとって、格好の獲物だ。

つまり、彼らは、小さいなりに肉食もするのである。