映画の新しい楽しみ方として注目を集める「爆音上映」。2004年に吉祥寺バウスシアターで爆音上映を始め、2008年から現在まで全国各地で爆音映画祭を企画・制作してきた樋口泰人さん。
今回、爆音映画祭の楽しみ方とまもなく開催される「爆音映画祭2015 in FUKUOKA」上映ラインナップ作品についてインタビューしました。
【爆音映画祭とは】
通常の映画用の音響セッティングではなく、音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、大音響の中で映画を観・聴く試み。(引用:http://www.bakuon-bb.net/)
頭で理解するより、カラダ全体がニヤリと感じる瞬間
―樋口さんほど経験を積まれていると、どんな映画が爆音向きかが事前に分かるものですか?
それがこればっかりは、やってみないと分からないんですよ。
―えっ、そうなんですか!?
初めて上映する作品は、自宅でヘッドホンで聴いて予習していくんですけど、これが全然役に立たない(笑) その映画の中でどこの音が一番大きいかチェックはできるけど、どうやったら爆音で面白くなるのかは、その場でやってみないとほとんど分からない。そこがまた爆音の面白いところです。
―最近はどのような作品を?
今年の8月に山口県で映画祭をやった時は、天井にスピーカーを埋め込んで『地獄の黙示録』をやりました。『地獄の黙示録』の公開当時って、メインの上映館では本当に天井にスピーカーをつけて上映していたので、やってみようと。それから『未知との遭遇』も上映したんですけど、本当に上から宇宙船が降りてくるような感覚になって面白かった(笑)
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来年は床下にもスピーカーを入れて『プライベート・ライアン』を上映しようと思ってます。目に見えない戦車の地響きがリアルに足下から聴こえてくるっていう。
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―それは、ゾクゾクしますね!映画の「爆音調整」はいつもどのように行っているのでしょうか?
その場その場で音の響き方はまったく違うので、まず音を出してみて、その映画の中で一番大きい音を出した時に機材がどの程度まで大丈夫なのかを確認しつつ、セリフが聞き取れるかどうかを確かめます。あとは、映画がそれまでとは違って見える感じ。その感じが出て来たら、ようやく「爆音」として盛り上がり始めますね。
―かなり感覚的で難しい作業ですね。
音によって映画の見え方が変わってきた感触を確かめつつ、「この音をもっと大きくしたら面白くなるかな」という風に、映画と対話していく感じです。対話していく中で、ピンとくるものがある。頭で理解するというよりも、カラダ全体がニヤッとするような瞬間があるんですね。
面白い音を作ろうとしているというよりは、爆音設定にすることで映画が面白く見えるようにしていく作業、かな。音を大きくした時に、映画自体の見え方が変わってきたらOKっていう、そんな感じですね。
―先ほどの『未知との遭遇』のように、上映会場によって色々な企画をされているとお聞きしました。
会場自体が色々と対応してもらえると面白いんですよ。スピーカーをどこに置くかという問題もすごく大きいし、スピーカーの向きや位置をちょっと変えるだけで全然変わってくる。スピーカーを積み上げてタワーにしたこともあったくらい(笑)色々試行錯誤してます。音の調整はもちろんですが、どういう空間を設計するかを考えるのも面白くて、遊び場をつくるような感じですね。
―早速ですが、今回の爆音映画祭の上映作品について教えてください!
抜群の爆音シンクロ率!『ブルース・ブラザース』(1980)
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『ブルース・ブラザース』は、福岡でたしか2年前に爆音でやっているんですよ。今回はそのアンコール上映です。この映画は音楽も楽しめるし、何より映画で遊んでる感じがいい。さきほど言った「遊び場をつくる」という爆音のコンセプトと、この映画がやっていることがすごくシンクロする。爆音にフィットする作品ですね。
ただ、音楽がきもちよく聴こえないと観た気にならないので、会場の機材の力が問われる。今回新調されたという西鉄ホール(「爆音映画祭2015 in福岡」の会場)のスピーカーでどうなるかが楽しみです。
音楽と映像の新しい爆音融合、『フットルース』(1984)
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『フットルース』は初爆音です。映画祭開催地の福岡女子から「ぜひ観たい」と熱烈なプッシュがあった(笑) 爆音でどうなるかが楽しみです。
この映画は、『ブルース・ブラザース』のちょっと後くらいの作品で、ちょうど映画と音楽の親密さが強くなった時期の映画でもあるんです。この頃からアーティストのミュージックビデオも盛んになってきて、そういう時期の目立った作品のひとつ。それまでの映画とは違うということで、「音楽と映像しかなくて、物語がない」と批判されたりもした映画なんですけどね。それが爆音でやると、絶妙にシンクロするんじゃないかと。
爆音で音と映像の関係も増幅されるから、単純にカラダで音楽を楽しむこともできるし、映画史の知識を踏まえて新しい作品の見方もできる。爆音ではいい融合ができるんじゃないかと思ってます。福岡女子の皆さんにも、楽しんでもらえると思いますよ。
イナゴの大軍に圧倒される!『エクソシスト2』(1977)
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『エクソシスト2』は、完全に僕のイチオシ。実は、絶対に爆音でやりたい作品が何本かあって、その作品というのがコッポラ監督の『ドラキュラ』とゴダール監督の『ゴダールのリア王』。これをやったら、爆音上映を辞めてもいいと言っていたくらい。それを両作品とも去年と一昨年でやっちゃった(笑)
そこであらためて考えてみると、『エクソシスト2』をやりたいなと。それというのも、完全にイナゴ。イナゴの大軍が家をぶち壊すっていう普通じゃ考えられないこの作品をテレビで観てあきれた(笑) 大好きな映画の1本なんです。それと、この映画を爆音上映した時に判明したんですけど、全部モノラル録音だったんですね。
―モノラル録音だとどんな違いがあるのでしょうか?
音のトラックがひとつなので、セリフも環境音も音楽も全部おなじトラックに入っている。つまり、「この映画のこの部分の音楽を聴かせたい」って思って音量を大きくすると、他の音も一緒に大きくなっちゃう。だからものすごく難しい。これはヤバいなと。でも、それが全然問題なかった。
この映画は、音を大きくしても大丈夫なような絶妙なバランスですべての音が入っていたんです。会話の時はきちんとセリフがメインで作られていて、イナゴが攻めて来る時はイナゴの羽音がドーンとデカくなってる、というように、音量のバランスはOKであとは音質のバランスをとるだけだった。
―実際に観る方も、ステレオとモノラルの違いは感じられるでしょうか?
モノラルだと音が塊で来るので、まるで実際に自分がイナゴに襲われているような気分になるんですよ。迫力が違う。『エクソシスト』の続編なんて知らない人が多いと思うんだけど、これは何も知らずに観ても充分楽しめます。映画の登場人物のように、イナゴに食い殺されるなんて馬鹿な話だと思っていたら、本当にイナゴに食い殺されてしまうという臨場感が味わえる。
フィルム時代の終わりの音に耳をすませ!『マトリックス』(1999)
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『マトリックス』シリーズって、デジタル映画時代の先駆けのようなイメージを持っていたんですけど、考えてみたら1作目は違うよなと。この『マトリックス』では金属と金属がぶつかる音や歯車が動く音が聴こえてくる。油のにおいや手が汚れちゃうようなイメージをする音です。そんな中でデジタル時代の話をしているわけですね。
―『マトリックス』は1999年、21世紀直前の作品でもありますね。
そう、この映画はフィルムからデジタルに変わるちょうどその境い目に位置する作品。21世紀直前、映写機による上映が終わる、つまりフィルム時代の終わりの音としてもすごく面白い。
それから、この作品には人間とはまた別の力が働いて時代が変わっていく、その圧倒的な動きも感じられる。世の中の変わり目も体感できますよね。そういえば、去年に大友克洋監督の『スチームボーイ STEAMBOY』も爆音上映して面白かった。
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あの作品は19世紀から20世紀に変わる時代の音がある。『マトリックス』は、20世紀から21世紀。爆音映画祭の“世紀シリーズ”といったところですね。
奇才デビッド・フィンチャーの音作りとは?『セブン』(1995)
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デビッド・フィンチャー監督の音作りって面白いなとずっと思っていて、この『セブン』でもきっと細かいところにいろんな音が入っているに違いないと。そうしたら、案の定イヤーな感じの音が入っていた(笑) 爆音上映って大きい音に打ちのめされる体験もいいんですけど、なんでもないようなシーンでもその映画の空気感が音によってスーッと伝わってくる、そういう面白さもあると思うんです。
―一味違う爆音の楽しみ方ができそうですね。
物語を語る上で必要な音しか入っていない映画って、空気感に欠けてしまう。ちょっとした余計な音が入っているだけで、登場人物たちがどんな時代に生きて、どんな気持ちを抱きながらそこに存在したのかが、じんわり皮膚感覚で伝わってくるんですよ。フィンチャー監督は、そういうめちゃくちゃ細かいところにもちゃんと手を加えている。
登場人物たちの背後にある音が立ち上がってくることによって、その背後感が観ている方の背後にも迫ってくる。『セブン』は、まさにそうそういう音作りをしている。背中のあたりがザワザワする感じ。爆音ならではの小さい音の面白さですね。
『地獄の黙示録』や『恋する惑星』などの爆音上映を語る続きは後篇へ
※2022年9月28日時点のVOD配信情報です。