阪本智子の船釣り探見!

阪本智子の船釣り探見!
スルメイカ:日本列島周辺に生息。胴長は最大で30cmほどで、外洋の表層から中層を回遊する。春から夏に生まれるタイプ、秋に生まれるタイプ、そして冬生まれという3 つのタイプに分かれる。日本海では秋生まれ、太平洋側では冬生まれのものが多い。東シナ海から暖流に乗って北上し、寿命は約1 年。肉食性で上へ逃げる小魚などを追いかけて、抱きつくように捕食する。イカの仲間のなかでも特に活発で、獰猛な性質を持ち、時には自分と同じくらいの大きさの魚も食べてしまう

第8回 相模湾・小網代沖のスルメイカ釣り

目次
  • 1:イカ釣り入門にも最適なスルメイカ
  • 2:入門者には「ブランコ仕掛け」がオススメ
  • 3:アタリはまず目で取る。サオ先の動きを注視!
  • 4:シャクリは大きくていねいに。朝の時合を逃さない
  • 5:イカ釣り名物「船上干し」の方法

イカ釣り入門にも最適なスルメイカ

今回のターゲットはスルメイカ。イカ大好きの日本人なら、知らない人はまずいないポピュラーなイカだ。船釣りのターゲットとしても優れており、船上干し、沖漬け、刺し身(小さいものが向く)、塩辛と食べてもとても美味しい。
最後に逆噴射で抵抗! 慌てず仕掛けを緩ませずに船内に取り込もう
現在では一年中どこかで釣れているスルメイカだが、基本的には初夏からがシーズン。今回釣りをした相模湾では、5月頃から小田原沖の浅場30~50mでムギイカ(全長30cm以下の小型のスルメイカ)が釣れだし、その後は群れの移動にともなって、しだいに湾の東部や東京湾、房総方面でも釣れるようになってくる。この間、イカはどんどん大きくなる。
小網代沖を含む湘南の江の島から三浦半島の長井沖にかけてのエリアは小田原沖に次いでスルメイカが釣れ始める場所。あたりにはこの日乗ったやまはち丸のように、一年を通じてイカ釣りの乗合船を出している船宿も多数ある。

入門者には「ブランコ仕掛け」がオススメ

この日のポイントは小網代沖の水深100~140m。阪本さんのほかに、常連さんを含む6名のお客さんを乗せての出船となった。スルメイカ釣りのタックルは、パワーのある中型電動リールと、1.5~2mでオモリ負荷80~120号ほどの先調子ロッドの組み合わせが基本。阪本さんはシマノ「フォースマスター3000」と「リアランサーヤリイカ155」を使用。PEラインは3号。オモリは120号を使った。
サオはイカ釣り専用の先調子を使う。今回はシマノ「リアランサーヤリイカ155」をセレクト。リールは多点掛けしたスルメイカも巻き上げられるパワフルな中型電動が必要だ。シマノ「フォースマスター3000」は幅広い船釣りに使えるおすすめモデル
仕掛けは大きく分けて「ブランコ仕掛け」と「直結仕掛け」の2つがある。どちらもイカを誘って掛ける、カンナが付いたプラスチック製のツノ(プラヅノ)を複数取り付けたドウヅキ仕掛けだ。スルメイカは細身のプラヅノをエサにしているイワシやサバと思って抱きついて来るとされる。
スルメイカ釣りに使用するプラスチック製のツノ(プラヅノ)。棒状のシンプルなもので、「ブランコ仕掛け」もしくは「直結仕掛け」で使う。今回は入門者におすすめの「ブランコ仕掛け(6 本)」で挑戦
スルメイカねらいのプラヅノは14cmが標準。色は「ケイムラ(蛍光紫)、水色、ピンクの3 本」を入れるのがまずはおすすめ。入門者は扱いやすい4 ~ 6 本で始めて、自作する場合は自分が両腕を反対に伸ばした時に上と下のツノに無理なく触れる、130 ~ 160cmにツノ間を調整しておく
仕掛け図
阪本さんが使用したのは、サビキ仕掛けのように幹イトから出した枝スにツノを配置するブランコ仕掛け。ブランコ仕掛けは掛かったイカがバレにくく入門者にはより扱いやすい。ツノ数は6本前後が標準。ただし、イカ釣りで厄介なサバが多い時には食いつかれやすいという弱点がある。
直結仕掛けは枝スを出さずに多数のツノをトレーラー状につなぐものでベテラン向きとされる。技量に応じて広いタナを一度に探れるように10~15本つなぐ人もおり、仕掛けを途中で下げてしまうと掛けたイカがバレる点が難しいが、仕掛けの絡みが少なく(絡んでも復活させやすい)、投入器なしでも扱え、サバに食われにくいというメリットがある。
釣り座はこのようにセット。まん中の筒がツノを絡ませずに仕掛けを投入するための投入器
投入器は持参してもよいが船宿で借りられる

アタリはまず目で取る。サオ先の動きを注視!

朝6時、天気はあいにくの曇り空ながら「シーズン走りのスルメイカでぜひ美味しい塩辛を作りたいです(笑)」と意気揚々の阪本さん。今シーズンの小網代・長井沖のスルメイカ釣りはポイントが近いということで、港を出るとすぐにイカ釣りの船団に合流した。
レクチャーしてくれるのは操船を担当した出口奨船長の父の訓船長。
「今はムギサイズの小型もまだ混じるスルメイカ釣りの走りの時期。ですので、大雑把な釣りをしていると意外に苦戦します。小さなアタリもなるべく取るつもりで、まずは丁寧な落とし込みやシャクリを心掛けてください」
入門者は船長のアドバイスを受けやすい胴の間での釣りがおすすめだ
スルメイカはその日の状況に応じて中層と底層のどちらでも釣れる可能性がある。基本となるのは底から30mくらいまでの底層の釣りだが、上手な人ほど中層がタナになった時も効率的に釣る。
「仕掛けを投入したらまずはオモリを着底させてよいですが、途中でアタリが出ることもあります。今日なら〝水深105m、100~80mでねらってみてください〟といったように船長のアナウンスがありますので、オモリが80mに達した頃からスプールをサミングして、アタリ(イカの触り)を聞きながら落としてみてください。この時にサオ先を下に向けたままにせず、水平気味にして目で変化をとらえるようにするのがコツです」
船長の合図でオモリを投入して釣り開始。投入器は風下になるサオの艫側にセットしておき、サオを跨がないようにオモリを投げるとトラブルがない
指示ダナの上限にオモリが達したらスプールをサミング。ここから着底までの間にイカの触りを感じられるようになると釣果はかなり伸びる
「アタリがなければそのまま着底させてイトフケを取ります。この時にテンションがモヤモヤとするような場合もいわゆる着乗りでイカが乗っていることが多いですね。落とし込みの最中でも着底直後でも、アタリを感じたら電動を巻き上げて乗りを確認します。何もなければ、そこから指示ダナの上限までシャクっていきます」
イカ釣りでは一般的に早く仕掛けが落ちた人が釣れやすい。そのため合図とともにトラブルなく仕掛けを投入できるのは必須なのだが、着底ばかりに集中せずその前も意識できると釣果が一歩伸ばせるそうだ。
「やっぱり奥は深いですよね。上手く釣れるといいんですが……」と阪本さんの表情も真剣モード。朝イチの第1投は船中アタリなし。一度仕掛けを回収する。すぐに奨船長がレーダーの反応を見ながら船を移動させた。
カンナにイカの墨が付いていたり切れた腕(触手)が残っていると釣果が落ちるので歯ブラシで掃除する。やまはち丸では船上に用意されていた
ツノを投入器へ再回収する方法(ブランコ仕掛け)
巻き上げの後半はサオ受けにサオをセット。巻き上げ終わったらサオを立ててミチイトを手に取り、まずサオ受けのイト留めにミチイトをセットする(仕掛けが落ち着き作業をしやすくなる)。そこから両手でミチイトをたぐり、まず一番上のプラヅノを投入器側の手でしっかりキャッチする
プラヅノを掴んだ手を上へいっぱいに伸ばし、同時に反対の手を下に伸ばして下のプラヅノ(もしくはその近くの幹イト)を掴む。この作業がスムーズにできるように、ツノ間は自分が両手を伸ばした時に無理なく届く長さにしておくとよい。イカが付いている場合は途中でプラヅノのひっくり返しイカを船内に落とせばOK
上のプラヅノを投入器に戻す(手前から順にカンナ側から筒に入れる)。そのまま次のプラヅノを先ほどまで上のプラヅノを持っていた手で掴み直して高く持ち上げ、あとは同じ作業を繰り返して最後のオモリまで回収すれば投入器への再回収が完了

シャクリは大きくていねいに。朝の時合を逃さない

「シャクリの基本は大きく持ち上げて一度ストップ。反動でオモリがストンと落ちるのを感じながら、サオ先の変化をよく見てください。乗りがあればサオ先がグングンと動きますので、電動リールをオンにして合わせましょう。初めはゆっくり巻き上げます」
「乗りがなければ、再びサオを下げてシャクリを繰り返します。指示ダナの上限までやってダメだったら、一気に20mほど巻き上げて落とし直してください」
シャクリは1回1回をていねいに。サオ先の変化をよく見ること
オモリ着底後に乗りがなかったらイトフケを取ってシャクリを開始。スタートはサオ先を下げた位置から
海中でプラヅノがしっかり躍るように、サオ先でオモリをまっすぐ引き上げるイメージでグイッと大きくサオをシャクる。コツはせわしく動かすよりも1 回ごとの誘いに集中すること
ストンとオモリが落ちるのを感じながら、サオ先を注視して変化を見る。アタリがあれば電動を巻き上げて乗せる
このほか、スルメイカ釣りのシャクリでは、電動を常に低速巻きにした状態でイトを張りながら少しずつタナを上げてシャクる方法もよく用いられる。この場合でも、サオの操作自体は基本的に同じだ。
そして、日中のスルメイカ釣りのチャンスタイムはずばり朝方。訓船長いわく、「釣果が伸びる時はだいたい朝の2~3時間がひとつの山場になります。ここでしっかり釣っておくのが大切ですね」。この日も昼に近づくほどスルメイカの足(移動)が早くなり、レーダーに群れが映ってもその上に船を付けるのが難しい……という場面が増えた。「朝のまだ寝ぼけているイカをしっかり釣りましょう(笑)」という冗談半分の言葉にもそんなスルメイカの行動パターンが影響していると考えてよさそうだ。
スルメイカが乗ると腕にはずっしりとした重量感が伝わる。追い乗りがあった時は「さらに重くなった!」と興奮すること間違いなし
釣り開始から30分ほど経ったところで、まずは阪本さんと反対側の左舷のお客さんたちがバタバタっと一人3~4杯の多点掛け。そのようすにチャンスは近いと集中。阪本さんもいっそう丁寧にシャクリを始めたところで、ググンと待望の感触が来た。
「底から10mくらいで来ました! これはしっかり乗ったかな~」と会心の笑みの阪本さん。上がったのは2杯。ぷっくりと太って美味しそうなスルメだ。その後はバラシも交えつつ、最高で3杯がまとまる多点掛けも決まった。
隣の訓船長も直結仕掛けでテンポよくイカを掛けていく。「やはり指示ダナ上限からの落とし込みで触りがあるケースがけっこうあります。とはいえ、これからはアタリももっと明確になっていくでしょうし、どんどん釣りやすくなってくるはずですよ」
朝方の釣果が出てほっと一息の阪本さんは、イカのさばき方もあらためてレクチャーしてもらい大満足。
「マルイカのような繊細なイカ釣りも面白いですけれど、スルメイカはやっぱりずっしりとした手応えが気持ちいいです! アタリかな?と思ったあと、ズシン、ズシンと一気に重量感が増していく感覚はやみつきになりますね。次は船長のように落とし込み途中のアタリも取れるようになりたい」
朝の時合を中心に着実に釣果を伸ばした阪本さん。「帰ってからの調理も簡単なイカ釣りは手軽で最高です!」

イカ釣り名物「船上干し」の方法

イカの旨みが増す船上干しはスルメイカ釣りの名物。晴天でなくても雨さえ降らなければ美味しい風干しができる。持ち帰りもしやすくなりいいことづくめ!
スルメは足もとに泳がせておき少し弱ってから移動の合間などに処理。まずエンペラを下にし、筒の中央を下から上にハサミで切り開く
筒に手を入れ、墨袋と肝(写真中の黄金色のきれいな部分)を傷つけないようにしながら内臓全体を抜き取る
内臓をきれいに取り、身の両側に付いている白くモヤっとした部分を取る。これをしっかり取らないとあとで臭いの元になる
目の間にハサミを入れて真ん中をしっかり切り開く
切り口をひっくり返し、目玉2 つとトンビ(口)を内側からもぎとる
目と口の周りにも臭いの元になるクリーム色の汚れがあるのでしっかり取り除く。ここまでやったら一度海水できれいに洗う
イカの身が丸まらないように筒の下側に写真のように横から竹串を刺す
さらにエンペラの下あたりに縦方向に竹串を通す
縦に刺した竹串をロープに引っかけてから落ちないように縫い刺せばOK。スルメの身はしっかりしているのでこれで船が揺れても落ちない
小型は沖漬けもおすすめ。この日サオ頭だった増田肇さんも沖漬け愛好者。「帰ってから刺し身と同じように食べると最高ですよ」