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債務整理

お金を貸している人に債務整理されたらどうする?手続き別の対応法について解説します

お金を借りる人がいれば、逆にお金を貸す人も存在します。

債務整理に関する疑念や心配は、主にお金を借りる側の人から出てくる場合が多いですが、一方で、お金を貸した側にとっても、債務整理は初めての経験であることがよくあります。

そのためか、相手方が弁護士や司法書士を雇って債務整理を始めた通知を受け取って初めて、債務整理の存在を知り、適切な対処方法がわからず戸惑うケースもしばしばあります。

この記事では、債務整理をされてしまった場合の対応法を「任意整理」「個人再生」「自己破産」の債務整理の手続ごとに解説します。

任意整理された場合はどうすればいい?

任意整理されても基本的にはお金は戻ってくる

「任意整理」とは、借金をしている人(これを「債務者」と呼びます)が、借金の返済が難しくなったときに、借金をした相手(これを「債権者」と呼びます)と話し合って、月々の返済額を減らしたり、利息を減らしたりするように、新しい返済計画を合意する手続きのことです。

任意整理はのちに述べる自己破産や個人再生のような「借金減額の手続」というより、「返済計画の見直し」という面が強く、あくまで「借りたお金は返済する」という内容で合意をされることがほとんどです。

そのため、ほとんどの場合は、貸したお金は全額が返済されることとなります。

具体的には、100万円を貸して、毎月5万円を支払うと約束をしていた場合、「毎月の返済額を3万円に減らしてほしい」とか、「しばらく支払いをしていなかったけれど、遅延損害金は取らないで欲しい」とか、そういった約束の変更になることが多いと言えます。

個人間の借金の整理は難航することも

ただし、個人同士の借金の場合、任意整理の合意を得るのは難しいことがあります。

まず、借金をした人と借金を貸した人が、新しい返済計画に合意できない可能性があります。

よくあることですが、お金を借りるときには、どうやって返すかの計画が甘くなることがあります。

なぜかというと、借金をするときというのは、債権者の気分を損ねないためにも、借りる側もニコニコと良い顔をして、勇ましいことを言うものであるためです。

そのため、「1年で全部返す」「毎月少なくとも〇万円ずつ支払う」など言葉だけ大きいことを言う人がたくさんいます。

しかし、最初の計画が甘いので、どこかで返済が苦しくなって、途中で返済がうまくいかなくなることも多いのです。

その結果、借金を貸した側は「最初は1年で返すって言っていたのに」「毎月〇万円払うって言ったのに、それが嘘だったのか」と、納得いかない思いをすることがよくあります。

当然、怒る気持ちもわかることですよね。

だからこそ、債権者側が納得できなくて、新しい計画に合意できないことがあるのです。

その次に、個人同士の借金の場合、お金の貸し借りに関する証拠が足りなかったり、借金の際にした約束に問題があったりすることもあります。

普通の人は借金の専門家ではありません。

法律や規則について詳しい人は少なく、契約書や借用書の作成にも熟練している人はほとんどいません。

そのため、契約書の内容が不十分だったり、法令に違反するようなことが書かれていたりすることもあります。さらに、契約書が存在しないこともよくあります。

口頭での合意だけで進んでいる場合、借金の額や返済状況が確定できないため、任意整理の交渉が難しくなります。

そして、個人からお金を借りる人の中には、現実的な問題として、お金に関して問題がある人も多いということです。

通常、借金の借入先として候補に挙がるのは、第一には銀行や信用組合、消費者金融などが選択肢に入るでしょう。

それらの「普通の選択肢」を選ばずに「個人融資」に頼る人というのは、信用情報に問題があるか、過去に金融トラブルがあって貸金業者から貸してもらえなかったり、収入が少なすぎて貸金業者もお金を貸せなかったりするような、審査を通過できない人かもしれません。

こうした人に関わると、任意整理の途中で逃げ出して行方をくらますことがよくあります。

以上の理由から、個人同士での任意整理を行う場合、返済計画に合意することや回収できるかどうかは不確かな要素を含むことを覚えておくことが重要です。

解決が難しい時は、裁判も視野に入れる

任意交渉で支払いの合意が難しい場合、回収手段としては裁判を起こす方法が主な選択肢です。

日本は法治主義の国であり、裁判による判決を得て、裁判所を通じて強制的に回収する以外の債権者向けの手段はほとんどありません。

また、任意整理には法的な強制力がないため、約束を守らなかった場合でも、ただちに強制的な回収手続きに移行することはできません。

裁判所を通じて手続きを進めることが、債権者として最も確実な方法であることを頭に入れておいてください。

ただし、訴訟を進める際には費用や手間がかかることがあります。

また、回収しようとする金額によっても、最適な方法は変わってきますので、裁判を検討する場合は、弁護士や司法書士といった訴訟に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

個人再生された場合はどう対処する?

個人再生されると、全額の返済はされなくなる

個人再生とは、借金の問題を抱える人(債務者)が、裁判所の協力を得て新しい返済計画を作り、その代わりに借金の一部を減らして返済する手続きです。

個人再生が成功すると、多くの場合、借金の額を元の5分の1にまで減少させることができ、最大で借金の10分の1まで減らすことも可能です。

この手続きを通じて、借金の返済を軽減したり、再建したりすることができるのです。

しかしながら、個人再生を行うことで、債権者は損害を被ることになります。

債務者の借金返済が元の金額の5分の1から最大で10分の1まで減少することは、債権者の側から言えば、通常は全額の返済を受けるはずだったのに、その一部しか返済を受けられない可能性があるということです。

この結果は、裁判所が借金減額を認めた場合、債権者にとっては避けられない結果なのです。

個人再生を阻止する方法はある?

上記の通り、個人再生を許可することは、債権者が十分な返済を受けられないリスクがあることを意味します。

そのため、それらの不利益による不公平や不満足を可能な限りカバーするために、個人再生の手続きの前後には、債権者に異議を述べる機会を用意するなどして、権利を保護する方法が用意されています。

以下では、個人再生の手続き中に、債権者が取れる方法について説明していきます。

具体的には、手続き前の裁判および財産の差し押さえ、手続き中の債権者が再生計画に反対する決議などに焦点を当てて説明します。

債権者が再生計画を決めるチャンスがある

個人再生の手続きは、次のようなステップで進みます。

1.借金の一部を分割払いする「再生計画」という案を債務者が作成します。

2.裁判所がこの再生計画を認めるかどうかを判断します。認められれば、計画が有効となります。

3.再生計画に従って支払いを完了すると、残っている借金が免除されます。

この、2の段階で裁判所が再生計画を認めなければ、借金の減額は実現しません。

個人再生では、普通は「小規模個人再生」という方法が選ばれます。

小規模個人再生には、「債権者による再生計画案の書面決議」という制度があります。

これは、債権者が個人再生に賛成か反対かの意見表明をする機会を持てるようにするための仕組みです。

債務者が作成した再生計画案に対して、債権者の半分以上が反対するか、借金総額の半分を超える反対があると、再生計画案は却下されます。

そして、再生計画案が却下されると、裁判所は再生計画を承認できません。

その結果、手続きが中断され、個人再生は失敗となり、借金の減額が行われない状態になります。

もっとも、個人再生の手続にはもうひとつ「給与所得者等再生」というものがあります。

これは、「債権者による再生計画案の書面決議」を経ないで、個人再生をすることのできる手続きです。

こちらを利用された場合は、個人再生に対して、債権者が賛成や反対の意思表示をすることはできません。

ただ、給与所得者等再生では、借金の総額の基準、持っている財産の基準の他に、2年分の収入の基準を比べて、一番多い金額を基準にして支払い額を決めることになります。

ですから、特に収入がちゃんとしている場合、2年分の収入の基準が他の基準よりも高くなることがよくあり、給与所得者等再生の支払い額が高くなることがあります。

そのため、小規模個人再生と比べて、返済される総額は多くなることが多いです。

手続き前であれば、裁判をしてお金を差し押さえることもできる

任意整理の項目でも説明した通り、相手が任意で支払いをしない限りは、強制的な解決を図る必要があります。

裁判を確定させたのちに、勤務先が分かっているなら勤務先への差し押さえ、口座を知っているなら銀行の支店に対して、差し押さえを行うのです。

ただしこれには実効性があるかは疑問です。

なぜなら、「個人再生開始決定」が出たら、債務者は執行されている給与差押えを停止するために、給与差し押さえを執行している裁判所に「差し押さえの中止申立」ができます。

そして、裁判所はこれを受けて、中止決定を出します。

この中止決定は、差押えを行っている債権者の差し押さえをストップし、勤務先や銀行に対して、債権者への支払いを止めるように求めるものであるからです。

また、裁判はどれだけ短期に終わったとしても数か月の時間を要しますし、相手の勤務先や口座を調べるために時間を要する場合があります。

その調査をしている間に、個人再生を申し立てられてしまうと、裁判を通じたお金の回収はできなくなってしまいます。

個人再生した相手からお金を受けとる方法は?

では、相手が個人再生を行ってしまったら、お金を回収する方法はなくなってしまうのでしょうか。

「個人再生されると、全額の返済はされなくなる」でも説明しましたが、個人再生の手続きが認められてしまうと、貸していたお金の全額を回収することは難しくなってしまいます。

しかし、個人再生が終わっても、返済義務が免除されただけで返済してはいけない、ということではありません。

もし、債務者が任意に全額の返済をすると申し出た場合は、それを受け取ること自体は問題がないのです。

以下で、1つずつ説明していきます。

再生計画に従い、一部の借金は返済される

個人再生の再生計画が認可された後、計画に従い、各債権者に対して、債務者から借金の返済がなされます。

これによって、減額されたものではありますが、一部の借金に関しては、返済を受けることが出来ます。

なお、返済される金額は、「借金の総額」と「持っている財産の価値(現金、預金、保険解約返戻金、車、不動産、退職金、家財道具、他の差し押さえ不可の財産などの清算価値)」を比較して、金額が大きい方を基準に、以下のように決定されます。

確定した借金の額最低弁済額
100万円以下そのまま残る(借金が減額されない)
100万~500万円100万円
500万~1500万円5分の1
1500万~3000万円300万円
3000万円~5000万円10分の1

個人再生手続き完了後に任意に支払う分には受け取っていい

債務者が個人再生の手続きを終え、全ての債権者に対する支払いが完了した後は、借金の返済の義務はなくなります。

これ以降、債務者は借金を返さなくてもいい状態になり、債権者からの訴訟や強制執行の心配はありません。

ただし、債務者が自分から返済しようとすれば、債権者はその支払いは受けても問題はありません。

ただし、注意が必要です。

個人再生の手続き中に特定の債権者に支払いを約束させることや、「口だけでは信用できないから」と書面に署名させることは、個人再生の手続きを失敗させる原因となり、債権者、債務者共に不利益となります。

あくまで、手続の完了後に、任意の支払いを受けることができるということは、覚えておきましょう。

自己破産された場合、どう対処する?

自己破産されると借金の返済義務はなくなる

自己破産は、借金の残高が大きすぎるために完済が困難だという人が、裁判所に頼んで、手元にある資産や財産をすべて清算して債権者への返済に充てたうえで、残りの借金を免除してもらう手続きです。

簡単に言うと、自己破産が認められると、借金の支払い義務がなくなるということです。

ですので、自己破産をされてしまうと、財産の清算部分がある場合に限って返済が受けられ、残りの部分は回収をあきらめることとなってしまいます。

ただ、破産をする人の借金の理由は、生活費や目の前の出費の補填がほとんどです。

大半の人は、手元に資産やお金がないから自己破産をするのであって、贅沢や浪費、高級品の購入などで破産する人は珍しいのです。

そのため、清算するような財産もないケースの方が多く、清算を受けられるケースは例外的と言っても良いでしょう。

債権者が反対する場合、自己破産の手続きが阻止できる場合もある

破産手続き中、債権者は債務者の自己破産に反対をする手続きをとることができます。

債権者は破産手続き開始後、債務者の借金を許すかどうかについて異議を申し立てることが出来るのです。

具体的には、免責不許可の理由を述べて、自己破産が適切でないと主張します。

免責不許可事由とは、破産法第252条で定められた「これに該当する場合は、免責を許さない」という事項です。以下の行為が、該当します。

  1. 債権者を害する目的で財産を隠したり、損壊したり、債権者に不利益な処分をした場合。
  2. 破産手続きの遅延を図る目的で、不利益な条件で債務を負担したり、商品を不利益な条件で処分した場合。
  3. 特定の債権者に特別な利益を与えたり、他の債権者を損害するために義務に反する担保提供や債務消滅行為を行った場合。
  4. 賭け事や浪費などで財産を減少させたり、過大な債務を負担した場合。
  5. 破産手続き開始の1年前から破産決定が出るまでの間に、免責不許可の事実があるにもかかわらず、詐術を使って財産を取得した場合。
  6. 帳簿や書類を隠したり、偽造したり、変造した場合。
  7. 虚偽の債権者名簿を提出した場合。
  8. 裁判所の調査で説明を拒否したり、虚偽の説明をした場合。
  9. 不正手段で破産管財人や保全管理人の職務を妨害した場合。
  10. 免責許可の申請日から7年以内に特定の条件が該当する場合。

裁判所や破産管財人は、債権者の異議の理由を調べて、免責不許可の事由があるかどうかを判断します。

そして、免責不許可事由があり、その内容が特に悪質な場合、自己破産が認められないことがあります。

ただし、自己破産を止めるのは難しいことが多い

ただし、異議を申し立てても、裁判所が免責を認める可能性は非常に低いのが現実です。

たとえば、ギャンブルで借金をしてしまった場合でも、反省して協力的な態度を示せば、免責が許可されることがあります。

同様に、浪費や投資の失敗なども同じです。

さらに、免責不許可の理由に該当していても、裁判所は状況によって判断を下すことがあります。

つまり、裁量によって免責を認めることがあります。これを「裁量免責」と呼びます。

したがって、実際に免責が認められないのは、財産を隠したり、他人をだまして借金をしたり、裁判所の指示を無視するような極めて悪質なケースや、何度も破産手続きを行う場合です。

そのため、異議を申し立てたとしても、免責が認められない可能性は高いです。

自己破産した人からお金を取り戻すには?

自己破産した人の財産を処分して、配当をしてもらう

自己破産手続きが始まると、少なくとも一部の借金を返してもらう機会があるかもしれません。

この、清算した財産の配当を受けるためのポイントを以下に説明します。

最初に、自己破産の通知が届いたら、まずその状況が管財事件かどうかを確認します。

自己破産には同時廃止事件と管財事件の2つの種類がありますが、管財事件の場合には少額の配当を受けられる可能性があります。

その後、配当を受けるためには「破産債権届出書」や他の必要な書類を提出する必要があります。

これを怠ると、配当を受けることができないかもしれません。

免責決定後、相手の任意でお金を払ってもらうことは問題ない

個人再生と同様に、自己破産の手続きが完了した場合は、借金は返す義務のない自然債務となります。

そのため、債務者が返済するといったお金を受け取る分には問題はありません。

ただし、注意が必要なのは、自己破産の手続き前や、手続き中に債務者から不当な財産を受け取ることです。

自己破産の直前や支払い不能後に特定の債権者だけに返済を行ったり財産を与えたりすると、詐害行為や偏頗弁済(免責不許可の理由)に該当することがあるからです。

自己破産においては、すべての債権者を平等に扱うことが求められます。

そのため、平等ではない返済を受けた債権者は、その財産を破産管財人に取り戻される可能性があります。

これは、「否認権」と呼ばれる権利です。

「自分だけに優先的に返済してもらおう」と考えても、実際には無駄なことです。

ですから、手続きを進める前に債務者からの返済や財産受け取りには注意が必要です。

まとめ

任意整理をされた場合、基本的には全額の返済が受けられる。

ただし、交渉がうまくまとまらなかったり、債務者が逃げ出したりすることも多く、最終的には裁判で決着しなければならないこともあります。

個人再生をされてしまった場合、一部のお金を回収するチャンスはあるが、全額は難しい。

小規模個人再生の場合は、異議を述べるチャンスはあるが、給与所得者等再生ではない。もっとも、給与所得者等再生の場合は、返済額が多くなることも多いです。

自己破産をされてしまった場合、貸したお金を回収できる可能性は非常に低い

最後になりますが、債務者に債務整理をされてしまった場合、まずは冷静になって、弁護士や司法書士に相談をすることがおススメです。

債務整理をされて気分のいい人はいませんし、「裏切られた」「嘘をついていたのではないか」と文句を言いたい気持ちはわかります。

ただ、する側にはする側なりの事情というものもありますし、債務者だって騙してやろうと思ってお金を借りているわけではないでしょう。

債務整理の通知が届いたことに激高して、無茶な取り立てや執拗な督促を行った結果、警察沙汰になってしまったというケースは実際にありました。

債務整理に被害者、加害者がいるわけではありませんが、無理な取り立てや執拗な督促は明確に相手が被害者です。

自ら立場を悪くしないためにも、債務整理されたケースでは、弁護士や司法書士に相談し、適切な対応方法を教えてもらうことが重要です。