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 ミュージカル界の若きプリンス、といえば今はこの人しかいない! と誰もが認める、甲斐翔真さん。まさに“無双中”といっても過言ではない活躍ぶりで、話題作のキャストとして名前を見ない日はない、という状態です。

 まだ26歳という若さで名だたるミュージカルへ続々と出演を果たす甲斐さん。そんな甲斐さんが2024年1月から出演する作品がミュージカル『イザボー』です。

 本作は、日本発ミュージカルを世界へ発信する“MOJO プロジェクト”の第一弾として、フランス百年戦争の時代、欲望のままに生き、国を破滅へと導いた最悪の王妃イザボーの半生を描いたもの。先日26歳の誕生日を迎えたばかりの甲斐さんは、望海風斗さん演じるイザボー・ド・バヴィエールの息子、シャルル7世を演じます。そんな甲斐さんに本作出演への意気込みを伺いました。


シャルル七世という役で、イザボーと観客との橋渡しを担いたい

――MOJOプロジェクトと銘打った、日本発のオリジナルミュージカル『イザボー』に参加されるお気持ちを教えてください。

 日本を代表する“メイド・イン・ジャパン”のミュージカルを作る、その第一弾に携われるのは、日本で俳優をやっている自分としてはとても嬉しいことです。今、日本で上演されているミュージカルは“日本産”のものが本当に少ない。ほとんどが輸入されているものなんです。だから、ミュージカルに関わる人たちは皆、日本で作りたいと思っているはずです。

 かつては、正直に言うと海外と比べるとミュージカルにできるような物語や知識、才能が劣っているのではと感じていた方も多いのではと思いますが、今、この現代においてはまったく遜色なく作れるのではないかと僕は感じています。

――『生きる』や『デスノート』といった日本オリジナルミュージカルもありますが、確かにブロードウェイや韓国ミュージカルが多い印象です。

 そうなんです。こういった“メイド・イン・ジャパン”を大切にしていきたいですし、もちろん海外の方にも観ていただきたい。でも、それ以前に、日本の観客の皆さんに「日本生まれのミュージカルでここまでできるんだ」というのを提示したいですね。日本の演出家、日本の俳優が一緒になって、ひとつの大きな壁を越えたいと思います。

――今回の『イザボー』に関して、史実にあるイザボー・ド・バヴィエールという人物については、ご存知でしたか?

 知らなかったです。フランスの話は『MA』や『エリザベート』にも出演しましたが、それよりも時間的には前の話なんですよね。国王もルイ7世とか、一桁台(笑)。まったく予想ができないと思っていたのですが、調べていたら少しマリー・アントワネットに似ていて。

 悪女と呼ばれて叩き潰されてしまった女性なんですよね。イザボーからマリー・アントワネットまで300年くらい離れているのですが、同じようなことで歴史は巡っているのだと改めて思いました。

 今は“人生100年”と言われる時代で、時が経つと自分の肌で感じることしか信じられなくなるのが人間だと思うのですが、結局歴史は繰り返している――。600年も昔の話ですが、今に通じるものはたくさんあるんじゃないでしょうか。

――おっしゃる通りだと思います。

 ただ、こういった話をエンターテインメントとして表現できるというのが今ならでは、だと思っています。これを教科書ではなく、作品として残すことができる。

 カッコいいとか可愛いだけじゃない600年前の話をエンタメにする意味がうまく表現できたらいいなと思います。演出の末満健一さんが掲げている“過去と現代のミックス”がまさにそれなんですよね。

――過去から学ぶことはたくさんありますよね。今回の甲斐さんはシャルル7世という役柄ですが、同時にお話を動かしていく語り部でもあると。ご自身ではどのような人物としてシャルル七世を捉えていますか?

 “語り部”と言われて「大変だな」と思いながら台本を見たところ、そうでもなくて(笑)。僕が観客の皆さんに物語を見せるというよりは、僕自身が王となっていく過程で国を理解したり、過去にあった歴史を学ぶという設定なんですよね。その歴史のひとつが、母である『イザボー』なんです。

 母に対する“わだかまり”のようなものをちゃんと理解しなくてはならなくて、そこから物語が始まります。開けたくない扉なのですが、王になるためにはちゃんと、その扉を開けなくてはならない状況。

 そのときに育ての親から、僕=シャルル七世が知り得ない、人々が欲にまみれていた時代の話をしてもらうんです。教科書やウィキペディアでは見られないような本当の母親の姿を紐解いていきます。

2023.11.30(木)
文=前田美保
写真=佐藤亘
スタイリスト=伊里瑞稀
ヘアメイク=ASUKA(a-pro.)