はらぺこファーム
高橋 紀子(たかはし のりこ)さん
チャレンジ分野:

プロフィール

1999年     北海道酪農学園大学卒業

2000年     長野県八ヶ岳中央農業実践大学校卒業

2001年     地元に戻り、無農薬、無化学肥料栽培のラズベリー、ブラックベリー栽培を 始める

2003年     はらぺこファーム工房オープン 本格的にジャムなどの加工を始める

2009年     「庄内町一店逸品研究会」に参加 リキュールやリーフティの開発も手掛ける

1男1女の母として、子育てにも奮闘中。

チャレンジのきっかけ

 稲作農家の長女として 生まれる。何の疑問もなく“実家で農業を継ぐ”という思いで北海道酪農学園大学へ進学。しかし、就職活動の時期になり、“将来このままでいいのか”と真剣に悩むようになる。そのころ、大学の酪農実習でラズベリーに出会い、そのかわいい様子に強烈に引かれた。独自で調べてみると、国内産のラズベリーは、大変少なく貴重なものであることが分かった。

 『これは自分の農業として取り入れることができるのではないか』と思ったという。
 「体調崩すぐらい悩んでいた時期もありました。でも、何かに向かって進んで行けば、開けるものがあるかもしれないと、ラズベリーに自分を託しました。」
 その後、更なる知識習得を求めて長野の八ヶ岳農業実践大学校で1年学ぶ。学校にラズベリーの栽培技術を知る人は少なかったが、学校の許可を得て、近くにあったラズベリー専門の農園に足繁く通い知識を得る。その時習得した知識・技術が、現在の紀子さんの基礎となっている。

チャレンジの道のり

 学校卒業後、稲作農業に従事するご両親や夫の協力も得て、さっそく自宅裏の畑を活用しラズベリーを植えた。同じころ出産。子育てをしながら栽培を続け、2年後には、ラズベリーを加工する工房もスタートすることができた。
 現在、はらぺこファームでは、ジャムやフルーツソースに加え、県内の店舗と協力して開発したラズベリーリキュールや、ラズベリーリーフティーも販売している。
 また、生のおいしさを伝えるために始めたのが観光農園。きっかけは、子育て中でなかなか外に出ることができない紀子さんの逆転の発想だった。
 「自分が子育てでどこにもいけないと不満に思うのではなく、他から来てもらえばいいんじゃないかと思い、最初は子育てサークルの行事として始めました。その様子をブログにアップするようになると、口コミで広がっていったんです。」
 観光農園は、有機栽培されたラズベリー畑の中、安心して子どもたちに自然の場を提供したいという思いで続けている。今まで、子育て中のママさんなど近隣の方はもちろん、外国の方、時にはホテルやケーキ屋さんなど、ラズベリーを使いたいという企業の方からも連絡をいただき、人と繋がる大きなきっかけとなっている。
 有機・減農薬栽培に取り組み、革新的な農業に取り組む両親を小さいころから見て育ってきた紀子さんにとって 、ラズベリーを有機栽培するということは当然のことだったという。将来に悩んだ学生時代があったが、他の職種ではなく農家を生業(なりわい)として生きていくという考えは、ずっと変わらなかった。
 「両親は良き相談相手です。今思うと、決められたレールにのって実家を継いでいたら、周りの人との繋がりも生まれなかった。物になるかどうか分からない状態でラズベリーを始めたのに、両親は応援してくれました。人生のレールではなく、自分で飛ぶための翼を与えてくれた両親にすごく感謝しています。」
 両親の他にも、ラズベリーの収穫を手伝ってくれる義母、そして 観光農園では、子ども たちもお客様のご案内を手伝ってくれる。普段から畑作りを手伝ってくれる夫は、精神的に一番頼りになる存在だ。家族みんなに支えられて、続けることが出来ていると感謝している。

現在の活動内容

・ラズベリー栽培
 20aぐらいの畑を利用してラズベリー、ブラックベリーを栽培している。収穫ピークの6月下旬から7月中旬頃までの1カ月間は非常に忙しい。無農薬・無化学肥料での栽培は、草刈り、選定作業も人力で行う。手間がかかるが、両親の姿勢を受け継いで試行錯誤しながら取り組んでいる。

・ラズベリー加工・販売
 ラズベリーは日持ちがしないため、生のままでは遠方への流通は難しく、学生時代に学んだジャム加工の技術を活かして加工している。ジャムの他に、フルーツソースやピューレなどにも加工。ピューレは、学校給食でゼリーになって子ども達に提供されている。
 また、『庄内町一店逸品研究会』に参加している紀子さん。その活動の中で開発された商品に、酒田市内のフレーバーティー専門店プティポアンさんと共同開発した「ラズベリーリーフのお茶 ルイボスティーブレンド」などがある。お客様の声も取り入れ、カフェインレスのものやティーバックも販売中とのことで、ロングセラー商品となっている。5年前からは、庄内町の酒屋、酒蔵、そしてはらぺこファームとの“農商工連携”で開発された国産ラズベリーを使用したリキュール「陽だまりのラズベリー」も販売している。

 「庄内町の商店街が主催している『庄内町一店逸品研究会』に所属したことで、新しい商品の開発も手掛けるようになりました。それまでは“自分で全てやらなければ“と思いこんでいました。ですが、この会をきっかけに、酒屋さんやフレーバーティー専門店など、自分には無い知識・技術がある方にアドバイスをいただいたりして、商品の幅が広がりました。新しい商品を開発するということは、エネルギーもいるし大変ですが、この会に参加させていただいたことで、非常にいい経験をさせてもらっています。」

・観光農園
 ラズベリーの採れる時期に合わせて観光農園をオープンし、多くの子どもたちが訪れる。観光農園は、人との繋がりを生む大切な場所だ。
 「ピーク時に合わせて開園する観光農園は、人手も足りないし、大きな収支にはなりません。しかし、喜んでくれる人のために何かすることで、お金ではなく、何か別のところから、出会いや、感動が生まれることもあります。面白い展開に つながったりすることもあるということを、観光農園を通して実感しました。お金ありきで動くとお金ありきのつながりしか生まれないですが、そうではなく“自分とつながりたい”と思って連絡をくださった方との出会いを大事にしたいと思っています。」

今後の目標・メッセージ

 “風土”と言う言葉は、「風:外からの刺激」と「土:この場所を守り続けるもの」で成り立っている。
 紀子さんは、“ラズベリー”という新しい作物を取り入れ、 “新しい風”として、地元に帰って来たが、地元には、昔からの農業を守ってきた方達がいる。当初、紀子さんは稲作に携わっていないということで、長年稲作をやっている方からの風当たりが強かったという。それを批判的に捉えるのではなく、いろんな人たちの気持ちを受け止めつつ、自分の考えを実現する方法を学ばなければいけないと語る。

 「以前は、『自分は、誰もやっていないことをやっている』という自負があり走り続けていましたが、それは、『新しいことをやっている』という若者特有のおごりでした。今まで地元で続けてきた人たちの努力があって、今、自分がこの土俵に上がらせてもらっているということを忘れはいけないと気付いたんです。先人の努力を忘れてしまっては、自分も受け入れてもらえないし、若い人が新しいことを始めた時に、自分も新しい風を受け入れることが出来ない“カチカチの土”になってしまうと思うのです。子どもも大きくなってきて、自分の考え方も変わってきています。他で、いろいろ学んで戻った時は“風”だったかもしれないけれど、長く続けて来たことで自分の役割もだんだん“土”に変化していると感じています。これからは、風を受け入れる“柔らかい土”になれたらと思っています。これが今の目標です。」

(平成28年1月取材)