【フロイト精神分析入門第1回】無意識が支配する心の世界

「無意識」とは、いったい何者でしょうか?19世紀から始まった心理学において、「近代心理学の父」とされるヴントは「意識」から心を探ろうとしました。20世紀のフロイトは「無意識」を心理学に持ち込み、哲学・芸術にまで影響を及ぼす「精神分析学」を開花させました。

1.ヴントは意識から、フロイトは無意識から心を探る

ヴントは意識から心を探るのに対し、フロイトは無意識から心を探ります。

結婚記念日を例にとってみましょう。
ある会社員が、仕事中に手帳を確認します。
すると、今日は結婚記念日だったことが、一行書かれていました。
会社員は、すっかり忘れていました。
慌てて妻に電話をすると、冷ややかでよそよそしい声が聞こえてきます。

  1. ヴントの考え方
    人間の意識は、視覚・聴覚などの感覚に基づいて判断します。
    手帳を見て気づいた視覚⇒結婚記念日だったことを思い出す記憶⇒妻の冷ややかな声を聞く聴覚。
    「感覚に基づいて判断し、意志が働き行動する」
    この意識から探るヴントの考え方は極めて合理的な説明です。人間はロジカルな生き物ですから、論理性として説得力はあります。しかし、心の動きはさておいて、私たちは「大事なことなのにどうして忘れてしまったんだろう」と思い悩むことの方が多いのではないでしょうか。忘れなかったらこんなことにはならなかったのに…と。とても切実な悩みです。そこでフロイトは「非合理性」に着目し、人間の精神心理の襞(ひだ)を探究します。人間の行動は、理屈では説明し切れない、つまり意識できない行動こそ、人間の心の動きを見抜くカギがあると考えたのです。
  2. フロイトの考え方
    事例の会社員は、良き夫として、毎年の結婚記念日を忘れずにいました。手帳に記した瞬間は覚えていましたが、失念し、あとで思い出したとき、本人にとって切実な問題となってしまいました。
    フロイトは、意識できない心として「無意識」に着目しました。「結婚記念日を忘れていた」と思い出す意識は、「忘れた」状態が連続した無意識が原因と考えました。
    もっとも、多忙な仕事人間は、家庭を意識しない時間が現実としては多いですが…。

意識と無意識のあいだ

意識と無意識には断絶があります。結婚記念日を思い出したのは「意識」です。
なぜ忘れていたか?
仕事が忙しいから?
無意識の中に潜んでいるものは何者か?
この問題が、人間の心を探求するもっとも重要な原因として、「精神分析学」のベースです。

2.心の仕組み~意識と前意識と無意識~

無意識の問題から始まったフロイトの考える分析学は、意識のレベルを区別することで、「無意識」に迫ろうと考えます。

「意識」は氷山の一角に過ぎない!?

フロイトは「意識」「前意識」「無意識」の3つに分類し、精神分析理論のベースにしました。

  • 意識
    普段気づいている、意識している部分であり、第1の層とフロイトは呼びました。
  • 前意識
    普段は意識していないが、努力・工夫すれば意識できる第2の層です。
    度忘れしていたが、思い出す経験はあります。
    「前意識」は、努力・工夫によって第1の層である「意識」に浮上してくる考え方です。
  • 無意識
    普段は決して意識することができず、努力・工夫しても思い出せない。
    記憶の引き出しにしまい込められ、突然、思い出す経験があります。
    心の奥に深くしまい込まれた第3の層を、「無意識」と名づけました。

フロイトの考えを氷山になぞらえて考えてみましょう。
心を氷山に例えると、「意識」は水面から出ている一角にしか過ぎず、人間の精神世界の大部分は、水面下に隠れた無意識です。自覚力は意識が作用するならば、人間の心の大半は無意識が支配しているという考え方です。

過去に出逢った人の名前や、たった今話そうと思ったことを度忘れしてしまうことってありませんか?。
一生懸命、思い出そうとして努力して、やっと思い出すことはあります。
第2の層である「前意識」は、努力や工夫によって第1の層である「意識」に浮上できます。

催眠とは?無意識下なのか意識下なのか

催眠とは「普通の状態」とは異なる意識状態の1つで、変性意識状態といいます。
催眠中のことは一切記憶していませんが、催眠中に暗示を与えられると、覚醒後に暗示を受けた行動をする。意識しない・意識できない心の動きがあるということがわかります。

  • 意識状態とは異なる無意識状態
    無意識状態は記憶意識に残っていたが、忘れるという状態です。忘却の彼方に押し流された意識が、現実として記憶が喪失状態になったとき、無意識状態です。
  • 暗示の例
    催眠状態にある人に、「あなたは催眠から覚めたら、窓を開けたくなり、開けるだろう」と「暗示」を与えると、覚醒した人は暗示通りに窓を開ける。理由を聞くと、「少し暑いと思って…」と答える。
    催眠中の暗示の影響だとはまったく意識していません。意識しない、意識できない心の動きがある確実な例証です。

3.無意識とは抑圧の塊

無意識の正体を解き明かすとき、思い出したくない感情や観念だから、意識から締め出され抑圧の塊が原因になります。

無意識=思い出したくない感情や観念の集合=抑圧

  1. 「無意識」とは思い出したくない感情や観念の集合体。
    嫌なことは早く忘れたい、と考えるのが人間の本質です。
    人間は受け入れ難い記憶を、「なかったかのように」意識の中から締め出し、無意識の中に押し込める心理的行動があります。
    これを無意識なる心の働きである「抑圧」と呼びます。
  2. 抑圧されたものが症状を引き起こす。
    フロイトは次の事例をあげて説明しました。
    姉の夫に好意を寄せ、将来、彼みたいな男性と結婚してもいいと思っていた女性がいました。
    ところが、姉が死亡したとき、「これで義理の兄と結婚できる!」という考えが思い浮かびます。
    彼女は、そんな願望は許しがたい不謹慎な考えとして意識から封殺します。
    倫理性と道徳性が厳しく働いたと考えられますが、思いを意識から締め出して無意識の中に抑圧したのです。するとそのときから、彼女の足が痛み始めました。フロイトはこの足の痛みを「抑圧されたものの回帰」として分析しました。つまり、「義兄と結婚したい」という心の出来事が抑圧された結果、身体症状となってあらわれたと考えたのです。彼女は「心の出来事」のつながりを思い出した途端、彼女の足の痛みがなくなったという事例です。

人体と精神的行動は密接に関係すると考えられます。
「意識」に上がることのないように、「無意識」の中で「抑圧」として封じ込めるだけでは解決できず、
自らの真実を受け止めない限り、いつまでも心のどこかにしまい込まれたままです。
いつまでもしまい込まれた状態を「不安」と呼びます。

自分を受け入れることで、自分に安心して生活が送れます。
抑圧から解放されたときにこそ、人間は心の病と別れを告げるかもしれません。
これが「精神分析」の考え方です。

精神分析学と無意識の可能性

フロイトは人間の「非合理性」に着目し、心の仕組みについて「意識」「前意識」「無意識」の3つに区分。人間の心の大半は無意識が支配していると考えました。
「無意識」とは思い出したくない感情や観念の塊であり、抑圧することにより、身体症状に影響を与えると考えました。嫌なことや忘れたいことを無意識の中に押し込めただけでは問題の解決はできず、自らの真実として受け入れなければ、いつまでも不安は解消されません。精神分析の考え方を取り入れてみることで、原因を発見し、自ら安心できる幸福、生活が送るヒントになるのではないでしょうか。
また、今回お伝えした「無意識」。少しずつ知っていくことで、あなたの行動や考えを変えるきっかけになるかもしれません。乞うご期待!

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