トランプ前米大統領は在職中、SNS(交流サイト)で暴力を賛美し、根拠の怪しい情報を拡散したとして物議を醸してきた。任期終了直前には米ツイッターなどSNS各社がトランプ氏のアカウントを凍結。この強硬な措置にメルケル独首相が疑問を呈するなど、世界的に議論が巻き起こった。

 果たしてSNS運営会社が言論を規制することは正しいことなのか。ネットでのデマ被害に悩まされてきた立憲民主党の辻元清美副代表は「規制は必要」の立場だ。一方で米歌手のリッキー・レベル氏は、自らのアカウントが凍結させられた経験から、「規制は不要」と訴える。それぞれの主張に耳を傾ければ、一長一短が見えてくる。ではまたインタビューの最後にお目にかかろう。

扇動許せばナチスの二の舞に
辻元清美衆院議員

インターネットで辻元さんのことを検索したら、「北朝鮮の工作員だ」などと書かれていました。

辻元清美衆院議員:つい最近も、ネット上のデマと同じようなフレーズで書かれた殺人予告状が届いたので、警察に通報しました。靖国神社で私が服を脱いで立っている合成画像もネットにさらされました。あまりにもひどい。私の心は痛んでいます。

「辻元さんに、日本赤軍のメンバーだった内縁の夫がいる」というデマも以前からネットに流布していますよね。

辻元氏:そんなデマが出回っているから私は今まで結婚できなかったのかな。それを信じて誰も近づかなかったのかな。友だちにも言われましたよ。「『辻元清美いいな』と思う人がいても、告白する前に絶対ネットで検索するよ。そうしたら『内縁の夫が元赤軍メンバーだ』だなんて書いてあって、やめておこうと思うんじゃないかな」ってね。

ははは。

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辻元氏:デマに対してユーモアを交えて反論することの大切さは、つい先日オンラインでお話しした台湾デジタル担当相のオードリー・タンさんから学びました。デマを強く否定すると反発を招きかねないので、台湾当局はデマを見つけたら、人々の心に届くようにユーモアを交えて正しい情報を発信しているそうです。

米国ではSNSの運営会社がデマや扇動的、差別的な投稿への監視を強めています。トランプ前大統領が再選のかかった2020年の大統領選挙で「不正があった」などと根拠のない投稿を繰り返し、任期終了直前の21年1月に連邦議会議事堂の占拠事件が起きると、トランプさんが暴動をあおったとして米フェイスブックや米グーグル(ユーチューブ)がアカウントを一時的に凍結し、米ツイッターに至っては永久凍結を決定しました。

辻元氏:私はSNS各社の取った措置を一定程度評価しています。それまでSNS運営会社は無責任だと感じていました。やっぱりSNSを運営する企業としての責任が問われるべきであって、自主的な倫理規定を設けて判断することも必要ではないかな。

ただフェイスブックのザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は当初、トランプさんの投稿に制限を加えることに消極的でした。米テレビのインタビューで「民主主義において政治的な発言は最も慎重に扱うべき事柄であり、人々が政治家の主張に耳を傾けられるようにすべきだ」と答えたこともあります。ウソであったり、扇動的であったりしても、政治家に発言の機会を与えて、国民が自ら判断を下せるようにするのが民主主義の基本だというわけです。一理あるなとは思うのですが。

メルケル独首相が投じた一石

辻元氏:うーん、国会で自己保身のためにつくウソの答弁みたいなものは聞いたうえで、どう評価するかを国民が決めるべきですが、民衆をデマで扇動するようなトランプ前大統領の投稿を放置したら、かつてのナチス・ドイツのようにユダヤ人虐殺にまで行き着く恐れがあります。その辺りは区別して考える必要があるのではないでしょうか。

ドイツのメルケル首相は、国の法律ではなく、ツイッターのような私企業がネットの言論を規制することを批判しました。

辻元氏:私は米国のようにSNS運営会社が自主的に規制するのと同時に、ドイツのように国が法律で規制する、官民の両面での対策がいいと思っています。ドイツでは、200万人を超える利用者を抱えるSNSの運営会社に対して、「明らかに違法」な投稿の削除を法律で義務づけています。違法な投稿があるとの報告を受けたのに、24時間以内に削除しなかったら、最大5000万ユーロ(約65億円)の罰金が科せられます。私はドイツを参考にしたような法律が日本にも必要なのではないかと思うんです。

しかしドイツ式の国による言論規制への批判もあります。時の為政者が法律を恣意的に運用して、政敵などによる都合の悪い言論を封殺する恐れがあるというのです。

辻元氏:だからね、政治から独立した形で、第三者委員会みたいなものを作って法律を運用しなきゃいけないと思います。


大統領の発言封殺はクレイジーだ
米歌手リッキー・レベルさん

トランプ支持者らのイベントで歌うリッキー・レベルさん(写真:Tracy Jarrett Photography)
トランプ支持者らのイベントで歌うリッキー・レベルさん(写真:Tracy Jarrett Photography)

トランプ前大統領を熱烈に支持するのはどうしてでしょう。

リッキー・レベル氏:私は愛らしい女性的な一面と、タフで男性的な側面を併せ持つLGBT(性的少数者)です。LGBTの仲間からは、より女性的であるほうが望ましいと言われることが多いのですが、私は自分の男性的な部分を大事にしています。そうした男らしい「アルファオス(群れを支配する雄)」の姿を、私はトランプ前大統領に見いだしました。米国民を第一に考える政策にも共鳴しています。

トランプさんの選挙スローガンである「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」の略字「MAGA」をタイトルにした応援歌をプロデュースし、自分で歌いましたね。1970年代のヒット曲「Y.M.C.A」の替え歌です。

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