日本経済への遺言#3 元ホンダ社長・吉野浩行氏Photo:John Rensten/gettyimages, PIXTA

2022年、日本をけん引してきた各界の大物が相次いで鬼籍に入った。週刊ダイヤモンドで過去に掲載した大物7人の生前のインタビューを基に、彼らが日本の政治・経済に遺したメッセージを紹介する。特集『日本経済への遺言』(全8回)の#3では、元ホンダ社長の、吉野浩行氏の2001年のインタビューを再掲する。当時、合従連衡が加速する自動車業界でホンダは再編から距離を置いた。吉野氏が、創業者、本田宗一郎から受け継いだ遺産と負債を解説するとともに、「規模」とは一線を画した根拠を説いた。(ダイヤモンド編集部)

 ※「週刊ダイヤモンド」2001年10月27日号のインタビューを基に再編集。肩書や数値などの情報は雑誌掲載時のもの

ホンダの資産はフィロソフィー
異なる市場の客も「全て満足させる」

――どの企業にも、過去から積み重ねてきたバランスシートには表れない資産や負債があります。ホンダの資産と負債は何ですか。

 一つだけ挙げるなら、資産はフィロソフィーです。社是は1950年代半ばから、フォー・ワールドワイド・カスタマー・サティスファクションです。

「世界中のお客さまの満足を求める」という姿勢は四十数年間脈々と続き、常にリマインドしながら、みんなのベクトルをそこに合わせてきた。それがホンダの成長を支えてきた。

 もう一つ、二輪と四輪を併せ持っていることは大きい。ホンダの海外展開は、必ず二輪から始まる。四輪よりケタが一つ小さい投資で、現地生産ができるからです。現地で部品を買い、メーカーを育て、人を雇う――そうして、ブランドを確立し、収益を上げ、システムを構築し、四輪を手がけるときには、その二輪のソフトからハードを全部使える。

――最初から、国内、海外という区分けの発想がなかった。

 社是には、二つの意味があります。一つは、国が隣り合っていても、たとえばタイとインドネシアでは、二輪に対するマーケットニーズがまるで違う。だから、異なるマーケットのお客さま全部を満足させていくという宣言です。

 もう一つは、あくまでお客さまだけをみるという考え方。どこの国ででも、ホンダは政治や官庁とタイアップしていくビジネス手法はとりません。各国政府は制度も思想も違う。そんなことに煩わされたくない。

 お客さまというのはどこでも同じで、いい物が安くあればいいわけです。その意味では、日本も海外も区別がない。

――創業者からして、政・官の干渉または依存を激しく嫌いましたね。本田宗一郎さんの存在は吉野さんのなかでどう消化されていますか。

次ページでは、吉野氏が偉大なる創業者、本田宗一郎から受け継いだ「遺産」と「負債」について語る。当時、自動車産業で加速していた再編は、「論理性を欠く」と退ける。また、吉野氏は米国型資本主義が浸透する中でも、ホンダが貫く日本的経営には普遍性があると強調。ものづくり企業の経営者には「社員の力をどれだけ引き出せるか」が問われていると断じる。