たるんだ心に喝!! 一条ゆかりが放つ“よく刺さる”金言集。大人になった『有閑倶楽部』の面々もショート漫画で降臨!

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/21

不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集
不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』(一条ゆかり/集英社)

「昔からですが、私、いつでも、どこでも本当によく人に相談されるんですね」と、少女漫画界のレジェンドは言う。けれど「たいていの人は『大変だったわねぇ』『わかるわぁ』と同情してほしいだけだから、私の言ったことは3歩歩くと忘れます」「だからもう人への助言なんてしたくないと思っていたんだけれど」――。

 ならば、まとめて引き受けてしまった方が効率いいか、と、私たちのもとに届けられたのが、禅問答のごときタイトルを持つこの1冊『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』(一条ゆかり/集英社)。「世の中にはあなたの魅力の通じる少しの相手と、魅力の通じないたくさんの相手がいます」「夫や彼が浮気してるかも…あなたがそう思うなら、まずしてる」「そのままのキミはたいてい汚い。入口が汚いと誰もノックしてくれません」……。レジェンドが繰り出す金言は、3歩歩いて忘れられては困るとばかりにどれもキャッチーで辛口。その金言について、みずからの経験をもとに“解説”する軽妙な語りは、声に出して笑ってしまうところもあるけれど、やはり耳が痛い。だがそこには『デザイナー』『砂の城』『プライド』と、常に時代の一歩先を行き、「私もこんなカッコいい生き方をしたい」と読者が憧れ続ける登場人物を生み出してきた著者・一条ゆかりさんにしか出すことのできない答えがある。

 本書の書籍名にもなった「不倫、それは峠の茶屋に似ている」、そこから続く「お団子を食べたら、まだ明るいうちに出発しないと迷子になります」という、長い見出しの一編で語られていくことも、物事のうわべなんかにとらわれない著者ならでは。ひとたび著名人の不倫が発覚すれば、SNSでの総攻撃が習いになってしまった今の世だが、一条さんは、「やっぱり不倫ほどおいしい恋愛はないんですよ」と持論を展開していく。そこから先に語られていくことは、不倫という形の恋愛の真髄と、そこであるべき人の処し方。「私、不倫とは関係ないわ」と思っている人でも、そこで語られる品性ある“生き方”への処方にぐっときてしまう。

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「迷った時には、初心を思い出せ!! 初心に返ったことで『デザイナー』も『プライド』も描けました」という一編のなかで、「私はよく“恋愛漫画の女王”みたいに言われるけど、恋愛が描きたかったわけじゃないんです」「恋愛のためには、人って、驚異的に頑張るでしょ? (中略)話を作るのに便利なんですよ」と一条さんは語っている。「描きたいのは恋愛ではなくて、恋愛を通して成長する人間の姿」なのだと。恋愛はもちろん、成功の極意、男というもの、美と健康……と、さまざまなシチュエーションのなか、この1冊には、読んだ人が“成長”するためのエッセンスがひたひたに浸み込んでいる。たとえば、メインの読者層とした40~50代の女性たちがもやもやしている“寂しさ”について、それを埋める一番良い方法、さらに理不尽な目に遭ったとき必要なもの、イヤな人との出会いをポジティブに捉える思考などは、若い世代の読者も今から知っておけば、生き方がぐんと楽になるのではないだろうか。

 そして。そんな生き方を私たちの知らないところで重ねてきたであろう、あの人たちは今、どうしているのか――。なんと今回特別に描き下ろした『その後の有閑倶楽部』ショート漫画も収録!

不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集

 聖プレジデント学園の学園長ミセス・エールから、大人になった白鹿野梨子が託されたこととは……。そして20年後の同窓会に集まった有閑倶楽部の面々の今は? そして彼らがこれからしようとしていることは――?

 最後の1ページまで、この本にあるエッセンスを絞りとっていってほしい。「これは、あなたの成長を助ける本だけれど、あなたの慰めになる本ではありません」という著者の言葉がそのとき、すとんと心に落ちてくる。

文=河村道子

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