見出し画像

沖ノ鳥島の沈没問題から学ぶ「問題解決思考」の理論

沈没の恐れがあるといいつつ長年解決されていない沖ノ鳥島の問題

日本最南端の領土である沖ノ鳥島は、日本人なら誰もが小学校で習う場所だ。そして、同時にいつ沈没して領土でなくなるかわからないとも教えられる。沖ノ鳥島がなくなることの不利益は大きく、1988年には風化と海食を防ぐために護岸整備をして凌いできた。それでも、完全に防ぐことはできておらず、沈没まで16センチと危うい状態にあるという。
沖ノ鳥島の沈没に対しては、沖ノ鳥島産のサンゴを増殖して、沖ノ鳥島の周囲に定着させることで国土を守ろうとしている。

また、中国や台湾、韓国などの周辺国は沖ノ鳥島を「島」として認めておらず、「岩」だと主張を続けている。加えて、島であるならば人間の居住又は独自の経済的生活を維持することができるはずだと指摘を受けている。周辺国の追求に対して、日本政府も対策を講じており、灯台や船舶が接岸できるような港湾施設の設置を行っている。

このように、沖ノ鳥島には大きく2つの問題があることが広く知られている。1つは沈没の危険性であり、もう1つは島ではなく岩だという周辺国の指摘だ。政府も様々な対策を講じているものの、問題の原因が複雑であり、なかなか解決に至っていない。

問題解決思考の古典的理論

沖ノ鳥島のように、問題が古くから認知され、広く一般にも周知されているのに解決策がなかなか出ていない課題は数多くある。対処療法的に対策が講じられるも、時間とともに問題が深刻になって、気が付いたときには手遅れになっていることも少なくない。
このような状況はビジネスの現場でも見られる。問題を認知していながらも、解決できないまま期限が来てしまう。例えば、近い将来に現在の主流事業が縮小化することがわかっていながらも、業態転換ができないまま破綻してしまうケースがそうだろう。また、後継者育成の問題でも同じような構造が見られることが多い。
このような問題は、解決すべき課題が多数あり、なおかつ複雑に要因が絡み合っていることが多い。そのような複雑な課題に対して、産業組織心理学では問題解決の思考法について研究がされている。
問題解決思考の古典理論は、ブレインストーミングの発明で有名なアレックス・オズボーンとシド・パーンズ教授の研究成果だ。そこでは、問題解決方法は6つのステップを通じて考えることが効果的だと示されている。

ステップ1:目的の発見

初めのステップは、目的の発見だ。既知の問題の多くは複雑性が高く、なおかつ一般化され過ぎて、なにが本当に解決すべき課題なのかが見えにくいことが多い。例えば、フードロスが問題だとして、農家の廃棄野菜の利活用方法をいくら頑張っても問題はなくならない。それではどうすべきかというと、自分が解決すべき本当の課題は何かを、既知の課題を再定義することで決める。これが目的の発見となる。
先ほどの例ならば、フードロスをスタートとして、「作られる農作物の見た目が不ぞろいであるために、スーパーなどの大規模流通にのせることが難しい農家を助ける」まで課題を絞り込む。このときに絞り込む課題とは、課題解決によって、どのような変化を生み出したいのかというゴールだ。

ステップ2:事実の発見

自分独自の課題を設定したあとは、すぐに解決策を考えるべきではない。課題を設定したあとに脊髄反射的に思いついたアイデアの多くは、すでに誰かが考えた後なことが多い。そして、世の中に存在しないということは、そのアイデアは高確率で実現可能性に無理がある。そこで、解決策を考える前に問題の本質は何かを調べるために事実となるデータを収集する。
例えば、「大規模流通にのせることができない農作物をなぜ廃棄するのか?」という課題を調べると、「直売所まで大量の農作物を運ぶ負担が大きい」「売ったとしても売値が安すぎて利益が出ない」などの理由が出て来る。そこから、農家の廃棄を減らすためには「利益」と「農家の手間」という解決すべき要素がみえてくる。

ステップ3:問題の発見

ステップ2で集めた事実を基にして、次に行うのが解決策によって解決すべき課題の特定だ。フードロスの例で言うなら、規格外野菜を処理して農家の「負担」とならずに「利益」を生むことになるだろう。自分が実際に解決できそうな規模感で、尚且つ、現実に即した課題設定が重要になる。

ステップ4:アイデアの発見

ここまで来て、ようやく解決策の発案になる。また、アイデアの発見では、できるだけ数を多く出し、実現可能性はひとまず考えないことが良いとされる。つまり、ブレーンストーミングだ。ブレーンストーミングだけではなく、アイデアの出し方には様々な手法がある。日本発の手法では、KJ法が良く知られる。

ステップ5:解決策の発見

多数のアイデアを出した後、今度はアイデアの評価を行い、実際に実行する解決策を決める。このとき、アイデアをカテゴリにまとめたり、関連性のあるアイデアを繋げてパッケージを作り上げたりする。ここでは、冷静に、論理的な思考が求められる。
心理学では、個人が創造性を発揮させるときには、ユニークな発想が求められる拡散的思考と論理的・批判的に物事を考える収束的思考は区別した方が良いとされる。同時に行おうとすると、どちらかに比重が傾き過ぎてしまい、好ましいアイデアが出てこない。拡散的思考に傾くと、独創的だが実現不可能なアイデアが出て来る。反対に、収束的思考に傾くと、実現可能性は高いが毒にも薬にもならぬアイデアが出る。
重要なことは、アイデアを出す作業とアイデアを決める作業は別にすることだ。

ステップ6:承認の発見

解決策が発見できたとしても、すぐに行動に移せるわけではない。解決策の実行力を高めるためには、計画が必要だ。また、課題解決のためには、チームを編成したり、関係者からの協力を得るために根回しや体制構築が必要になることもあるだろう。自己資金だけで賄えないときには、資金調達の計画も立てなくてはならない。そして、計画を立てる中で、解決策の見直しや修正を強いられることもある。
フードロスの例を再び持ち出すと、廃棄野菜を農家が活かして利益を得る方法として、小規模バイオマス発電機をリースする事業などが考えられる。このような小型バイオマス発電機は世界中で研究開発がされ、日本でも福島の企業が取り組んでいる。このような設備を使いながら、事業計画を立て、実証実験を通して事業の仮説を検証してブラッシュアップしていく。

複雑な問題を解決可能な複雑さにまで単純化する

このように問題解決の古典理論では、いかに既知の課題を解決可能な大きさにまで再定義するのかが重要だということがわかる。ただ、ここで重要なことは、解決できそうな大きさにしたとしても、本質的な問題の解決に寄与しないものはいけないということだ。例えば、フードロスの例で、課題解決できる大きさにした結果、公民館で廃棄野菜のバザーをしましたというような草の根的な活動では規模を小さくし過ぎである。重要なことは、課題を解決することでゴールとなる世の中の変化を起こすことができるということだ。
課題は複雑で壮大なままでは解決することはできない。そのため、課題を再定義し、分析し、自分たちが解決すべき問題はなにかを自分たちで見つけなくてはならない。誰かに与えられたり、ニュースで言われているような課題は課題ではない。
問題解決のステップは言うは簡単だが、実行することは思いのほか難しい。オズボーンとパーンズはこのステップを教えるために、ニューヨーク大学バッファロー校で教育プログラムを開発しているが、有効性を確認できたのはMBA生向けの全15回のプログラムだ。そのため、初めて行うときには外部のコーチやファシリテーターを迎えて、ステップを踏むことが推奨される。
しかし、日本のビジネスパーソン向けにも同様の問題解決のステップが有効であることは研究から立証されている。トレフィンガー教授は、日本企業での同様の研修で受講生の問題解決行動の変容が統計的に確認できたと論文で発表している。
私たちは、つい、アイデアを考えたり解決策を考えるときに自然発生的な手法を好む傾向にある。しかし、ツールや手段を用いることも選択肢の1つとするのもお勧めしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?