人類5000年の歴史を7時間で一気読み。そんなコンセプトで明日発売される、出口治明さんの最新刊『一気読み世界史』。本連載では、この本を「逆さ」から「3分で読める長さ」で、ご紹介していきます。

 歴史の教科書を古代から順に学んでいくと、どうしても近現代史が手薄になりがち。けれど、自分たちが今、生きる社会を理解するうえで、近現代史はとても大事。それなら、逆さから学んでみたらどうでしょうか。

 『一気読み世界史』は、「一気に読めるからこそ、大きな流れがわかり、教養になる」と考えてつくられた1冊(*)。世界を旅して、訪れた都市は1200以上、1万冊の本を読破した「現代の知の巨人」こと、出口さんならではの大局的な歴史観が、ぎゅっと凝縮されています。本を手に取ってアタマから一気に読み通すもよし、この連載で逆さから少しずつ味わうもよし。お好みのスタイルで、お楽しみください。

* 日経ビジネス電子版の連載「出口治明の『5000年史』講座」を再構成し、大幅な編集を加えました。

 21世紀の始まりといえば、やはり「9・11」、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件です。これによってアメリカはアフガニスタンに侵攻し、イラク戦争を始めます。2008年にはリーマン・ショックがあり、金融危機が起きました。2010年から2012年にかけては、チュニジアなどアラブ諸国で、民主化を求める「アラブの春」が広がりました。インターネットに力を得て、4つの国で長期独裁政権が倒れましたが、その後、安定した民主的な政権は成立せず、混乱が続いています。

 日本では2011年、東日本大震災が起きました。2010年代は、ヨーロッパに目を向ければブレグジット、アメリカではトランプ大統領が登場しました(2020年の大統領選では敗退)。2020年には世界中が新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われました。2022年には、ロシアのウクライナ侵攻です。

 21世紀は、多くの人にとって思いもよらない出来事ばかりです。悪いことばかりが起きているようにも見えます。

 しかし、数字に目を向ければ、世界は確実によくなっています。

出口治明(でぐち・はるあき)
出口治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年、三重県美杉村生まれ。1972年、京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などをへて2006年退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。 2008年、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。10年社長、会長を務める。2018年1月より現職。訪問した都市は世界中で1200以上、読んだ本は1万冊を超える。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史 』シリーズ(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 』シリーズ(文藝春秋)、『全世界史上・下』(新潮文庫)、『戦争と外交の世界史』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。

データで振り返る1970~90年代

 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳/日経 BP)という本によくまとまっています。20世紀末から21世紀初頭の20年で、世界の人口のうち極度の貧困層の割合は半減しています。低所得の国の女の子の60%は初等教育を修了しています。世界中の1歳児で何らかの予防接種を受けている子どもの割合は80%です。基本的なところでは、世界は昔よりずっとよくなっているのです。国連が展開するSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、この流れをさらに推し進めるでしょう。

 歴史的な事件やエピソードだけに目を向けたら、未来は暗いように思えるかもしれません。しかし、歴史の流れを数字で押さえれば、世界は確実によくなっているということを、覚えておいてください。

 さて、数字で見たとき、日本はどうでしょうか。現在の日本の世界における地位は、人口比で1.5%ほど、GDP比で5%くらいです。日本の今後はどうなるのか。大局的に見て、私たち一人ひとりにかかっていると思います。

 ここで1973年と1998年の主要国のGDPの世界シェアを比べてみましょう。

 アメリカは22.0%から21.9%と、ほとんど変わっていません。冷戦で負けたソ連(ロシア)は9.4%から3.4%へと大幅に減りガタガタになってしまいました。連合王国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、日本では一般に「イギリス」と呼ばれている)やドイツ、フランスもシェアを落とし、ヨーロッパ全体では、29.1%から22.6%に減りました。一方、アジアは24.1%から41.0%へと急上昇しています。鄧小平の中国が、毛沢東の大躍進と文化大革命で生じた遅れを取り戻したことが大きいです。

 数字で歴史を追うと、大きな流れがよくわかります。

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20世紀は、平和に終わったように見えた

 1999年には、ヨーロッパで共通通貨ユーロが導入されました。日本ではこの年、日銀が世界初のゼロ金利政策に踏みこみ、経済の停滞があらわになっていきます。20世紀最後の年である2000年、教皇ヨハネ・パウロ2世は特別ミサを行い、宗教戦争や十字軍、異端審問といった、過去にローマ教会がしてきたことの多くを過ちだったと認めました。とても勇気のいることだと思います。こうして20世紀はすごく平和に終わったように見えます。

冷戦終結と日本経済停滞の深い関係

 1990年、東西ドイツが統一されました。

 1991年にはソ連が消滅します。アメリカはとうとう冷戦に勝利しました。この年には湾岸戦争も起きていますが、冷戦が終わったことでアメリカは、軍事技術を民間に転用するようになりました。「ソ連が消えて、圧勝やった。軍縮も進めよう。軍事技術ももうそんなに守らなくてええ。民間でがんがん使ったらどうや」というわけです。

 なかでも、その後のアメリカ経済に大きな恩恵を与えたのが、インターネット技術の転用でした。アメリカはもともと製造業の国でした。しかし、冷戦の間に、アメリカという親のすねをかじりつくした子どもがいて、製造業が弱ってしまいました。その子どもとは、同盟国の日本です。戦後の日本は、繊維に鉄鋼、自動車に半導体と、アメリカの基幹産業を代替して発展してきました。アメリカ産業に打撃を与えることで大きくなってきたのです。

 歴史を振り返れば、たとえ同盟国であっても、自国の産業を食いつぶす相手は、ボコボコにされます。ところが日米関係は例外で、アメリカは日本を「ボコ」ぐらいにしか殴りませんでした。 町中で日本製の自動車をハンマーで壊すといった程度です。なんでボコボコにされなかったかというと、冷戦のおかげです。 世界地図や地球儀で、日本列島をソ連や中国の側から見れば、いかに邪魔な存在かがわかります。太平洋への出口を見事にふさいでいます。そんな位置に沈みようのない陸地として存在する日本は、アメリカにとってまさに「不沈空母」として、めちゃくちゃ価値があったのです。

中国側から日本列島を見ると、太平洋への出口をふさぐ存在であることがわかる
中国側から日本列島を見ると、太平洋への出口をふさぐ存在であることがわかる

 だから、アメリカは日本を「ボコ」と殴るくらいで甘やかしてくれて、その結果、日本は経済的に強くなれました。けれど、冷戦が終わって、アメリカには日本を甘やかす理由がなくなりました。冷戦後、アメリカではインターネット技術が民間に開放されましたが、日本はキャッチアップできませんでした。

一気読み世界史』発売です

人類5000年の歴史を7時間で一気読み!
一気に読むから、流れがわかり、教養になる。
暗記不要。日本史、西洋史、文化史、経済史…
全部つなげてまるごと学ぶ、新しい教科書。
入門に、学び直しに、論述テスト対策にも。

出口治明氏による、新しい歴史の教科書。日本史、西洋史、東洋史から、政治史、文化史、経済史まで、歴史を「ひとつなぎ」で学びます。7時間で読める分量に、世界1200以上の都市を旅し、1万冊の本を読破した「現代の知の巨人」こと、出口さんならではの大局的な歴史観が、ぎゅっと凝縮されています。中高生から社会人まで、歴史の大きな流れをつかみたい人へ。

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