15歳で女優デビューしてから第一線で活躍している松下由樹さん。最近になってやっと気づけたという心の声についてお聞きました。(全3回中の3回)

ひとりの時間の楽しみ方を味わえるように

── 今、暮らしのなかで大事にしていることはありますか?

 

松下さん:ひとりの時間がすごく好きになりました。ひとりで買い物に行ったり、食事に出かけたり。もちろん、誰かと一緒に大笑いしたり、楽しんだりすることも大好きですが、ひとりで街の風景を眺めながらいろいろ想像をしたり、何げない時間を過ごしたりするのが以前よりもっと、「楽しい」と思えるようになりました。

 

これまでは「こんなことしたら恥ずかしいかな」と思っていたことも、「自分が楽しいならそれでいい」と行動に移せるようになりました。昔もこのことは大事にしたいと思いつつも、年齢や経験を重ねるうちにいろいろ気負ってしまって、まわりの目が気になって躊躇していたんですね。

 

20代の頃の松下由樹さん
20代の頃の松下さん。第一線で走り続けてきた

でも、50代になってから「自分の好きを見つけにいってもいいんだ」と改めて思えるようになって。役を演じるためだけではなく、自分のためのリラックスした時間から得ることもたくさんあるんだなと実感できるようになりました。

 

── リラックスすることの大切さを味わえるようになったということでしょうか。

 

松下さん:そうですね。昨年くらいからふわっとそういう感じになったんです。

自分を試されていくなかで見失っていたもの

── 松下さんは、常に第一線を走り続けているという印象が強いです。

 

松下さん:仕事って、いつも試験みたいに、いろんなことが試されるじゃないですか。だから、肩に力が入ってしまっていることも多くて。力を抜くことは必要だけれど、なかなかできなかったようにも思っていました。

 

でも、50代になってから「これ好き」「これおいしい」って自分のシンプルな気持ちを忘れがちになっていたことに気づけて、「大切にしたい」と思えています。

 

松下由樹さん
好きな香りを楽しむのも大切なひととき

── そう思えるようになったきっかけはあるのでしょうか。

 

松下さん:私も不思議なんです。年齢なのかな。そもそも50代がどういうものかもわからないんですけどね。

 

デパートや雑貨屋さんに行っても、自分の好きな香りとか、「これ好き」ってピンとくるものを見つけるのが早くなったし、楽しくなってきました。「こういうことが大事なんだなあ」と素直に思えるし。以前はつい頭のなかで「オン」と「オフ」の切り替えを意識しがちだったけれど、最近はそう深く考えなくてもいいと思えているし、自然とリラックスできるようになってきました。

心身の変化と向き合うなかで救われた言葉

── 体調管理など気をつけていることはありますか?

 

松下さん:恵まれていることに大病は経験がないのですが、やっぱり年齢を経ると、女性ならではの苦労を感じないわけではないんです。

 

ただ、すごくラッキーなのは、自分の体調不良などを話せる人がまわりにいることです。気持ちのアップダウン、更年期といわれる時期の症状など、女性はいろんな心身の変化を経ていかなければいけないと思うんです。

 

30代から40代は、特に気負ってしまうことで緊張したり、頑張りすぎてしまったりしがちですよね。でも、外に吐き出すことでマイナスな影響を与える可能性も出てくるかもと思うと、やっぱり怖い。

 

そんなときに信用できる人、「私もそういう経験ある」って言ってくれる人とちょっとでも話せたりすると、気持ちがすごく紛れるのを感じます。それに、お互い支え合えたり、「いいよいいよ、休んでて」と声をかけあえたりもできる。私もそういう場面で救われたから、すごく大事なことなのかなと思います。

 

振り返ると、「頑張りすぎないで」といった言葉をマイナスに捉えてしまって、素直に受け取れなかった時期もあります。でもあるとき、自分の気持ちが楽になっていくのを感じて。

 

松下由樹さん
仕事の合間のリラックスタイム

── 自分のつらさを誰かに話せることは大事ですよね。

 

松下さん:心と体に大変な変化が起きている女性たちにとって、似た経験をすでにされている上の世代の方たちの「大丈夫よ」という言葉は、すごく励みになるというか。経験しているから言えることってあると思うんですよね。

「自分とつき合う方法」がわかってきた

── 先輩方や身近な方からしてもらったことを、松下さんから下の世代の方たちに伝えることもありますか?

 

松下さん:そうですね。一緒に仕事をしていると、助け合っていかなければいけないときはあると思います。キャリアを積むだけじゃなくて、自分とも、身体の変化ともつき合わなければいけない。身体の変化って、辛さが伝わらないときは、周りからわがままだと捉えられることもあって…。でも、寄り添ってくれる人との時間があれば、きっと身体にいい影響がある気がするんです。

 

── 自分の心の声を聴く感覚が研ぎ澄まされてきたということでしょうか。

 

松下さん:いろいろな変化のなかで、自分とつき合っていく方法がわかってきたということかも。素直に「これいいじゃん」「好き」って思えることで、自分で自分をリラックスさせてあげる。取るにたらないことかもしれないけれど、こうした当たり前のことが、身体にとって大事なんだなと思うようになりました。

 

── 普段から自分のいる空間に好きなものを置いたりされていますか?

 

松下さん:舞台に出演するときなど、楽屋や地方公演のときに滞在する部屋などでは、自分の好きな香りを添えるようにしています。スプレーでシュッとするだけで、リラックスできて、ほどよい緊張感で役柄に向き合える気がしますね。

 

PROFILE 松下由樹さん

女優。愛知県出身。15歳で映画「アイコ十六歳」のオーディションに合格し、女優デビュー。以後、数々のドラマや映画、舞台などで活躍の場を広げる。現在は、「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」と「恋する警護24時」に出演中。6月2日(日)~6月27日(木)まで、熱海五郎一座の舞台『スマイルフォーエバー~ちょいワル淑女と愛の魔法~』に出演予定。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/イエスコレクティッド