多すぎるプロモーション費用に、うまく最適化されていないメタデータ…。本来ならば、動画の威力がもっと発揮される高級ブランド業界は、まだYouTubeを最大限に活用できていない。
一方、YouTubeで大きな成功を果たしているファッション企業は、少なからず存在する。リサーチ企業L2とYouTube広告マーケティング&ソフトウェア企業Pixabilityの最新調査では、どの企業が成功を収めているか、プラットフォームにいくら費やしているのか、何がこの大きな業界を支えているのかなどのデータを掘り下げたという。
高級ブランド業界は、まだYouTubeを最大限に活用できていない。
リサーチ企業L2とYouTube広告マーケティング&ソフトウェア企業Pixabilityの最新調査によると、ファッションブランド全体に対して、YouTubeに投稿しているブランドの割合は約90%になるという。この数字は多いように見えるが、実際はファッション界にとってあまり喜ばしくないことだと、Pixabilityの最高技術責任者であるアンドレアス・ゴールディ氏は語る。
「ある一定数のファッション企業が、まったく動画投稿をしていないという事実はショックだ」と、ゴールディ氏。「ビューティ業界の人たちにとって、独自のチャンネルをもたないという選択肢は考えられない」。
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一方、YouTubeで大きな成功を果たしているファッション企業は、少なからず存在する。先述の調査では、どの企業が成功を収めているか、プラットフォームにいくら費やしているのか、何がこの大きな業界を支えているのかなどのデータを掘り下げたという。
シャネルの「ひとり勝ち」の状況
シャネルのYouTubeチャンネル登録者数は、約35万人。ファッション分野のチャンネルのなかで、トップを誇る。登録動画の再生回数は、1億4000万回以上。同分野で再生回数の第2位であるルイ・ヴィトンを4600万回以上も上回っている。
シャネルはYouTube動画に、TVコマーシャルとは異なるフォーマットを採用することで成功を収めた。「The Colors」というエピソードでは、目まぐるしくカットが変わるなか、情熱的なナレーターが滑らかにシャネルのカラーパレットについて説明する。この動画は200万回以上も再生された。
「コンテンツと強力な広告戦略、そして実際にユーザーがエンゲージできる環境の組み合わせが大事だ」と、ゴールディ氏は話す。「シャネルは、どのようなコンテンツが読者にもっとも共鳴されるかをとても意識している」。
図1:2014年11月までのファッション企業のチャンネルが生涯視聴された回数(出典:L2 / Pixability)
効率化できてない「プロモーション費用」
YouTubeから認証されているデータパートナーであり、オンライン動画の費用を予測する企業ストライクソーシャルによると、この1年でクリスチャン・ディオールは、およそ470万ドル(約5億6000万円)ものプロモーション費用をYouTubeに投じているという。第2位にシャネルの280万ドル(約3億3000万円)が続き、ヒューゴ・ボスが第3位で220万ドル(約2億6000万円)になっている。その後もラコステが210万ドル(約2億4000万円)、カルバン・クラインが170万ドル(約2億円)と続く(ストライクソーシャルの分析では、ルイ・ヴィトンを除外している)。
図2:2014年でファッション企業がYouTubeに投じた費用(出典:ストライクソーシャル)
シャネルがアーンドビュー(検索やソーシャル共有で得られる視聴回数のこと。有料広告からの視聴回数は含まれない)の割合が一番高かった。シャネルが得た、この1年間での5500万回の視聴回数のうち、1900万回(35%)はオーガニック・ソースから得ている。同時期にディオールのチャンネルも6100万回の視聴回数に近づいたが、アーンドビューはそのうちの1100万回(18%)ほどしかない。これがシャネルの動画が高品質で共有されやすいという証だと、ストライクソーシャルの最高経営責任者であるパトリック・マクケンナ氏は話す。
「シャネルは同カテゴリーで10位に入る動画を5つも作っている。そしてトップ5に入っている動画は、すべて多くのオーガニック・ビューを生み出す」と、マクケンナ氏は興奮気味に語った。「シャネルのクリエイティブ・プロデューサーとコンテンツ・プロデューサーは賞賛されるべきだ。その素晴らしい創造性は、YouTubeで報われる」。
図3:2014年のファッション企業のアーンドビュー回数 vs. 総視聴回数(出典:ストライクソーシャル)
ズダボロ状態の「YouTube最適化」
ファッション業界の動画は、YouTubeで発見されにくいという問題も抱えている。L2の研究によると、企業名を検索された場合、約80%の企業の公式チャンネルが検索結果の1ページ目に出てくるが、半数以下の企業が検索結果のトップ3に入らないという。また、20%以下の企業しか検索結果のトップに載らない。
ゴールディ氏の説明によると、この問題の一部は、多くの企業がYouTubeの最適な利用方法を理解していないことだという。L2は、ファッション企業によって制作されたYouTube動画の24%は、字幕での説明が含まれていないため、検索時に見つかりにくいと指摘する。
「多くの企業は効果的なタイトルの付け方、説明の仕方やタグなどで苦しんでいる」と、ゴールディ氏は語る。「メタデータは難しいものではないが、多くの企業がいまだ使い方を把握していない」。
チャンネル登録者数が10万人を超えているファッションブランドは、シャネルとディオール、バーバリーの3つだけ。L2の調査によると、YouTubeには大きなユーザー層があるのにもかかわらず、平均的なファッション企業はPinterestのフォロワー数と比べて、YouTubeの登録者数が33%ほど少ないという。
しかし、ファッション企業のYouTubeの登録者数が伸びていないと言っているわけではない。L2の調査結果によると、2014年10月の前年同月比では、平均的なファッション企業の動画視聴回数は204%ほど増加し、登録者数も87%ほど上回った。
図4:2014年10月までの74のファッション企業の動画視聴回数(横軸) vs. 登録者数(縦軸=出典:L2 / Pixability)
攻略のカギは「美容コンテンツ」
もっとも成功しているファッション企業のシャネルは、ビューティ市場との密接な関係性を動画に含ませている(化粧品、香水やヘアケア商品など)。美容に焦点をあてている動画の方が、ファッションのみに焦点をあてている動画よりYouTubeで成功しやすいとL2は報告している。
「成功している企業の多くは、これら両方の要素を動画に組み込んでいる企業だ」と、ゴールディは続ける。「デジタル業界における、美容の競争力によって、これらの企業の戦略が洗練されるはずだ」。
こうした流れには、若いYouTubeユーザーの動向も反映されている。ゴールディ氏は、若いYouTubeのオーディエンスは高価なファッションアイテムよりも、美容グッズの方が簡単に買えるからだと付け加えた。
「美容に関するチュートリアル動画は検索需要が高いため、多く観られる傾向にある。ファッション動画のユーザーは、より限定されてしまう」と、ゴーディ氏は締めくくった。
図5:2014年10月までのYouTubeでの美容 vs. ファッション(出典:L2 / Pixability)
Eric Blattberg(原文/訳:小嶋太一郎)