ライフネット生命を創業した出口治明・立命館アジア太平洋大学学長の部屋には無数の書籍が積み上がる。どんなに忙しくても読書を欠かさない出口氏に、中小企業経営者が読むべき書籍を聞いた。

<span class="fontBold">出口治明(でぐち・はるあき)</span><br />1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社し、2006年に退職。同年ネットライフ企画(現・ライフネット生命保険)を創業。10年間社長・会長を務め、18年1月から立命館アジア太平洋大学学長(写真/山本 巌)
出口治明(でぐち・はるあき)
1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社し、2006年に退職。同年ネットライフ企画(現・ライフネット生命保険)を創業。10年間社長・会長を務め、18年1月から立命館アジア太平洋大学学長(写真/山本 巌)

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

 この言葉を残したのは、プロイセンを強国に押し上げた名宰相として知られるビスマルク。

 このような過去のリーダーの名言を引くまでもなく、書籍から学べるものは多い。その理由は、新しい技術やビジネスモデルが出てきているといっても、人間そのものに大きな変化はないからだ。

 資本主義や民主主義といった社会のあり方や政治制度についても、過去からの経緯を理解しなければ本質的な理解は難しい。

 取材などで接点を持つ中で、書籍から得られる利益を十分に享受していない経営者が一定数いる、という印象を持っている。

 今、新型コロナウイルスによって社会に大きな影響が出ている。米国と中国の対立が世界経済の先行きを不透明にしている。それでも、優れたリーダーはリーマン・ショックやバブル崩壊のタイミングで起きた事実を踏まえ、落ち着いて対処している。

 「こんな事態は初めてだ。どんな手を打ったらいいのか分からない」と困っている人こそ、書籍を手に取るべきだと考える。

 今回は出口治明・立命館アジア太平洋大学学長に目を通すべき書籍を推薦してもらった。

 出口氏が薦める書籍に共通するのは、書籍の内容を理解するための専門知識が求められない点、1冊読破せずとも参考になる情報を得られる点だ。まずは1冊手に取ってほしい。

(日経トップリーダー編集部)

今回は「中小企業経営者向け」「古典を中心」という条件で紹介をお願いしました。提示された5冊をおおよそ分類すると、古典が2冊、新しい本が3冊です。

出口:今回は、有益な書籍であっても、理解するために専門的な知識や、多くの読書経験が必要なものは選んでいません。経営に悩む社長さんにとって必要かつ、読みやすいものを選んだつもりです。

1冊目に『貞観政要』を挙げた理由は何でしょうか。本書は唐の2代皇帝、太宗・李世民と臣下との言行録が主な内容です。

皇帝の言行録から
リーダー論を学ぶ
<span class="fontSizeM">皇帝の言行録から<br>リーダー論を学ぶ</span>
(写真/山本 巌)

『貞観政要』

原田種成著
明治書院
中古書籍のみ

 読み方のコツ 
上下巻でかなりの厚みだが、現代語訳があり、1つずつの話も短いので読みやすい。1日1話読むだけでも十分。中間管理職へのリーダー教育の教材にも適している。

出口:本書の最も重要なポイントは、太宗が唐の繁栄の基礎を築いた偉大なリーダーであることです。貞観とは、彼が治めていた時代の元号で、1400年近く昔のことです。

 古典として読み継がれているものは、そのほとんどが学者の立場にある人が書いたものです。これは皇帝とその臣下の問答が中心。説得力が違います。

座右の銘にする「三鏡」

特に印象に残る話、経営者が参考にしたほうがよい話は何でしょうか。

出口:1つだけ挙げるなら、「三鏡」です。リーダーが正しい意思決定を下すために3つの鏡を活用することの大事さを説いています。私も座右の銘にしています。その3つとは、「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」。順番に紹介しましょう。

 「銅の鏡」は現代の鏡と同じ。自分の顔や姿をチェックして、明るい表情をしているか、部下が話しやすそうな雰囲気を出せているかを確認する。不機嫌な顔をしていたら、意見を述べようと思った部下は話すのを止めてしまうかもしれません。それを防ぐために、銅の鏡で自分の姿を確かめます。

 「歴史の鏡」は、過去を学んでこれから起きる事態に備えるという意味です。過去の出来事を多く学び、現在起きている事象、将来起こり得る事象について類推して対策を取ることができます。

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