『新版 ジョエル・ロブションのすべて』「フレンチの神様」と称されるジョエル・ロブション氏の700レシピを掲載!


“フレンチの神様”と称された料理人、ジョエル・ロブション(1945-2018)。
2018年8月にその生涯を終え、4年半の月日が経った今でも世界中の人々に愛され続け、11カ国13都市に同氏の名前を冠した店が存在している。
そんな氏がフランスで2007年に、日本では2009年に刊行したレシピ集「ジョエル・ロブションのすべて」(武田ランダムハウスジャパン)は、700のレシピが惜しげもなく掲載された、フレンチシェフの必読書。
惜しくも絶版となっていたが、3月23日、誠文堂新光社から新版が発売されることに!
料理王国では特別に、2009年版と新版の翻訳を手がけた、勅使河原 加奈子(てしがわら かなこ)さんから届いた本作の見どころをお伝えする。

本書がフランスでは家庭料理の本であるということは驚きかもしれない。
ソースやヴィネグレット、フォンやブイヨンの他、デザートやパティスリーまで1冊で網羅している。ゆで卵、目玉焼きから地方料理、お菓子作りのベースとなる様々な生地(粉もの)のレシピ、フランス人なら誰でも知っている王道のクラシックな料理、現在も世界でジョエル・ロブションの名前を冠するレストランで提供されている料理、ソース、ガルニチュールまで。本のタイトルどおりジョエル・ロブションが料理人としてキャリアを全うした20世紀のフランス料理のすべてが詰まっていると言ってよいのではないか。

原本には一枚も料理の写真がなく、その理由はロブション氏によれば、料理写真は時代感が出てしまうから、写真があることで時代の流れと共にその料理が古く感じられてしまう恐れがあるからとのことだった。
日本語版のための料理写真は当時、恵比寿のシャトーレストランジョエル・ロブションで総料理長だったアラン・ヴェルゼロリシェフと渡辺雄一郎シェフが製作。カメラマン石井宏明氏が撮り下ろし。どの料理をどう撮影するか?レシピも器のセレクトも盛り付けも「普遍性」を心がけ、ロブション氏の承認を得て掲載したもので、今見ても古さを感じないはず。(本書の本体表紙の写真も、その時に撮影したもののひとつだ)

トマトとグリーンパプリカのタルトなど
トマトとグリーンパプリカのタルトなど
マグレ・ド・キャナール塩釜焼きなど
マグレ・ド・キャナール塩釜焼きなど

日本人初のM.O.F.のタイトルに輝いたガストロノミー“ジョエル・ロブション”の関谷健一朗シェフは「火入れというものは手段は変わったとしても基本的な理論は変わらない」と言う。今の時代なんでもネットで調べて瞬時に様々なレシピにアクセスすることはできるが、その多くは簡素化されたり、個人の解釈で作りやすいようアレンジされたりする。クラシックなレシピ、オリジナルのレシピにたどりつくことは意外と難しいかもしれない。本書では現代広く作られている定番のフランス料理、そのオリジン、作り方における基本のキを知ることができる。
また生前ロブション氏は「料理の良し悪しは、食材の旬、その選び方、扱い方で大きく変わる」とよく語っていた。各素材の歴史的背景や、文化的なエピソードを織り交ぜ、くわしく解説している。調理技術同様にロブション氏が大切としていた「食材の知識」を得ることができるはず。

90点にも及ぶ食材の知識、134項目の下処理などを詳細に解説。

本書はプロの料理人にとっても、料理における最も大切な3つの要素「素材・火入れ・アセゾヌマン」をあらためて確認する機会になると思う。
伝統的にその料理の主素材と合わせるべきガルニチュールや、フランスでスタンダートとされるポーションを知ることもできるし、地方料理にも項目を割いて代表的なレシピを紹介している。また現場での仕込みに適した分量や作り方、たとえばフイユタージュひとつとっても、簡単に作れるレシピとクラシックなレシピの両方を紹介している。したがって本書は、コレクターズアイテムでも飾っておくための本でもなく、日々の調理の現場で実践できるアイデアが多く見つかる本であると思う。

料理のカラー写真が挿入されていること以外の、日本版の大きな特徴は、別冊がついていること。フランスにおける各食材の収穫時期の早見表を掲載。肉の部位の名称、加熱のテクニック、調理用語、調理器具についてはイラストを交えて解説している。本体とは別にすぐに手に取れるキッチンに置いて活用できるし、これからフランス料理も学ぶ学生にとっても、料理研修のため渡仏する人にも携帯してもらえるような仕様にしている。
本体の目次は、フォンとソース、スープ、オードヴル、魚、肉、野菜、パスタや米、そしてデザートとコース料理の流れに従ってカテゴリー別になっているが、別冊はフランス語と日本語による索引があり、食材の名前、もしくは調べたい料理の名前ですぐに複数のレシピが検索できる仕組みになっている。

別冊で知識がさらに深まる。食材のシーズン、調理器具の解説、火入れのテクニックなどをイラストつきで紹介。
別冊で知識がさらに深まる。食材のシーズン、調理器具の解説、火入れのテクニックなどをイラストつきで紹介。

さらに気づいていただきたいことは、ロブション氏が特に好きだった食材「じゃがいも」にかなりのページ数が割かれていること。シンプルなじゃがいものピュレからじゃがいものコンフィチュールまで、じゃがいもの種類とその使い分けについても詳しく解説していて、じゃがいもへの愛着が感じられる。

また関谷シェフいわく、ロブション氏はスープが好きだった。そのためフレンチでスープをオンメニューすることが少なくなった今でも東京・恵比寿のレストランのメニューにはスープがあり、本書にもスープのレシピが多数掲載されている。

そしてM.O.F.のファイナルでも課題となっていた卵料理は、簡単なようで正確なテクニックを要する素材。あらためて本書で卵料理に触れて、基本に返って作ってみて欲しいと関谷シェフは言う。

思い返せば私は2000年からロブション氏が逝去された2018年まで、来日の際のインタビューや講演・講習会など、あらゆるシーンでの通訳を務めさせていただいた。本書の細かい解説やこだわりに、ロブション氏の人となり、厳格さ、ロブショニズムを感じている。単なるレシピ本としてではなく、この本を通してロブション氏を皆様に身近に感じていただけたら、氏が晩年力を入れていた料理知識の「継承」(transmission)の一助になるだろう。

「新版 ジョエル・ロブションのすべて」(誠文堂新光社)
ジョエル・ロブション著・勅使河原 加奈子翻訳
13,200円(税込価格)
https://www.seibundo-shinkosha.net/book/cooking/77920/

text:勅使河原 加奈子

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