一昨年の菜の花忌。司会の古屋さんは左端(撮影/写真映像部・小林修。以下同)

 いまも多くの読者をもつ作家司馬遼太郎さんをしのび、作品を考える「菜の花忌シンポジウム」。2024年は2月12日の休日に、東京都文京区の「文京シビックホール」で開催される。27回目のテーマは『街道をゆく』。司会は例年通りに元NHKアナウンサーの古屋和雄さん(文化外国語専門学校校長)が担当するが、今回で勇退することを決めている。古屋さんに、「菜の花忌」への思いを聞いた。

【写真】司馬さんの背広を着た古屋さん、背広の裏には「司馬」の刺繍が

来年の「菜の花忌」で勇退する古屋和雄さん

 2時間あまりのシンポジウムを最後に締めるのは、古屋さんの朗読。菜の花が飾られ、テーマソングの「青い空」(杉本竜一氏作曲)が会場に流れるなか、作品の核心的な部分を綴った司馬さんの文章を、古屋さんは淡々と語り、余韻が観客たちの間にひろがる。

「帰り支度をしている人もいるし、長いと飽きられちゃうから2、3分ですね。読む部分を何人かと相談して決め、準備していますが、ときに常連の磯田道史さんがその部分を話題にしてしまうこともある(笑)。シンポジウムは生き物ですからね。あまり細かい打ち合わせはしないんです。なので、予備をいつもいくつか用意しています」

 司馬夫人の福田みどりさん(2014年没)にもらった、司馬さんの背広を着て登壇することが多い。

菜の花忌には司馬さんの背広を着て登壇する。背広の裏には「司馬」と刺繍されている

「毎年終わると、みどりさんから『来年もお願いしますね。絶対よ』とお言葉をいただいていました。背広は何着かいただき、私の方が少し体が大きいので仕立屋さんに調整してもらったら、妻に怒られました。『あなたの寸法に何の意味があるの。司馬さんの寸法だからいいんじゃない』といわれて、元に戻した(笑)。司馬さんの威を借りて臨んでいます」

 司馬さんが1996年2月に急逝して、翌3月に大阪で送る会が開かれたとき、古屋さんが司会を担当することになった。これが縁のはじまりで、翌年から毎年2月に開催されてきた「菜の花忌」で、古屋さんは皆勤賞だった。

「送る会では『二十一世紀に生きる君たちへ』を最後に朗読し、途中なんどか声が震えました。2回目の菜の花忌の年に長男が生まれ、翌々年に次男、さらに翌年に長女が生まれた。子育てに追われた菜の花忌でもあります。彼らも25、23、21歳になりました」

 20回目ぐらいから、次の人にバトンタッチすることを考えはじめたという。

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