イノベーションには非凡なアイデアが必要と思われがちだ。しかし、「適切な場を用意できれば、凡人でも素人でもイノベーションを起こせます」と島津製作所シニアフェローの田中耕一氏は話す。イノベーションの創出には何が必要なのか、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中氏に話を聞いた。

■お知らせ■

オンラインで誰もが自由に議論できるオピニオン・プラットフォーム「日経ビジネスRaise(レイズ)」では、イノベーションに関する話題を「オープン編集会議」というコーナーでRaiseユーザーの皆さんとともに議論してきました。公募した「オープン編集会議メンバー」と編集部が共同で一部の取材を実施したほか、編集方針についても議論をしました。

その内容は、本日(7月23日)発売の日経ビジネス本誌の特集「オープン編集会議で考えた イノベーションは起こせる」に反映しています。ぜひ、本誌特集をご覧いただき、特集の内容についてご意見をお寄せください。(本誌特集記事は日経ビジネスオンラインの会員無料ポイントでご覧いただけます)

特集についてのご意見こちら→日本のイノベーションは停滞している?

記事最後で新たな「オープン編集会議」プロジェクトにご参加いただく、第2期オープン編集会議メンバーを公募しております。ご応募、お待ちしております。

島津製作所シニアフェローの田中耕一氏(田中耕一記念質量分析研究所所長、写真撮影:行友重治、以下同じ)
島津製作所シニアフェローの田中耕一氏(田中耕一記念質量分析研究所所長、写真撮影:行友重治、以下同じ)

田中さんは2002年に「高分子のソフトレーザー脱離イオン化法」でノーベル化学賞を受賞しました。同技術を発展させ、今年2月にはアルツハイマー病変の早期検出技術を発表するなど、イノベーションを起こし続けています。田中さんは「イノベーション」についてどうお考えですか。

田中耕一・島津製作所シニアフェロー(以下、田中氏):イノベーションは「技術革新」と訳されたためか、今までとは全く違ったことをやらなければいけない、と思われがちです。しかし、私はそんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかと思っています。今までにあった古い知識や技術でも、新しい捉え方ができればイノベーションにつながるはずです。

 イノベーションを定義したヨーゼフ・シュンペーターによると、従来からあった要素を新結合させたり、新しい捉え方・活用法を見出したりすることをイノベーションとしています。

 これまで蓄えてきた知見を生かせばいいのに、レガシー(古い資産)は足かせになるから捨て去るべき、という先入観こそが良くありません。イノベーションには「技術革新」というイメージがありますが、そういう狭い範囲で捉えてしまうと、ある意味で手足を縛ってしまうのです。

 イノベーションを起こすために、新しく特別な場所を設ける必要が本当にあるでしょうか。イノベーションに必死になるあまり、呪縛のようなものにとらわれると、今まで蓄積してきた価値のあるものを生かすチャンスを自ら失ってしまいます。

これまで蓄積してきた技術や知識を生かすために、企業には何ができるでしょうか。

田中氏:特別な場所ではなく、気張らずに意見交換できる場所を用意すればいいんです。むしろ正式な会議にすると固まった思考になってしまいます。ちょっとコーヒーを飲んでリラックスした時に「最近、仕事でこういったことに悩んでいるんだ」と他部署の人に打ち明けられるような場所ならどこでもいい。

 文系、理系を問わず様々なバックグラウンドを持つ人たちが率直に意見を交換できれば、凡人や素人であっても、イノベーションは起こせます。

 重要なのは、様々な視点を持つ人たちによる「異分野融合」です。例えば今、家電メーカーなどが介護サービス事業に進出しています。島津製作所もアルツハイマー病変の早期検出法を確立しましたが、介護業界の人たちと一緒になれば、重度の要介護状態を防ぐためにはどんなことができるだろうかといった課題に対しても、意見が出てくるはずです。

 残念ながら日本の企業では、2つの部署がほんの数十メートルしか離れてないのに、没交渉というケースは少なくないと思います。

必要なのは日本の自信回復だ

「日本にはイノベーションを起こせる素地がある」と話す田中氏
「日本にはイノベーションを起こせる素地がある」と話す田中氏

なぜ異分野融合が起こらず、没交渉になってしまうのでしょうか。

田中氏:日本には、自信が欠けているからだと思います。これまでアジアで自分たちだけが優等生だったのに、日本よりも成績の良い国が隣にいくつか出てきた途端、相対的に落ちてきて自信をなくしてしまっています。

 自信を失っているからこそ、従来の研究、技術に一生懸命取り組んでいる人たちが口を閉ざしてしまい、一層イノベーションを起こしにくい環境になっていると私は思います。

 実際に私たちは戦後、例えば製造業の現場でずっとイノベーションを起こしてきたのです。当たり前のようにやってきたことは、イノベーションだったんですよと、声に出して言う必要があるのではないでしょうか。そうしなければ、「日本が行ってきた今までのやり方は、イノベーションじゃなかったんだ」というふうに、ますます自信を失ってしまうからです。

日本の自信欠如が異分野融合を阻んでいるということですね。

田中氏:なぜ欧米が上手くいっているかというと、何かの目的に向かって、分野を超えて、場合によっては国境さえも越えて色々な人が集まるからです。質量分析の学会を例に挙げますが、米国では医学とか薬学、それから物理、化学、様々なバックグラウンドを持った人たちが大学の壁を越えて、1つの目的のために集まっているわけです。

 そういったことは日本でもできると思います。日本には本来、チームワークを重視するというメンタル的な素地はあるんじゃないでしょうか。特に製造業の現場では、1つの目的のために人が集まるということが、自然発生的に起こっていると思います。

 革新的なイノベーションを起こすんだと肩肘を張らず、今手元にあるものを、別の方法で展開してみる、あるいは課題を変えてみる、新しい分野に行ってみる……。そんなことを考えれば、今まで何をやっていたんだと思えるような成果が出てくるんじゃないかなと思います。

田中氏のインタビューは、本日(7月23日)発売の日経ビジネス本誌の特集「オープン編集会議で考えた イノベーションは起こせる」にも掲載しています。ぜひ、特集記事についてのご意見をお寄せください。(本誌特集記事は日経ビジネスオンラインの会員無料ポイントでご覧いただけます)

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【お知らせ】「第2期オープン編集会議メンバー」を公募します

「日経ビジネスRaise オープン編集会議」参加者募集

■ 趣旨
日経ビジネスはイノベーションにまつわる様々な課題を議論し、解決策を探るために、オピニオン・プラットフォーム「Raise(レイズ)」を活用した読者参加型のプロジェクト「オープン編集会議」を実施しています。

第1弾プロジェクトは、日経ビジネス本誌7月23日号特集「オープン編集会議で考えた イノベーションは起こせる」と連動して実施しましたが、この度、第2弾「起業のリアル」(仮)をスタートします。

つきましては、オープン編集会議にご参加いただく社会人の方を20人程度募集します。第2期「オープン編集会議メンバー」に選ばれた方はお仕事に支障のない範囲で、日経ビジネスの記者とともに編集プロセスにご参加いただきます。テーマに対する各自の問題意識を持ち寄り、オンラインの「Raise」やオフラインの場で議論するほか、日経ビジネス編集部が設定する一部の取材にも同行します。議論や取材の結果は誌面に反映します。

一つの企画が実現し、世に出て行く過程は、「同じものを違うように見る力」「構想する力」「比較する力」「物語を作る力」「質問する力」を総動員するイノベーションのプロセスそのものです。アイデアあふれる人、数字に強い人、データ分析に長けた人、好奇心と行動力を備えた人を求めます。意欲ある方の応募をお待ちしております。

*第1弾プロジェクトでのオープン編集会議メンバーの主な活動模様はこちら

■参加者募集概要
テーマ 「起業のリアル(仮)」

日経ビジネスは9月下旬の発売号(予定)で、「起業のリアル(仮)」という企画を掲載します。起業って怖くないですか? 起業って難しくないですか? 起業の資金や仲間はどうやって集めるの? 投資家を納得させるビジネスプランのツボはどこ?そんな起業家予備軍の疑問に答える企画です。イノベーションの担い手であるスタートアップの社会的重要性は高まっていますが、そもそも起業家の数が少ないという指摘もあります。日経ビジネスは起業家予備軍、起業して間もない人たち、新しいことに挑戦しようとしているビジネスパーソンが勇気づけられる「起業のリアル」をリポートすることで、イノベーションのエコシステム(生態系)の拡大を支援します。
活動内容 日経ビジネスの特集編集チームととともに、オフライン/オンラインでの編集会議や一部の取材に参加していただきます。
1.メンバーの初顔合わせとなる「キックオフ会議」と、最終的な編集方針を議論する「まとめ会議」(いずれもオフライン)への参加
*キックオフ会議は8月9日(木)、まとめ会議は9月7日(金)(いずれも18:30〜@日経BP社、約2時間)を予定
2.オープン取材(編集部が設定した取材先との座談会)への参加
3.日経ビジネスRaiseを使ったオンライン上での議論への参加
活動場所 1.日経BP社(〒105-8308 東京都港区虎ノ門4丁目3番12号)
2.取材先(主に東京都内)
3.日経ビジネスRaise(https://raise.nikkeibp.co.jp/)
活動日程 8月9日〜9月下旬
募集対象 「新しいモノ・コト」の創造に関心を持っていたり、新しい製品やサービス、事業を立ち上げたりした経験がある、もしくはこれから挑戦しようとしている学生と社会人。所属する企業や組織の規模・業種は問いません
募集人数 約20人
参加費 無料。移動にかかる交通費などは参加者の負担となります。
選考基準 1.氏名、所属を日経ビジネス本誌やオンラインの記事、Raiseで公開できること
2.オフライン、オンラインでの活動に積極的に参加できること
3.自己紹介(氏名、所属、経歴など)、参加希望理由、「起業のリアル」というテーマで知りたいこと

>>>応募する<<<

締め切り 2018年8月3日23:59まで
選考結果 ご参加いただく方にのみ8月6日までにご連絡致します
問い合わせ先 日経BP社読者サービスセンター
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