トピック

テレビアナウンサー「上原あずみ」初めてのモータースポーツ参戦記

今後はTOYOTA GAZOO Racing Rally Challengeでコ・ドライバーにも挑戦!

ダイハツ工業 コーポレート統括本部 DGR(TGR出向) 兼 D-SPORT Racingチーム ドライバーの相原泰祐氏(左)と、SPK株式会社 代表取締役社長 兼 D-SPORT Racingチームオーナー 沖恭一郎氏(中)、そして今回初めてモータースポーツに挑戦する上原あずみさん(右)

 近頃は登山やロードバイク、マラソンなど、ハードなスポーツ趣味に打ち込む女性が増えているようだ。こうしたスポーツは目標を立ててそれを自身の努力で乗り越えたとき、格別な達成感が味わえるのが大きな魅力となる。

 そしてモータースポーツもこれらのスポーツ趣味と同様に、女性の進出が目立つジャンルである。とくに近年はトヨタやダイハツといった自動車メーカーが、クルマの魅力をユーザーに伝える一環としてモータースポーツの普及に力を入れていて、Car Watchでも参加型モータースポーツイベント「D-SPORT&DAIHATSU Challenge CUP 2022」「D-SPORT CUP」などをレポートしてきた。

 こうした取り組みは、クルマ好きを増やすだけでなく、女性がモータースポーツに参加しやすい環境を整えることに大きく貢献するだけに、多いに盛り上がってほしいものだ。

SPKが主催する参加型モータースポーツイベントの「D-SPORT&DAIHATSU Challenge CUP」でも女性の参加は多い

モータースポーツに初挑戦する上原あずみさんに注目してみた

 さて、ここでモータースポーツの世界に挑戦を始めた女性を紹介しよう。それが近畿地方のTV番組内にて地域の話題を伝えるアナウンサーとして活躍している「上原あずみ」さんだ。

TV番組で地域の話題などを視聴者に伝えるアナウンサーをしている上原あずみさん

 その上原さんがモータースポーツと接点を持ったのが、昨年9月にテレビの取材で訪れたTOYOTA GAZOO Racingが主催するラリーチャレンジ2022の第9戦となる「びわ湖 高島」ラウンド。滋賀県では初開催ということもあり、地元テレビアナウンサーとして駆け付けた訳だが、それまでモータースポーツ経験の一切なかった上原さんは、狭くうねった公道をもの凄いスピードで駆け抜けていくマシンも、走り終わったマシンをテキパキと整備するメカニックも、すべてが初体験。

 そして参加チームの中でもひときわ明るく楽しそうに見え、同じ滋賀にテストコースや工場があるダイハツ関係者も参加するD-SPORT Racing Teamに出会い、知らないことだらけの初心者にチーム員たちがいろいろと説明してくれ、次第に「モータースポーツってカッコイイ!」という気持ちが湧いたほか、会場では小柄ながらもレーシングスーツをスラっと着こなし、ラリーに挑んでいる女性ドライバーに遭遇。思わず「え! 女性も参加できるんだ」と心を奪われたという。

 ラリチャレがきっかけでラリーに興味を持ち、昨年11月に愛知県と岐阜県で開催された「WRC・ラリージャパン」も訪れ、帰還した車両やドライバーたちに大勢の観客が歓声を送る現場の熱気に触れるとともに、クルマだけでなく、チームクルーやメカニックなど、ラリーに関わるすべてに魅力を感じ、持ち前のチャンレジ精神もあり「自分もやってみたい!」と決意を表明。

 そんな上原さんの熱い気持ちを聞いたD-SPORT Racing Team関係者が、2023年1月に参戦を予定していた軽自動車の耐久レース「K4-GP」のドライバーとしてシートを用意することを上原さんに打診。まさかラリーチャレンジを取材した4か月後に、自分もモータースポーツに参戦する機会がやってくるなんて、さすがに本人も驚いたという。

スキーやスノボと同じようにウェアやギアを揃えるところからスタート

K4-GP本番前にレーシングスーツなど装備の試着を済ませた上原さん

 アナウンサーが仕事の上原さん。取材現場では当然のことながら取材対象の話を聞くわけだが、上原さんはそこで相手に対して「憧れ」や「尊敬」を感じることが多いそうで、ラリージャパンの会場で抱いた「凄い! 自分もやってみたい」と気持ちを口にしたのが、今回のモータースポーツデビューにつながっている。とはいえ先述したとおり、上原さんはモータースポーツの「モ」の字も知らない素人。まずはレーシングスーツやグローブ、シューズなどギアを揃えるところからスタートしたという。

つま先の裏にあるロゴマークを見つけて思わず「かわいい!」
フェイスマスクも全体のカラーコーディネイトを考えてチョイス

 そこで今回初めてレーシングスーツを着たわけだが、試着する前は女性向けがあることを知らなかったので「着た姿がずんぐりむっくりになってしまうのではないか」という心配もあったものの、用意されていたのがアルパインスターズの女性向けの「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」で、着てみたところ予想を超えるフィット感に驚き、そして「カッコイイ」と思ったという。これは単に身体に合うことだけでなく、腰まわりが絞られていてなおかつデザイン的に「シュッとして見える」ことがよりそう感じさせたそうだ。

上原さんがアルパインスターズの「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」を着用した姿。FIA8850-2018公認モデルなので、すべての競技に対応する
バストとヒップ部にボリュームを持たせただけでなく、男性用より腰の部分がシェイブされているので、よりかわいらしく、カッコよく見えるシルエットになっている

 着心地については、第一印象としては見た目より動きやすいことに驚いたという。難燃性の生地はゴワゴワしたイメージもあり、さらにマルチレイヤーという構造だけに「堅い着心地」を想像していたそうだが、着てみたところ全然そんなことはなく、腕や腰、膝といった動かしたい部分はとてもスムーズに動かせたという。また、マルチレイヤースーツながら生地が薄く、軽いことにも驚きを感じたという。

レーシングスーツの下には同じくアルパインスターズの「ZX EVO v2」シリーズの耐火性アンダーウエアを着用。素肌に触れるものだが、「肌触りもよかったです」と上原さん

いよいよ軽自動車の耐久レースにレーシングドライバーとして参戦

1月29日に富士スピードウェイで開催された「K4-GP FUJI 7時間耐久レース」が上原あずみさんのモータースポーツデビュー戦となった

 K4-GPは複数人のドライバーが交替しながら1台のクルマをゴールまで走らせる耐久レースだが、レース途中の燃料給油に少々時間がかかる仕組みとなっているので、速いだけでなく、いかに燃費よく走らせるかが重要なエコ耐久レースでもある。なお、K4-GPでは参加者全員が「楽しく」「安全に」「笑顔で」レースを終えることを方針として掲げているので、国内の草レースでもとくに人気が高いイベントとなっている。

上原さんは2番手のドライバーとして登場
参戦マシンのミライ―スは、本番寸前までカラーリングなどの作業が行なわれ、前日の練習日にシェイクダウンしたばかり。ロールバー、サスペンション、ブレーキ、ホイール、タイヤをスポーツ用に交換したライトなチューニング仕様。サーキット初心者の上原さんが乗るのでリアに「初心者マーク」を貼っている

 レーシングギアを揃えた上原さんは、本番前日の練習走行枠で富士スピードウェイを初走行。人生初のサーキット走行を経験。昨年は選手と観客としての関係だったメインドライバーの相原選手が、今度は一緒に走るチームメイトとなって上原さんに走行ラインなどをレクチャー。速いマシンが安全に抜けるように、周りを見ながら走ること、急ハンドルや急加速・減速をしないよう気を付けながら練習したという。

 そしていざ本番のレース当日、上原さんの出番は2番手。コース上で大きなレースアクシデントがなければ先頭ドライバーは淡々と走るが、いつなにが起こるか分からないのがサーキット。上原さんはレーシングスーツに身を包んだままモニターを眺める。レーススタートから2時間ほどが経つころ、コース上でアクシデントがあり、コース上の障害を排除するためにコース全域が追い越し禁止になる「フルコースコーション」に。そこで上原さんがついに搭乗。

 その後もフルコースコーションがしばらく続いたが、やっとオールクリアになったタイミングで上原さんにピットインの指示が飛んだ。もともと初心者のため周回数は少なめに設定していたとのことで、ミライ―スを降りた上原さんは「悔しい! もっと走りたかった~」と完全にサーキット走行の楽しさに目覚めた様子。

NAエンジン&CVTのクラスに参戦したD-SPORT Racing Teamのミライ―スは、7時間のレースでペースと燃費のコントロールを巧みに行ない、クラス2位でチェッカーを受けた

 上原さんは今回、仕事中のちょっとしたきっかけでモータースポーツに触れ、気がつけば自身がサーキットを走ることになっていたことを振り返り、「モータースポーツに参加するのに早いも遅いもなく、自分がやりたい!と思ったら誰でもチャレンジできることを実感しました。特に最初に出会ったD-SPORT RacingTeamは、私も街中でよく見かける軽自動車やコンパクトカーでモータースポーツに参加しているので、私も参加しやすかったです。でも、今回は周回数が少なかったので、もっと練習して、これからもっとサーキット走行を楽しみたいです。わくわくキラキラした気持ちになれて、人生の楽しみが増えました!」と語ってくれた。

 そしてなんと上原さんの挑戦はドライバーだけにとどまらず、今度はTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジに、D-SPORT Racing Teamのコ・ドライバーとして参戦することが決まったという。上原さんのように「やりたい!」という気持ちが少しでもある人は、まずは軽自動車やコンパクトカーからモータースポーツを始めてみてはいかがだろう。

上原さんはアルパインスターズの女性向けレーシングスーツを着用

 レーシングスーツはモータースポーツを安全に行なうための装備品として重要で象徴的なものだが、発売されている多くの製品は男性向け。そのため、男性とは身体のラインが異なる女性が着用すると、サイズは合っていても胸まわり、腰まわりがフィットせず、ドライビング中に不快感や動きにくさを感じてしまうことがあるそうだ。

 でも、だからといって1つ大きいサイズを選ぶと、今度は裾が余ったり、腰まわりがボテッと見えてしまうし、タイトなバケットシートに収まったときに、オーバーサイズでだぶついた部分が不快さを感じる要因になってしまう。また、最近のレーシングスーツはピッタリ目に着る着用スタイルなので、オーバーサイズを選ぶのは着こなし的にみても時代にあっていないなど、女性のレーシングスーツ選びは難しいものであった。

 しかし、そんな状況を打開したのが「女性向け」として作られたアルパインスターズのレーシングスーツ「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT(ステラ ジーピー プロ コンプ ブイツースーツ)」だ。モータースポーツに打ち込む女性ドライバーが、“仕方なく”男性用を代用していた時代を終わらせた製品である。

アルパインスターズの女性用レーシングスーツ「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」は、通気性に優れたマルチレイヤースーツでFIA8856-2018公認。カラーはブラック/ターコイズ/ホワイトとブラック/パープル/ホワイトの2色を設定。価格は15万7300円

 この「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」は、トップカテゴリーのドライバーも着用する「GP PRO COMP v2 SUIT」を女性向けにデザインし直した製品で、女性の体型に合うように胸部や腰まわり、臀部の裁断が変更されたものだが、単純にシルエットを「そうした」だけの製品ではない。

 レーシングスーツとしての性能も追求するために、世界で活躍する女性レーシングドライバーの協力のもとデータを収集。女性の体型に合うだけでなく「女性の体型に合わせたうえでドライビングがしやすい」製品に仕上げたという。

通気性、柔軟性、伸縮性、快適性の向上にもこだわった作り
動きやすさを高めるフルフローティングアーム構造を採用
F1向けスーツ由来のストレッチメッシュパネルを腰と股部分に採用。また、腰にはウエストベルトがあり、これを締めるとより女性らしいシルエットになる
首の後ろにはFIA基準が明記されている。首の両サイドには頸椎を守るギア「ハンス」がズレにくくなる「シリコングリップテクノロジー」を採用
シートに座った際にスーツが滑ることを防ぐために腰にも「シリコングリップテクノロジー」が採用されている
小柄な女性ではシート自体がブカブカな場合もあるので、この「シリコングリップテクノロジー」はシートがピタッと合わない場合もフォローしてくれる

 そしてこの「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」を日本で販売するにあたり、アルパインスターズの正規輸入元であるSPKが、さらに日本の小柄な女性にマッチするサイズとして「36」を「日本限定品」として特注しているのだ。これを一般的な洋服のサイズに直すと「XXS」。いままで小柄な女性が「自分にフィットするレーシングスーツを着る」ということは、フルオーダーで作る以外はあきらめるしかなかったが、「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」に36サイズが設定されたことで一気に身近なものとなった。

 なお「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」の「36」サイズは、ブラック/ターコイズ/ホワイトのみのカラー設定だが、レーシングスーツ選びにおいてサイズ&シルエットが適正で着用した姿が「カッコイイ」ことも重要な要素なだけに、このサイズが設定されたことはとても大きな意義があるだろう。

「STELLA GP PRO COMP v2 SUIT」のサイズは36(XXS)、38(XXS~XS)、40(XS)があり、ほかに42(S)、44(M)、46(M~L)、48(L~XL)、50(XL)は特注サイズ
使用したグローブは「TECH-1 RACE v2 GLOVES」でカラーはブラック/ホワイト。ほかにブラック/レッド、ブラック/蛍光イエロー、ブラック/蛍光オレンジ、ホワイト/ブラック/レッドがある。なお、このモデルにもXSサイズが特注で設定されている。ほかはS~Lがあり、XLは特注で対応。価格は2万6180円
シューズは「TECH-1 T v3 SHOES」のライトブルー/ブラック/ホワイトを履く。レーシングスーツの腕にあるSPKグループのロゴカラーに合わせたチョイス。メインアッパー素材には100%牛革を採用。つま先にはプロテクターと耐熱ノーメックスライニングにより熱から足を保護。履きやすさとフィット感も追求した作りだ。価格は5万4780円
フェイスマスクはFIA8856-20018公認の「ZX EVO v2 BALACLAVA」。カラーは5色展開でサイズはワンサイズのみ。価格は1万5180円

Photo:堤晋一