南アフリカで発見された新型コロナウイルスの変異型である「オミクロン型」が早くも日本で確認され、医療機関では「第6波」への備えが進められている。

 新型コロナの診療は体力勝負だ。それは、発熱外来を設置した街のクリニックでも同様だ。東京のJR池袋駅にほど近い池袋大谷クリニックでは、「第5波」のとき週に100人以上の新型コロナ疑い患者を診察したという。

 次から次へと来る患者の診察を乗り切ることができたのは、「徹底した体調管理のたまもの」だと語るのは、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫氏。大谷氏は、医師になってから30年以上、風邪ひとつひいていないという。新刊書籍『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理 コロナ対応版』を執筆した大谷氏に、第6波への備えとウィズコロナ時代の体調管理について聞いた。

<span class="fontBold">大谷義夫(おおたに・よしお)</span><br />池袋大谷クリニック院長、呼吸器内科医<br />2005年に東京医科歯科大学呼吸器内科医局長に就任。米国ミシガン大学への留学などを経て、2009年に池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の呼吸器内科の患者数を誇るクリニックに。呼吸器内科のスペシャリストとして、「NHKおはよう日本」「羽鳥慎一モーニングショー」「ワールドビジネスサテライト」など多くのTV番組に出演。『肺炎を正しく恐れる』など著書多数。(写真:鈴木愛子)
大谷義夫(おおたに・よしお)
池袋大谷クリニック院長、呼吸器内科医
2005年に東京医科歯科大学呼吸器内科医局長に就任。米国ミシガン大学への留学などを経て、2009年に池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の呼吸器内科の患者数を誇るクリニックに。呼吸器内科のスペシャリストとして、「NHKおはよう日本」「羽鳥慎一モーニングショー」「ワールドビジネスサテライト」など多くのTV番組に出演。『肺炎を正しく恐れる』など著書多数。(写真:鈴木愛子)

発熱外来で意識を失う患者も… 第5波の惨状

第5波では相当な数の新型コロナ疑い患者を診察したと聞きました。

大谷義夫氏(以下、大谷):私のクリニックでは、週に100人以上の新型コロナ疑い患者を診察し、ピーク時には陽性率が50%にも達しました。最終的には、第5波だけで276人の方が陽性となり、ワクチン接種が完了していた方の「ブレイクスルー感染」のケースは11人でした。

 とはいえ、発熱外来に特化していたわけではなく、定期的に通院される喘息(ぜんそく)や慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)の患者さんも診察しなければなりません。時間を区切り、発熱外来と通常の診療を分けた結果、必然的に1日の診療時間が長くなり、夜の10時や11時に新型コロナ疑いの患者さんを診察することもしょっちゅうでした。

2人に1人が陽性になる、というのは相当厳しい状況だったと思います。診察ではどのような苦労がありましたか?

大谷:クリニックの待合室で患者さんが意識を失い、大の字に倒れた状態でPCR検査の検体をとったこともありました。レントゲン室で撮影中に患者さんが意識を失って倒れたときは、その頭部が床にぶつかる寸前に私が左手で受け止めました。左手を打撲したのでパソコン操作ができず、事務スタッフに手伝ってもらいながら紹介状を作成する事態になりました。

 陽性になっても入院の受け入れ先がなかったのはつらかったです。自宅療養になった患者さんの酸素飽和度が低下し、私が緊急搬送を要請したものの、病院に空きベッドが見つけられず、仕方なく救急隊が帰ってしまったことも一度や二度ではありません。私が手配した在宅用の酸素濃縮器を使って自宅で療養を続けざるを得なかった方たちは、どれほど不安だったことでしょう。

まさに「医療崩壊」ですね。診察する側としても、体力的に大変だったのではないでしょうか。

大谷:この1年は、ずっと緊張が続いていました。第3波のため年末年始に発熱外来を開き、第4波のためにゴールデンウイークがつぶれ、第5波のために夏季休暇もなし。協力してくれたクリニックのスタッフや私の家族には感謝したいですね。9月には少しまとまった休みがとれたので、妻と一緒に人間ドックに行ってきました。

 診察で心がけていたことは、コロナ禍以前から変わりませんが、とにかく体調管理を徹底してのぞむことです。先が見えない状況に陥って心身に不調をきたした方も少なくなかったと思いますが、私の場合、休んでしまうとほかに診察する人がいないので、日々やるべきことをやって体調を整えることが何よりも大切だったのです。

「マスク着用」はしばらく必要

確かにコロナ禍では、外出自粛にテレワークの推進で体を動かす機会が減り、体調を崩した人も多かったと聞きます。これから経済活動と感染拡大防止を両立する「ウィズコロナ」では、体調管理の面で何が重要になってくるでしょうか。

大谷:手洗い、手の消毒、マスクの着用といった感染対策は、これからも続けていくことになるでしょう。現在、日本では感染拡大がかなり抑えられているように見えますが、これはやはりみなさんが基本的な感染対策を続けているからだと思います。こうした感染対策は、これからの季節に増えてくる風邪やインフルエンザの予防にもなるので、続けていきたいですよね。

 また、新型コロナワクチンの3回目の接種が、医療従事者を対象にまず始まりましたが、ご自分の番が来たときにはきちんと接種することが大切です。第5波で感染したのは、ほとんどがワクチン未接種あるいは1回のみ接種の方でした。接種完了していたのに感染した方も、私のクリニックでは11人いましたが、いずれも軽症または無症状でした。ワクチンのメリットは明らかですので、まだ接種していない方はぜひ接種することをお勧めします。

 「自分はアレルギー体質だから、接種をためらっている」という方もいますが、気管支喘息(ぜんそく)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎や花粉症などのアレルギーの方でも問題なくワクチンを打てます。新型コロナのmRNAワクチンには「ポリエチレングリコール」が含まれていて、米国の疾病予防管理センター(CDC)は、このポリエチレングリコールに対して重いアレルギー反応を起こしたことがある人にはmRNAワクチンの接種を推奨していません。しかし、ポリエチレングリコールにアレルギーがある方というのは非常にまれなのです。

現場も期待する新型コロナの「内服薬」

ワクチン以外にも、新型コロナの治療薬の選択肢が広がってきたのは心強いですね。

大谷:思えば第1波や第2波の頃は、治療薬もなかったため、医師も手探り状態でした。それが、中等症から重症の患者さんには抗ウイルス薬の「レムデシビル」、ステロイド薬の「デキサメタゾン」を使えるようになり、軽症の方には、重症化を防ぐ「抗体カクテル療法」が行えるようになりました。また、軽症者用の点滴治療薬として、英国グラクソ・スミスクライン(GSK)が開発したモノクローナル抗体「ソトロビマブ」も認可されました。

 これらの薬に加え、世界中が期待しているのが軽症者用の「内服薬」です。ファイザー、メルク、ロシュ、塩野義製薬などが開発しており、メルクはすでに新型コロナの飲み薬「モルヌピラビル」について、18歳以上の使用を条件に英国で承認を得ており、FDAには緊急使用許可を申請しています。ファイザー、塩野義製薬も臨床試験の最終段階を迎えており、これに続く見込みです。ファイザーの飲み薬は、入院や死亡のリスクを約9割減らせたという臨床試験のデータが公表されています。

内服薬のインパクトは大きいと考えられますか?

大谷:内服薬は点滴で投与する必要がなく、軽症の患者さんにクリニックで処方して、その後の重症化が防げるのであれば、新型コロナは今よりずっと「怖い病気」ではなくなると思います。

 かつてインフルエンザも、タミフルなどの内服薬が登場する前は、今よりも命にかかわる「怖い病気」であり、診察していても緊張感がありました。特に高齢者は、一歩間違えば命の危険があるため、細心の注意を払っていたのです。

 それが、タミフルなどの内服薬の登場で、多くの方がインフルエンザから早く回復するようになり、診察する側にも心の余裕が生まれました。それと同じ現象を、新型コロナの内服薬にも期待しているのです。

風邪のひきはじめには、あえて「軽い運動」を

とはいえ、感染しないに越したことはありませんよね。大谷さんが、自身も感染する可能性がありながら、ずっと診療を続けられたのは、何がポイントだったのでしょうか。

大谷:感染対策をきちんと行うということは前提として、それに加え「体調不良になりにくい体をつくる」ということに尽きます。忙しいからといって、コンビニで買ったおにぎりやパンばかりで食事を済ませていたり、睡眠不足の日が続いたりすると、体の抵抗力が弱くなり、感染症にかかりやすくなります。

 注意したいのは、風邪のひきはじめに「たかが風邪だから」と侮って、十分に休養をとらずに、それまで通り仕事をやろうとしてしまうこと。すると、新型コロナなど、もっとひどい感染症にかかるリスクが高くなります。第5波でも、「自分は感染症対策をしっかりしていたのに、なぜ感染してしまったのでしょうか」と疑問に思う患者さんもいましたが、実は「体調を崩しかけていたときに、無理をしてしまった」というケースは少なくないのです。

確かに、少々体調が悪くても、ついそのままにしがちです。

大谷:コロナ禍で1つよかったことがあるとすれば、「体調が悪いときは休む」という意識が浸透したことです。以前は、風邪をひいても市販の風邪薬を飲んで会社に来て仕事をしていた人も少なくありませんでした。「つらくても休めないあなたに」といった趣旨の風邪薬のキャッチコピーもありました。

 ただ、日本人は真面目なのか、「少しでも体調を崩すと休まなければならない。そうするとみんなに迷惑をかけるから、絶対に体調を崩したくない」と思う方もいらっしゃいます。そのためにどうしたらいいか、という相談も受けるようになりました。

仕事に穴を開けて迷惑をかけたくないから休めない、と思っている人は多そうです。そういった方にはどのようにアドバイスするのですか?

池袋大谷クリニック院長の大谷義夫氏
池袋大谷クリニック院長の大谷義夫氏

大谷:風邪のひきはじめにやると効果的なのは、実は「軽い運動」です。10~15分、ウオーキングやジョギングをするといいでしょう。あるいは、お風呂に入って体を温めてから寝る。そうすると、免疫が活性化し、その後の回復が早くなります。

 また、体調不良にならない体をつくるという意味では、栄養バランスのとれた食事、質の高い睡眠、適度な運動が大切です。多忙ですとついおろそかになってしまいますが、書籍『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理 コロナ対応版』では、私が実践している忙しくても手軽にできる方法がまとめられていますので、ご参考にしてください。

ありがとうございます。

 忙しい、でも休みたくない。そんな人のために、誰もができるプロの体調管理術を教えます。ウィズコロナ時代に心と体を整える体調管理の決定版です。

 ハードなコロナ患者の診察をこなし、テレビでもおなじみの呼吸器内科医が、自分でやっている体調管理のノウハウを余すところなく伝える一冊。

 大好評だった書籍『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』が、コロナに対応するために大幅に加筆・修正して生まれ変わりました。

大谷義夫 池袋大谷クリニック院長・著

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中

この記事はシリーズ「日経Gooday」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

日経Gooday(グッデイ)は、健康・医療の最新情報をお届けする総合サイトです。有料会員になると、専門家に徹底取材した運動・筋トレ、食事、病気予防などの特集・連載記事に加えて、「専門家への24時間電話相談」「名医紹介サービス」「健診結果のAI予測」などをご利用いただけます。詳しい情報はこちらから。