韓国ドラマの字幕監修を手掛ける花岡理恵さんは、大ファンだった俳優パク・ヨンハさんの突然の死をきっかけに「墓前にて韓国語で感謝を伝えたい」と考え、韓国語の勉強を開始。そして7年間の学習を経て、51歳で字幕監修者となった。語学学習を継続するコツや、身に付けた語学力を仕事に生かすための手法を聞いた。

 2003年に日本で放送された韓流ドラマ『冬のソナタ』の爆発的ヒットにより、空前の韓流ブームが巻き起こってから約20年。新型コロナウイルス禍では動画配信サービスのニーズが高まり、『愛の不時着』や『梨泰院(イテウォン)クラス』といった人気ドラマが続々と登場したことをきっかけに、現在「第4次韓流ブーム」が到来しているといわれている。

 韓国ドラマをきっかけに韓国語を勉強する人は多いが、仕事にできるほど語学力を伸ばせる人は少ないのではないか。花岡さんは44歳から韓国語の勉強を始めて、51歳で字幕監修者となった。

花岡理恵(はなおか・りえ)さん
花岡理恵(はなおか・りえ)さん
韓国(アジア)映像字幕監修者/翻訳実務士(韓日) 1966年、東京・渋谷生まれ。帝京大学文学部国文学科卒業後、早稲田大学大学院研究生(日本文学専攻)。その後結婚し、約25年間専業主婦として過ごす。2011年、44歳で韓国語学習を開始。17年、西ヶ原字幕社・映像翻訳スクーリング修了。同年、51歳で配給会社コンテンツセブンに韓国ドラマ字幕監修者として入社。19年よりフリー。21年、翻訳実務検定「TQE」に初受検合格、翻訳実務士の資格取得。現在は主に映像字幕制作会社ヘッドウェイにて字幕監修・翻訳などの業務に従事している(写真:桑原克典)

 日本文学が好きだった花岡さんは帝京大学を卒業後、早稲田大学の大学院に研究生として進学。その後まもなく結婚して専業主婦となり、子育てに専念した。花岡さんと韓国ドラマの出合いは、「冬ソナ」ブームから少し遅れてやってくる。レンタルビデオショップを訪れた花岡さんは、1996年に韓国で放送され、大ヒットしたドラマ『初恋』をたまたま手に取った。これが、いわゆる「韓流沼」に落ちるきっかけとなった。

 「恋愛要素、貧富の差、あらゆる角度から丁寧に描かれたドラマで、これまでのドラマの概念が覆されるほどの衝撃を受けました」(花岡さん)

 そこから多くの韓国ドラマを見ていく中で、パク・ヨンハさんのファンになった。彼は『冬のソナタ』にも出演し、ペ・ヨンジュンさん演じる主人公の恋敵として人気となり、日本では歌手活動も精力的に行っていた。

 育児や家庭のストレスもあり、当時気持ちが落ちていたという花岡さんにとって、パク・ヨンハさんは生きる希望だった。「眠れない夜に、ずっとヨンハさんの歌を聞いていました。あと1曲、聞き終わるまでは生きていよう、と思って暮らしていたんです」(花岡さん)。

 ところが2010年、パク・ヨンハさんは突然、帰らぬ人となってしまった。「忘れもしない、あれは6月30日。朝起きて、子供のお弁当を作ろうと思ってテレビをつけた瞬間、そのニュースが飛び込んできました」と当時を振り返る。

 ショックのあまり、その後しばらくの記憶がないという花岡さんだが、しばらくしてある思いが湧き上がってきた。「ヨンハさんの墓前に行き、韓国語で感謝の気持ちを伝えたい!」。こうして、韓国語の勉強を始めた。44歳からの新たな挑戦だった。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り2783文字 / 全文3916文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題