奈良の小さな運送会社からスタートしたフジホールディングスの成長が続いている。自社開発のトラックやITシステムなど自前で積み上げた仕組みが強みだ。人手不足や燃料費の高騰に苦しむ運送業界で変革をリードする可能性を秘める。

メーカーと共同で独自に開発したトラックの前に立つフジホールディングスの松岡弘晃社長。「運送会社の強みは車両にある」と語る(写真/山本尚侍)
メーカーと共同で独自に開発したトラックの前に立つフジホールディングスの松岡弘晃社長。「運送会社の強みは車両にある」と語る(写真/山本尚侍)

 フジホールディングスは、奈良市に本社を置くフジトランスポートを中核に、複数の企業を傘下に持つ運送会社グループである。2022年6月期のグループの年商は485億円。21年6月期の413億円から72億円の増収となった。近年は全国各地の運送会社を傘下に収め、事業を拡大。グループの従業員数は22年11月1日時点で2850人、保有する車両は2430台に上る。

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 グループを率いる松岡弘晃氏がフジトランスポートの前身である富士運輸の社長に就いてからの約20年で、事業規模は30倍以上になった。国内のトラック運送事業者の95%は中小企業である。国土交通省の資料によれば、事業者の49%は従業員数10人以下となっている。直近では人手不足に加え、燃料費の高騰も事業者の経営を直撃している。来年にはトラックドライバーの時間外労働の規制が厳しくなる、いわゆる「2024年問題」も控えており、運送事業者は厳しい環境に置かれている。

 その中にあって、フジホールディングスは成長のスピードを加速させている。人材難とも無縁だ。その鍵は、業界の常識にとらわれず、自ら考えて自ら仕組みを構築する「自前主義」の経営を貫いてきた点にある。

独自開発トラックで飛躍

 富士運輸は松岡社長の前任の松岡日出夫氏が1978年に創業した。松岡社長は早くから「会社経営をしたいと考えていた」と話す。そのため、学校で経理を学んだ後は、奈良三菱ふそう自動車に入り、整備や営業の仕事に従事。このときに身に付けた車両に関する知識や経験が、その後の車両開発や整備などに生きている。その後、富士運輸に入社した松岡氏は、先鋭化した社内の労働組合運動問題を解決しながら、現在につながる経営改革に乗り出した。

 フジグループの事業の特徴は大型車両による中・長距離の輸送に特化している点にある。引っ越しや店舗配送、宅配便のほか倉庫業などにも手を出さず、中・長距離輸送の品質向上と効率化で成長を遂げてきた。

 ただし、大型車両による中・長距離の輸送には競合も多く、価格競争に陥りがちだ。また、ドライバーの労務やコンプライアンスの管理も難しくなる。

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