YouTubeは競合他社との競争に直面している。Facebookやインスタグラム(Instagram)といった大手がYouTubeが抱える人材を奪おうと試みているからだ。いまのところクリエイターらも、YouTubeに匹敵するプラットフォームは存在しないと感じているようだが、それが変われば良いと思っているようだ。
YouTubeはこれまでにない競合他社との競争に直面していると言える。Facebook、インスタグラム(Instagram)、AmazonのTwitch(ツイッチ)、Twitter、Snapchat(スナップチャット)、そしてTikTok(ティックトック)といった大手プラットフォームがYouTubeが抱える人材を奪おうと試みている。いまのところはYouTubeクリエイターたちも、YouTubeに匹敵するようなプラットフォームは存在しないと感じているようだが、それが変われば良いと思っているようだ。
YouTubeで人気を集めるスタークリエイターたちは長年、YouTubeを含むプラットフォーム間の競争がもっと大きければ良いと考えてきた。理由はたくさんある。YouTubeはクリエイターたちが独立してビデオを製作・投稿するという効率的なマーケットを作ったが、クリエイターたちはひとつだけのプラットフォームに過度に依存して、常に変化するアルゴリズムによって自分の所得に影響を受けることを避けたいと考えている。YouTubeのブランドセーフティ問題やクリエイターのビデオのマネタイゼーションを解除したこと(クリエイターたちはこれをアドカリプス[adpocalypse]と呼ぶ:広告[アド:ad]と終末[アポカリプス:apocalypsis]を合わせた造語)で、ビジネスはYouTube以外に考えたことがなかった「多くのクリエイターたちに衝撃が走り、状況を生き延びるにはより多くのことに取り組む必要があると、突然気づいた」と、29万2000人のサブスクライバーを抱えるクリエイターであるマリ・タカハシは言った。
本稿のための取材に応じてくれたYouTubeのトップクリエイターたちは、YouTubeはクリエイターを力強くサポートしていると語った。2007年12月に広告収益シェア・プログラムを展開して以来、YouTubeはクリエイターたちに報酬を渡してエピソード形式の番組を作らせたり、広告主とクリエイターをつなげてスポンサードビデオを製作したり、クリエイターサミット(creator summits)を主催してフィードバックを集め、また彼らに情報を提供し、そしてマーチャンダイズやサブスクリプションを販売することでファンから直接収益を得るための機能を追加する、といったことを行ってきた。しかし、このような力強いサポートはあれど、競合サービスとの競争があれば、さらなるクリエイターへのサポートが生まれるだろうと、彼らは考えているようだ。
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「いまこそ変化と改善を」
「競争があることで、プラットフォームに変化と改善を強いることができる」と、YouTubeで900万人のサブスクライバーを抱えるジョーイ・グラセッファ氏は言う。
グラセッファ氏のこの発言は自分の体験から来ている。YouTubeにとっての潜在的なライバルの存在が、YouTubeのクリエイターへの投資増加を促したことを見てきたのだ。Hulu(フールー)の元CEOであるジェイソン・キラー氏は、ヴェッセル(Vessel)と呼ばれる、当時構築しようとしていた動画プラットフォームのためにYouTubeトップクリエイターをヘッドハントしようとしていた。YouTubeに投稿する3日前にヴェッセルにまず投稿するという年間限定契約をすることで、契約金を支払う、という契約を提示していた。ヴェッセルがこのようにYouTubeのスターを奪おうとしたことで、YouTubeもクリエイターたちへのサポートを増すことになった。
「私が自分のYouTube番組を得たのは、ヴェッセルが理由のようなものだ。YouTubeは対抗の契約として『ヴェッセルに行かないでくれ、番組を作るお金を出すから』と提示してきたのだ」と、グラセッファ氏は説明する。ヴェッセルからグラセッファ氏を遠ざけるためのこのオファーが、グラセッファ氏が主演し、プロデュースする番組「エスケープ・ザ・ナイト(Escape the Night)」へとつながった。この番組は7月11日に第4シーズンを配信開始したばかりだ。
今日、YouTubeが同様の競争に直面しているのか、と聞かれたグラセッファ氏の回答はノーだ。先日行われたデジタル動画コンベンションであるヴィドコン(VidCon)で取材を受けたYouTubeスターたちも同じ意見を持っている。しかし、グラセッファ氏も、彼らも、それが変わることを期待している。
「現時点で、YouTubeの直接の競合他社となっている存在はいない。とはいえ、TikTokのように、山火事のように広がる存在が虎視眈々と狙っている」と、タカハシ氏は言う。
しかし、TikTokがYouTubeと同じレベルへと達するポテンシャルがあると考えるYouTubeクリエイターたちがいる一方で、彼らにとってはまだポテンシャルしか見えていない。広告レベニューシェア・プログラムをローンチした2007年12月以降、動画から収益を得るという点ではクリエイターたちにとって、YouTubeが金のスタンダードだ。グラセッファ氏やタカハシ氏のようなクリエイターたちにとっては、ほかのプラットフォーム向けに動画を定期的に制作するとなれば、所得がそれによって失われてしまうことがないと確信できる必要がある。
IGTVは収益化に不満
YouTubeのライバルとなることを狙うインスタグラム(instagram)によるIGTVだが、コストを自分で賄う必要があるためYouTubeクリエイターを集めるという点で苦戦している。デンゼル・ディオン氏はインスタグラムで180万人のフォロワー、YouTubeで130万人のサブスクライバーを持つクリエイターだ。彼はIGTVのスターになるのに十分なクリエイターのように見えるかもしれないが、彼がIGTVにアップロードする動画は週に1回、そしてYouTubeへの動画投稿によりエネルギーを注いでいる。その理由はシンプルだ。「YouTubeはマネタイズされているが、IGTVはされていない」。
YouTubeスタイルの収益シェアプログラムをIGTVが持っていないことで、ディオン氏やタカハシ氏のようなYouTubeクリエイターにとってはIGTVは趣味レベルのプラットフォームとなっている。彼女はいまのところ、数件のスポンサーシップ契約をIGTV動画向けに取り付けているものの、大部分はお金ではなく自分が趣味として行うプロジェクトとして見なしているという。「IGTVは編集作業に対する自分の情熱を新しく燃やしてくれた」と、彼女は言う。IGTVのために動画を編集する技術を学ぶプロセスが、YouTubeで最初の頃に動画編集をしていたものと同じだと語った。
しかし、YouTubeのトップクリエイターたちにとって、動画制作は趣味ではない。動画を制作し、オンラインに投稿する仕事に従事しているわけだ。そのため、何らかのプラットフォームのために動画を制作することに時間やお金をかけるとき、彼らにとってはそれはビジネス判断となる。これはジョスリン・デイヴィス氏とリリー・マーズトン氏がYouTubeネットワークのクレバー(Clevver)を離れ、自分たちでデジタル動画会社シェアード・メディア(SHared Media)を設立したあとに、最初にしたことがYouTubeであったことにつながる。彼女たちは6月にYouTube上でシェアード・メディアをローンチすると決めた。これは、収益を生んで、オーディエンスを獲得する、という両方の点で、過去に成功した経験のあるプラットフォームだったからだ。
「とは言っても、我々は多様化をする計画だし、ほかのプラットフォームとのパートナーシップを結びたいと思っている。なぜならこれは趣味ではなくビジネスであるから」と、デイヴィス氏は言う。YouTubeは「新しい会社をローンチする点でベストなオプションだ」という。
Facebookは希望の星
FacebookはYouTubeのトップクリエイターたちにとって2番目に良いプラットフォームとして台頭しつつある。これまでもYouTubeからクリエイターたちを募ってきたが、その試みはYouTubeほどの収益をFacebookであげられる、と証明できないことが障害になっている。YouTubeのクリエイターたちからの興味が低いなかで、その結果としてFacebookは自分たちでスターを育て上げる方向にフォーカスしている。その例がジェイ・シェティ氏だ。2017年に動画を投稿しはじめ、2018年にはFacebook上で100万ドル(約1億円)を稼いだ。
シェティ氏のようなクリエイターがFacebookで成功を収めたことは、YouTubeスターたちの注目を集めつつある。彼らはFacebookのポテンシャルを再検討しているのだ。「向こう(Facebook)では、マネタイゼーションという点では、良いと聞いている」と、ディオン氏は言う。
ジェイミー・ベイターズ氏は、彼の母親と共同で、YouTubeチャンネルを運営している。サブスクライバー数は130万人。彼も同じ情報を聞き、その結果、Facebookに動画を投稿する計画を立てた。FacebookもYouTubeも、動画の広告収益の55%をクリエイターに支払う仕組みなっている。しかし、ベイターズ氏によると、FacebookのCPMは1000インプレッションに対して約4ドルであると言われているのに対して、YouTubeでは2.60ドルだ。「FacebookはYouTubeから全員を奪うためにわざとそうしているように感じる」と、彼は言う。
YouTubeに代わる場所
しかし、これまでFacebook上でクリエイターたちが体験してきた変化と困難を鑑みて、Facebookの収益をどれだけ安定したものとして信頼できるかについては、クリエイターたちは疑念をまだ持っているようだ。しかし、この疑問はFacebookだけに限らない。広告がサポートされている、アルゴリズム運営のプラットフォームであればどこであれ、この疑問が生まれる。おそらく、そして特に一番、YouTubeがそうである。
これらのプラットフォームが変化を繰り返すからこそ、YouTubeのスターたちもYouTubeに代わる場所を探しているわけだ。YouTubeを抜け出したいわけではなく、YouTubeだけに限られたくない、というわけだ。所得に影響を与えるようなYouTube上の変化に、できるだけ影響を受けないようにしたいのだろう。タカハシ氏はこれを「プラットフォームにとってのドローン」になりたくない、と形容した。
Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)