たったひとりとの出会いで、仕事の殻を破ることはあります。元TBSアナウンサーの竹内香苗さんは、仕事の姿勢を学ぶ貴重な人との出会いがありました。(全4回中の1回)

 

2人の笑顔になごむ!仕事の“大恩人”との懐かしいツーショット

—— TBSのアナウンサーになる前から、ラジオの仕事にも興味があったという竹内さん。2003年には、TBSラジオ「伊集院光 日曜日の秘密基地」のアシスタントに抜擢され、10年以上にわたり、息の合った掛け合いで番組の人気を支えてこられました。そもそも、どういうきっかけでアシスタントに選ばれたのですか?

 

竹内さん:最初に伊集院さんとご一緒したのは、入社3年目のときでした。じつは、「日曜日の秘密基地」で番組アシスタントを探すために、毎週違うアナウンサーがアシスタントを務めて伊集院さんとの相性を見るという、いわゆるオーディションも兼ねた出演でした。

 

── 緊張しそうなシチュエーションですね。しかも、伊集院さんといえば、ラジオ界の大御所。以前、テレビの生放送で、「新人時代は緊張しすぎてガチガチになった」とおっしゃっていましたが、そのときはどんな感じだったのですか?

 

竹内さん:たしかに緊張してもおかしくないシチュエーションなのですが、不思議とそのときは、すごくリラックスしていて、ずっとお腹を抱えて笑いっぱなしだったんです。ただただ楽しくて幸せな時間でした。

 

それまで私は、「アナウンサーとしてきちんとした姿でいなければ」という思いが強く、肩に力が入り、素の自分を出すことはほとんどありませんでした。だから、バラエティー番組で「もっと素を出して自然に」とアドバイスされても、どうしたらいいかわからず、「硬い」や「まじめ」といった優等生的なイメージを持たれることが多かったように思います。実際は、ぜんぜん優等生じゃないんですけどね(笑)。

 

でも、そのときは伊集院さんの温かな場のつくり方、掛け合いやお話の面白さに引き込まれ、いつのまにか“素の私”があふれ出てくる感じでした。「放送でこんなに自然に話ができたのは初めて」という感覚があり、自分でも驚きました。

伊集院さんから学んだ仕事への向き合い方

── 優等生イメージから抜け出すきっかけになったのですね。長く番組でご一緒されてきた竹内さんから見て、伊集院さんのすごさは何だと思われますか?

 

竹内さん:ひと言では言い表せないほどたくさんあります!毎回すごいと思うのは、どんなゲストの方がいらっしゃっても、皆さん必ず「楽しかった!」と、満面の笑顔で帰って行かれるんです。

 

ご存じの通り、伊集院さんは大変博識な方なので、とにかく引き出しが多く、ゲストの方とどんなジャンルの話題になっても話が広がり、深く掘り下げて、盛り上がるんです。それでゲストの方もどんどん饒舌になって、他のメディアでは話したことがないようなとっておきのお話をしてくださることが多いです。

 

伊集院さんはラジオを愛する気持ちがとても強くて、番組づくりへの情熱に溢れた方。事前準備にもかなりの時間をかけてのぞまれていますし、ふだんの生活においてもラジオを意識して、いろんな場所を訪れたり、記録もされているのではないかと思います。

 

おそらく、聞いている方に心から楽しんもらいたいという、どこまでもリスナーに寄り添う姿勢が行動の原動力になっているのではないでしょうか。

 

竹内さんの数少ない特技がローラースケートだとか

── ブレない信念を持ち、行動し続ける。プロフェッショナルたるゆえんですね。竹内さん自身も、伝える仕事のプロとして、ふだんからなにか準備されていることはありますか?

 

竹内さん:会社員時代からずっと続けているのは、とにかく「記録する」ことです。起きたできごとやそれについて感じたこと、役立ちそうな情報など、ありとあらゆることを記しています。

 

「いつか何かのきっかけで役に立つかもしれない」と思いつつ、20年以上続けているのですが、後で見返すと、ほとんどは使えないものばかりです(笑)。会社員時代はノートに記録していましたが、いまはスマホやパソコンに書き溜めています。

ラジオではテレビと違った話し方や距離感がある

── 貴重なデータベースですね。テレビとラジオでは、同じメディアでも伝え方が違うと思いますが、どんなことを大切にされていますか?

 

竹内さん:TBSラジオのコーポレートメッセージが、「聞けば、見えてくる」だったのですが、まさにこの言葉を大切にしています。当然ですが、ラジオはテレビと違って映像がないので、こちらから届ける声や音がすべてです。会話のやりとりひとつにしても、なるべく映像が浮かぶように話すことを心がけています。

 

テレビとラジオでは、伝え手と受け手の「距離感」が違うので、使う言葉もおのずと違ってきます。例えば、「皆さん」という言葉。テレビでよく「番組から皆様にお知らせです」という場面がありますが、ラジオでは「皆さん」と言わないようにしています。

 

── たしかに、「皆さん」と言われると、不特定多数という感じを受けますね。

 

竹内さん:「皆さん」と言われた瞬間、なんだか距離を感じてしまいますよね。ラジオは、リスナーとの心の距離感が近いメディアですから、大勢に向かって喋っている感じではなく、ラジオの前の「あなた」に話しかけるような感覚を大切にしています。

 

PROFILE 竹内香苗さん

1978年、愛知県生まれ。東京外国語大学卒業。2001年にTBS入社後、テレビでは「王様のブランチ」「サンデージャポン」「みのもんたの朝ズバッ!」「はなまるマーケット」、ラジオでは「伊集院光 日曜日の秘密基地」など、様々なジャンルを担当。2012年にTBSを退社後、ブラジル、アルゼンチンを経て帰国。現在、ホリプロに所属し、フリーアナウンサーとして活躍中。テレビ東京「週刊ビジネス新書」レギュラー出演中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/ホリプロ