民進党の新代表に選出された前原誠司氏。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
民進党の新代表に選出された前原誠司氏。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 「非常に難しい船出だという思いを強くした」

 9月1日、民進党の代表選で勝利を収めた直後というのに前原誠司新代表の表情からは笑みが消えていた。投票結果に衝撃を受けたためだ。

投票結果に衝撃

 まずは投票した国会議員142人のうち8人が無効票を投じたことだ。8票もの無効票が出るのは異例の事態。民進内では「離党予備軍」との見方が広がっている。

 民進では今年4月以降、長島昭久衆院議員や細野豪志元環境相など離党者が相次いでいる。いずれも共産党との共闘路線に反発し、民進での政権奪還は不可能と判断しての行動だった。

 さらに民進は7月の東京都議選で5議席にとどまる惨敗を喫し、蓮舫氏の代表辞任につながった。党勢の衰退に一刻も早く歯止めを掛け、これ以上の「離党ドミノ」を防ぐのが前原氏の役割となるはずなのに、いきなり厳しい現実を突きつけられた格好だ。

 もう1つの理由が、枝野幸男氏が事前の予想以上に得票を伸ばしたことだ。「政治はリアリズムだ」と訴える枝野氏は共産との選挙協力の継続に前向きだった。

 地方では昨年の参院選での実績などを踏まえ「民共融合」が定着しつつあるところも少なくない。

 特に国会議員票が想定よりも多く枝野氏に流れたことは、「前原氏の大勝を許せば党運営を前原陣営に好き勝手にされかねない」といった懸念に加え、共闘路線への支持が根強い証左と言える。

 共産との共闘路線を見直さなければ保守系議員らの離党が続く可能性が大きい。一方で共闘の継続を求める勢力が影響力を残したことで路線の転換に踏み切るのも容易ではない──。

 前原氏は早くもこうした難しい状況に直面しているのだ。

 「これで前原さんは左派系議員を切る純化路線が取りにくくなったはずだ」。代表選で枝野氏を支援した中堅議員はこう漏らす。

 こうした事情を踏まえ、前原氏は枝野氏を支援したリベラル系にも配慮したバランス重視の新執行部体制を固めた。新たな幹事長に山尾志桜里元政調会長を起用。枝野氏は代表代行に充てる。

 前原氏の選挙対策本部長を務めた大島敦元総務副大臣も代表代行に起用する。選挙対策委員長には枝野氏を支持した長妻昭元厚生労働相が就任する。

 衆院当選2回で43歳の山尾氏の起用で党の刷新感を示すとともに、枝野氏や長妻氏を重要ポストに起用することで党内融和にも注力する姿勢を示そうというわけだ。

その後、前原氏は山尾氏の要職への起用を断念、大島氏を幹事長に充てた。

[2017/09/05 17:00]

 前原氏は10月に迫った3つの衆院補選に向け、代表選で主張してきた共産との共闘路線の見直しに踏み込むのか否か、さっそく問われることになる。

 世論の厳しいまなざしも相変わらずだ。共同通信社が9月2、3の両日に実施した全国電話世論調査によると、前原新代表に「期待しない」が51.2%で、「期待する」の40.3%を上回った。

 ちなみに、前原氏の前任の蓮舫氏に対しては、就任直後の昨年9月調査で56.9%が期待を示していた。民進のベテラン議員は「新執行部は相当の覚悟とスピード感をもって物事を進めていかないと、世論からますます見放されてしまう」と危機感をあらわにする。

前原氏に「期待しない」が上回る

 「我々は安倍政権に代わる選択肢を示す社会的な使命がある」。代表選の演説などでこう繰り返してきた前原氏は党の結束を図りつつ、民進を核とする野党再編への意欲を示している。

 カギとなる小池百合子東京都知事とは日本新党出身という間柄で互いに連携に含みを持たせている。

 小池氏側近の若狭勝衆院議員は政治団体「日本ファーストの会」を立ち上げ、小池氏の国政進出の布石となる国政政党結成を念頭に細野氏らと接触を重ねている。前原氏はその細野氏や自由党の小沢一郎共同代表らとの連携も視野に入れている。

 関係者によると、「非自民」「反共産」「憲法改正」などを旗頭に、自民に代わりうる保守中道の政党を作り上げていくのが前原氏の理想像とみられる。

 だが、こうした路線を念頭に政界再編に舵を切っていくには、民進内はあまりに立ち位置が異なる議員が混在しているのも事実だ。民進内からも「野党再編には分党や解党まで踏み込むべきだ」との声も出ている。

 枝野氏の善戦という代表選の結果、前原氏が党運営でどこまで指導力を発揮できるのかは見通せなくなった。方向性を固めきれないうちに離党者がさらに増え、党の溶解が進んでいく。民進内ではそんな懸念も現実味を持って語られている。

 その一方で、前原氏が外交・安全保障分野で現実路線を示し、内政で自民と異なる政策を打ち出す姿勢を示していることで、党の結束と巻き返しに期待する声も少なくない。

 前原氏が掲げているのは「中福祉中負担」にシフトしつつ、年金、介護の充実や教育無償化を図り、所得に関係なく応分の負担をしてみんなが受益者になるべきだ、といったものだ。これは枝野氏の主張する政策や目指すべき社会像とも共通点が多い。

 財源となる消費税率引き上げの取り扱いなどが課題となるが、「金融緩和、財政政策を柱とするアベノミクスへの対抗軸となる現実的な選択肢としてきちんと磨き上げていけば、党内もまとまる余地がある」と民進のベテラン議員は語る。

うごめく新党構想

 次期衆院選をにらみ、小池氏の人気も当て込んだ新党構想がうごめきつつある。関係者によると、静岡県、愛知県などを中心に地域政党を立ち上げ、首都圏を基盤とするであろう「小池新党」と連携する案も浮上している。「乗り遅れないようにしたい」と焦る民進議員は少なくない。

 だが、そもそも既存の議員中心による野党再編が世論の支持を得られるのかは見通せない。かつて日本新党ブームが起こったのは、自民党の政治腐敗や既存の政治家への不信感の高まりから、政治経験に乏しくとも新鮮な顔ぶれへの期待が広がったことが大きかった。

 小池氏の人気もさることながら、7月の都議選で新人が多く出馬した地域政党「都民ファーストの会」が圧勝した背景に同様の構図があったのは間違いない。

 政界再編を仕掛けようとしている関係者の間では、国政で新党ブームを巻き起こしていくには、都知事で動きが取りにくい小池氏とは別に「顔」となり得る知名度がある大物議員を自民から引き抜くことも重要だ、との指摘も出ている。

 関係者によると、一時野田聖子総務相が引き抜きの有力候補の一人と目されていたが、8月の入閣で立ち消えになったという。

 前原体制での民進の先行きや野党再編を巡る動きは安倍晋三首相の政権運営や衆院解散・総選挙の戦略、憲法改正論議などに影響を及ぼす。

 「民進から小池さんの新党にかなり動きそうだね」。安倍首相は周辺にこう警戒感を漏らしている。

 自民幹部からは改憲論者の前原氏の下、民進と改憲論議が進むことへの期待の声も出ている。その一方で「前原さんは改憲論議に慎重な勢力に配慮し、結局身動きが取れなくなるのではないか」(自民ベテラン議員)との見方もくすぶる。

 「安倍1強」と称された政治状況が揺らぎ、世論も健全な野党や批判の受け皿となる勢力を求めている。

 そうした期待が尻すぼみに終わり、中途半端な形で民進の溶解が進んでいくのか。それとも党勢回復や受け皿作りに向けた動きにつなげていけるのか。不安と危機感を背に、前原体制が船出した。

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