「一見、根拠のなさそうな直感」を現実に重ね合わせられる人・企業が、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えている。そう語るのは、P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の戦略デザイナーであり、『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』著者・佐宗邦威氏だ。彼の提案する「直感と論理をつなぐ思考法」は、先が見えない時代に必要な「感性ベース」の考え方。論理一辺倒の思考法に違和感を抱く人たちに大きな共感を呼んでいる。本書は、岡田武史氏(FC今治オーナー・元サッカー日本代表監督)や入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール准教授)など各業界のトップランナーたちに絶賛されているベストセラーだ。
今回は、本書より一部を抜粋・編集し、「ひらめきが生まれるメカニズム」について紹介する。(構成:川代紗生)

直感と論理をつなぐ思考法Photo: Adobe Stock

「直感」には大きな伸び代がある

 近い将来、自分の仕事はどうなるのだろう?

 人工知能(AI)が凄まじい成長を見せている現在、不安を抱えている人もいるかもしれない。最近では、「VUCAの時代」「VUCAワールド」などの言葉を耳にする機会も増えた。

VUCA」とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を合わせた言葉だ。

 変化のスピードが速く、世の中の見通しがつきづらくなったこの「VUCAの時代」を、私たちはどうやって生きていけばいいのだろう。

『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』の著者・佐宗邦威氏は、この問いに対して、「ビジョン思考」――タイトルにも書かれた「直感と論理をつなぐ思考法」を磨くことを提案している。

そもそも僕たちは、直感を磨くための教育や訓練を受けていない。これは裏を返せば、感性や直感に関わる能力には、まだまだ大きな伸び代があるかもしれないということだ。(中略)実際、脳内のネットワークやその働きは「使い方」次第で、かなり変化することがわかっている。これを脳の「可塑性」という。よく動かしている筋肉ほど大きく育つのと同様、活性化する頻度が高い部位から脳は鍛えられていくのである。(P.83-84)

 従来のビジネスの世界では、数字やロジックを用いた「左脳」的な考え方が重視されていた。

 しかし、その「ロジカルに考える」のが大得意な猛者たちがすでに大勢いて、さらに、人工知能までもが発展してきているいま、「論理」や「戦略」で勝負しようとするのは、なかなか厳しいものがある。

 だったら、まだ多くの人の注目が集まっていない「ビジョン思考」の領域に取り組んだほうが、勝算があるのではないだろうか。本書では、そんな提案がされている。

人間の脳とコンピュータの決定的な違いとは?

 さて、本書では、人工知能研究の権威である未来学者レイ・カーツワイルの著書『シンギュラリティは近い』(NHK出版)を参照し、人間の脳とコンピュータの特徴を比較した内容について、こう解説している。

彼(カーツワイル)によれば、人間の脳はアナログ回路であり、デジタル型であるコンピュータ回路と比べると、圧倒的にスピードは遅い。その一方で、人間の脳には、あちこちの場所が同時発火する「超並列型処理」という顕著な特徴がある。最大100兆回の計算を一瞬で行うというこのメカニズムのおかげで、人間の脳内では「予期せぬつながり」が生まれる。これが、いわゆる「ひらめき」の正体だ。(P.85)

 たとえば、仕事場のデスクに丸1日かじりついていても突破口が見つからなかったのに、帰宅してシャワーを浴びているとき、急にフッとアイデアがひらめく、なんてことはないだろうか。

 これは、あちこちの場所が同時発火する「超並列型処理」の特性があるからこそなのだ。

 ただWordに文字を打ち込むだけ、PowerPointを作るだけ、メモアプリに箇条書きで考えを羅列していくだけ……ではなく、実際に身体で感じたり、目で見たり、耳で聞いたりといったインプット・アウトプットをする。

 本書の言葉を引用するなら、「『手』で考える」ことこそ、「人間らしく考える」ためのアプローチなのだそうだ。

ただじっと座りながら考えて脳の一部を使うのではなく、さまざまな感覚器官からインプットしたり、手や身体を動かしたりすることで、脳内のいろいろな部位が同時発火する状態をつくることができる。こうすることで、人間の脳はコンピュータには成し得ない働きをし、新たな発想の結合を生み出すことができる。(P.85)

脳のできるだけ幅広い領域を同時発火させること

 佐宗氏は、本書で今後の未来について、こう語っている。

今後、「人工知能的なもの」がどの程度/どれくらいのスピードで、人間を脅かすことになるのかはわからない。しかし、「機械にはできない思考」「最も人間らしい考え方」があるのだとすれば、そのキモは「脳のできるだけ幅広い領域を同時発火させること」だろうから、(中略)目で見ながら、耳で聞き、口や手を動かす──そうすることで脳の同時発火を促していく考え方が求められていくのだ。(P.86-87)

 本書を読み終わったあと、棚の奥からノートを引っ張り出してみた。

 キーボードに文字を打ち込むのではなく、まっさらな手書きのノートに、手を動かしながら思いついたアイデアを書いていく。

 このような考え方をしたのは、ともすれば、子どもの頃以来じゃなかろうか、と思った。

 実際にやってみると、PCの画面に向かっているときよりも、不思議とアイデアがぽんぽんと浮かんだ。

 あれもいいかも、あ、だったらこれもありかもしれない、というように、創造意欲が刺激される感覚がある。

 人工知能が人間を超える日が来るのか、これからの社会がどうなっていくのか、私たちにはまだわからない。

 しかし、脳の幅広い領域を同時発火させられるように、「ひらめき」が生まれやすい土壌をつくっておくことは、私たちの可能性を広げてくれるかもしれない。

 本稿では書ききれなかったが、『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』には、ビジョン思考をつくるためのステップや、具体的なエクササイズが詳しく解説されている現代人の不安に寄り添い、多くのヒントを与えてくれる名著である。