日比、「準同盟」へ一歩=対中国で共同歩調 2023年11月03日

 【マニラ時事】岸田文雄首相はフィリピンのマルコス大統領との会談で、中国を念頭に東・南シナ海情勢への深刻な懸念を共有した。両首脳は、米国も含めた安全保障協力の強化を確認。中国の急速な軍拡を受け、同盟国米国以外にも「準同盟国」の輪を広げたい双方の思惑が一致した。
 首相は共同記者発表で、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する」と語った。マルコス氏と交渉入りで合意した自衛隊と比軍の「円滑化協定(RAA)」は、締結されればオーストラリアと英国に続いて3例目。日本の準同盟国と位置付けられる英豪、安保協力が緒に就いたインド、韓国に加え、フィリピンも柱に据える形で多面的な中国への抑止力としたい考えだ。
 英豪とはさらに、機密情報を共有する「情報保護協定」や、燃料などを融通する「物品役務相互提供協定(ACSA)」を締結済み。今回の訪問を契機にこうした分野の協議も加速するとみられ、政府関係者は「日比関係にとって歴史的な訪問」と強調する。
 現場では既に協力が進んでいる。陸上自衛隊は今月、フィリピンで米比両国の海兵隊と共同訓練を実施。離島奪還計画の立案を担う部隊幹部交流に初参加する。海上自衛隊が今月、日本周辺で米豪やカナダの海軍などと行う共同演習には比海軍が初めてオブザーバー参加する。
 こうした協力が容易になったのは、フィリピンを取り巻く環境変化が大きい。2022年6月、「親中派」とされたドゥテルテ政権から交代。以来、バイデン米大統領との会談も複数回行うなど、米比関係は着実に改善している。
 中国の動きも、米国や日本への接近を後押ししている。8月下旬に中国が発表した新国土地図は南シナ海の大部分を自国の領域と主張し、周辺国が反発。10月には、中比が領有権を争う海域で両国船舶の衝突が相次ぎ、緊張が高まる。
 首相は、4日には比議会での演説で「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた東南アジア外交の戦略を打ち出す。日本の首相が比議会で演説するのは初めてで、「厚遇」の背景には、米国と強固な同盟関係を持つ日本との結び付きを対外的にアピールしたい比側の事情もありそうだ。マルコス氏は共同記者発表で「首相の訪問は2国間関係の可能性を表している」と歓迎した。 

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