順調に進む会社側見通しの変更

今回の2023年7-9月期の決算発表時には、会社側の通期業績見通しの動向にも注目が集まりました。例年、4-6月期の決算発表が行われる7月~8月にかけては、会社側の見通しの変更は少数にとどまりますが、年度の半分が経過した7-9月期の決算発表が行われる10月~11月には一気に会社側の見通しの修正件数が増加する、という季節性が存在します。今年も57.3%とほぼ例年並みの企業がこれまでに通期業績見通しを修正しています。なお修正した企業のうち、3社に2社は上方修正となっており、個別企業の景況感は良好です。

この結果ラッセル野村ラージキャップ(除く金融)の、2023年度通期会社側予想経常増益率は、9月月初時には前年同期比1.6%の減益でしたが、11月14日時点では4.9%増益に上方修正されています。

現在の会社側通期経常利益見通しに対する、第1と第2四半期の累計利益の比率、いわゆる進捗率は54.2%となっており、過去10年間の平均とほぼ同じ水準です。この進捗率には、グレーの線であらわされている第2四半期の決算が発表された時点の予想利益に対する進捗率と、赤い線であらわされている通期業績が確定した後に事後的に計算される進捗率の2種類が存在します。

グラフを見ると、人民元ショックのあった2015年度や、コロナ禍が直撃した2019年度など事前に予想が難しい事態が起きない限り、赤い線、即ち事後的に計算される進捗率のほうが低くなっています。これは、各年度の下期のどこかで再度会社側が利益見通しを上方修正したことを示しています。会社側の利益見通しは、株価へのインパクトが強いことが知られており、今後の会社の利益見通しの方向性に注目が集まります。

アナリスト予想の修正も進む

2023年7-9月期決算が出そろい、併せてアナリストによる通期業績予想の修正も進んでいます。ラッセル野村ラージキャップ(除く金融)の2023年度予想経常利益は、11月14日時点で前年同期比9.2%増益と、9月月初時点の予想にくらべて2.3%ポイントの上方修正となっています。アナリストによる予想経常利益の上方修正は、2023年9月月初に続き2四半期連続となります。

今回の通期業績の上方修正の要因を、2023年7-9月期の業績動向から探ってみることにしましょう。まず業績を取り巻く環境から整理しておくと、7-9月期は米ドル円レートが前年同期比6円の米ドル円安、鉱工業生産は前年同期比3.5%の減少でした。体感的には、円安が進んだ印象ですが、実際には前年同期も円安が進行していたことから利益の押上効果は僅かでした。また、生産も自動車などで挽回生産が本格化したものの、中国の不振により電子材料や電子部品、資本財などが苦戦し、利益の押し下げ要因となりました。その結果、7-9月期決算では、為替および生産以外の、『その他要因』が業績を大きく押し上げる形となりました。その他要因の中身は局面ごとで異なりますが、今回の場合は、昨年来企業が推し進めている、コスト増加分の価格転嫁が顕在化したものと考えられます。事実、7-9月期のラッセル野村ラージキャップ(除く金融)の営業利益率は8.5%と過去最高でした。こうした価格転嫁の進展は今後も続くと、多くのアナリストが考えており、通期業績予想の上方修正につながりました。

(野村證券投資情報部 伊藤 高志、澤田 麻希)

(注)画像はイメージ。

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