就職活動に必須の“自己分析”に、自分の強み、弱みを理解する「FFS理論(開発者:小林 惠智博士、詳しくはこちら)」はとても役立ちます。昨年刊行した『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』にいただいた就活生の皆さんのそんな声に推されて、今回、就活に焦点を合わせた新刊『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析』が刊行されました。

 この本は、人気コミック『宇宙兄弟』(作・小山宙哉)に登場する多彩なキャラクターとその名場面を使って、FFS理論による「あなた」の強みと弱み、それらを面接官にどのように「魅力」として見せるかを、分かりやすくお伝えしようというものです。

宇宙飛行士になった弟(南波日々人、ヒビト)を上司に悪しざまに言われ、我慢できず頭突きをお見舞いして「無職」になってしまった主人公、南波六太(ムッタ)。(1巻#1 弟ヒビトと兄ムッタ)
宇宙飛行士になった弟(南波日々人、ヒビト)を上司に悪しざまに言われ、我慢できず頭突きをお見舞いして「無職」になってしまった主人公、南波六太(ムッタ)。(1巻#1 弟ヒビトと兄ムッタ)
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 今回はこの『宇宙兄弟』の担当初代編集者であり、コルクの代表を勤める佐渡島庸平さんに、「就活」と「自己理解」について、お話を伺いました。

コルク代表 佐渡島庸平さん
コルク代表 佐渡島庸平さん

(前回はこちら

『宇宙兄弟』で描かれる宇宙飛行士選抜試験からは面接官の視点が読み取れる、というお話でしたが、他にも就活生におすすめしたい『宇宙兄弟』の読み方はありますか?

佐渡島:そうですね。ムッタが所属するミッションチームの「ジョーカーズ」、あのグループもかなり凸凹じゃないですか。

はい。メンバーの経歴も個性も見事にバラバラな、寄せ集め集団ですね。

佐渡島:あのグループが、どんなふうに一つのチームとしてまとまっていくのか、これにもぜひ注目してほしいですね。

そのあたりはマンガとしても見どころですね。

ジョーカーズはあなたが入る会社かも

佐渡島:ジョーカーズというチームは、これから自分が入社する会社かもしれませんよね。

それはどういう意味ですか?

『宇宙兄弟』の主人公、ムッタが訓練を経てNASAで加わったのは、個性豊か過ぎる「外れ者」チーム「ジョーカーズ」。(18巻#172 「CES-62 バックアップクルー」)
『宇宙兄弟』の主人公、ムッタが訓練を経てNASAで加わったのは、個性豊か過ぎる「外れ者」チーム「ジョーカーズ」。(18巻#172 「CES-62 バックアップクルー」)
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佐渡島:その会社で自分が配属される部署には、凸凹なメンバーで構成されたチームがあるわけです。どこかの会社に入るというのは、単に自分のスキルを差し出すことではなく、その凸凹なチームの「凹」のところを、自分の強みで埋めるということなんです。

なるほど。

佐渡島:そして、自分がチームに加わることで、チームも形を変えていく。

その人という“ピース”が、チームに空いた穴を埋める。しかも、ただ埋めるだけじゃなくて、そこでシナジーが生まれれば、より大きな力を生み出すことができますね。

佐渡島:そうです。シナジーを生むには、まずはその人自身が「自己理解」をしたうえで、「自分がどんな人間か」「どんなことができるか」を表明しなければなりません。でなければ、会社側はその人を受け容れることでチームがよくなるのか、それとも変わらないのか、判断できませんよね。

だから就活では、自分を理解し、開示し、正しく発信することが大切なんだと。確かにそうですね。

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ジョーカーズのメンバーは能力はあるが、ランニング一つとっても決して他人に合わせようとしない(ムッタを除いて)。だが、ベテランのチームリーダー、エディ・Jには考えがあるようだ。(18巻#177 「ワクワクチームワーク」)
ジョーカーズのメンバーは能力はあるが、ランニング一つとっても決して他人に合わせようとしない(ムッタを除いて)。だが、ベテランのチームリーダー、エディ・Jには考えがあるようだ。(18巻#177 「ワクワクチームワーク」)
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 一方で、友達や身近な人には自己開示できても、相手が会社となると身構えてしまって、本来の自分を出しにくい、ということもあると思うんです。志望する会社であればあるほど、その会社の社風や風土に合った自分を装ってしまったり、こう振る舞ったほうが採用されるんじゃないか、とか計算したり。

佐渡島:その気持ちも分からなくもないですが、でも、会社って毎日行く(もしくは接する)ところですから、自分に合わない会社に入ると、自分も不幸になるんですよ。

そうですね。『宇宙兄弟』のムッタ(主人公の南波六太)からそんな雰囲気が伝わってきます。後輩には慕われていたようですが、上司からの評価が……。

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会社にいられなくなったうえ、JAXAの採用試験まで妨害されたムッタ。だが、JAXAの採用担当者が、彼の危機を救おうと奔走する。JAXAはムッタに「好意を持った」のだ。(2巻#11 「頭にまつわるエトセトラ」)
会社にいられなくなったうえ、JAXAの採用試験まで妨害されたムッタ。だが、JAXAの採用担当者が、彼の危機を救おうと奔走する。JAXAはムッタに「好意を持った」のだ。(2巻#11 「頭にまつわるエトセトラ」)
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佐渡島:短期的な取り繕いは、将来の自分にとって損になるだけなんです。

 この本(『あなたを引き出す自己分析』)では、自分に合った宇宙兄弟の「キャラ」で就活に臨む提案もしていますが、いくらヒビトみたいなキャラが受けそうでも、自分が「ムッタ」に近い個性だったら、やっちゃいけませんね。

佐渡島:だから、こんなふうに考えてみてはどうでしょう? 就活は、会社があなたを選ぶだけじゃなくて、「あなたが会社を選ぶ場でもある」と。

就活生が会社を選ぶ場。

佐渡島:面接される、のではなく、自分が会社を面接するんだ、という意識ですね。面接では、「自分はこんな人間です」と開示しますよね。それに対して面接官が「それはちょっと……」と否定的な反応だったり、面接の手応えが感じられなかったり、その結果として不合格なら、その会社とは相性が悪かった。そういうことだと思うんですよ。

だから、むしろ本来の自分を開示して、会社との相性を見極めたほうがいい、と。

佐渡島:そうです。自分を取り繕ったり、理想の自分を演じたりせずに、自分にとって居心地のいい自分を開示して、それを受け容れてくれる会社を探す。就活を成功させるには、最終的にはこれに尽きると思います。

相手は会社といっても、結局は人と人ですもんね。就活だからといって気負わずに、自分が居心地よくいられる人や場所を探す感じでいけばいいんですね。

佐渡島:そう。例えば、誰かをデートに誘うときのことを考えてみてください。緊急事態宣言が解除された今なら、こういう話題もOKかな、と思うんですが(笑)。

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同僚のせりかへの好意をアクロバット飛行で打ち明けようとするムッタ。が、位置取りが悪くてハートマークに見えず……。好きだと伝える時は段取りは慎重に。(14巻#138 「バルタン星人」)
同僚のせりかへの好意をアクロバット飛行で打ち明けようとするムッタ。が、位置取りが悪くてハートマークに見えず……。好きだと伝える時は段取りは慎重に。(14巻#138 「バルタン星人」)
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デートのお誘いと面接の共通点とは?

デートですか。

佐渡島:どこに行こうか相談しているときに、相手に話を合わせてばかりで、自分の行きたい場所を全然言わない。それで、自分はそれほど興味がないし、まったく知らない場所だけれど、相手に合わせて「行きたい」ふりをして、その場所に出かけたとしたらどうですか?

う~ん、全然楽しめないです。

佐渡島:そう。デートの最中も不安や不満ばかりで全然楽しくないですよね。デートの行き先を相談するときって、相手と一緒に楽しむ方法を探すための会話をしているんです。だから、お互いの希望を出し合って、2人が一緒に楽しめる場所を探すのがいい。

そうですね。

佐渡島:これは面接も同じです。面接する相手とは、将来一緒に仕事やプロジェクトに取り組んでいくわけですから、一緒にどうやってプロジェクトを進めようか、というお誘いをお互いにしている、ということなんですよ。だから、デートの行き先を決めるのと、あまり変わらないんです。

デートと面接の共通点。すごく分かりやすい例えです。

佐渡島:それなのに、面接では相手が自分の本質を見抜こうとしているんじゃないか、自分の本質をうまく演出したほうがいいんじゃないか、と勘違いしてしまう人が多い。でも、そうじゃないんですね。

はい。

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米国でレストラン強盗から逃げるつもりが結果的に“撃退”し、現地のテレビに出ることになったムッタ。一方日本では、ムッタの元上司の流した悪評が逆恨みであることをJAXAの星加と二村が調べ上げていた。「ムッタと働きたい、彼を宇宙飛行士にしたい」という思いが2人を動かした。そして、ムッタの人生の扉が開く。(2巻#14 「白煙天国」)
米国でレストラン強盗から逃げるつもりが結果的に“撃退”し、現地のテレビに出ることになったムッタ。一方日本では、ムッタの元上司の流した悪評が逆恨みであることをJAXAの星加と二村が調べ上げていた。「ムッタと働きたい、彼を宇宙飛行士にしたい」という思いが2人を動かした。そして、ムッタの人生の扉が開く。(2巻#14 「白煙天国」)
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佐渡島:会社側が知りたいのは、一緒にプロジェクトを進めていくうえで、その人とコミュニケーションが取れるかどうか、その人がどんな強みを発揮してチームに貢献してくれるのか。それをお互いに居心地のよい状態でできるかどうか、を知りたいのです。

お互いに無理せず、居心地のよい状態で、というのがポイントですね。FFS理論の観点から言えば、無理した状態ではその人の強みはなかなか発揮されませんから。

佐渡島:そうです。そして、どんな強みかといえば、例えば、僕は「凝縮性」が高いのですが、この人は「凝縮性」ならではの明確な価値観で、リーダーシップを発揮してくれるのか。あるいは、「受容性」ならではの柔軟性と面倒見の良さで、チームを一つにまとめてくれるのか。「弁別性」ならではの合理性で、適切な判断を示してくれるのか。「拡散性」ならではの行動力で、新規事業を推進してくれるのか。「保全性」ならではのきめ細やかさで、チーム運営の仕組みを作ってくれるのか。あなたはどの強みでチームに貢献してくれますか?ということが面接では問われていると思うんですよ。

仕事は我慢ではない、楽しむもの

これまでのお話で、就活生に必要な自己理解の輪郭がすごく明確になった気がします。では最後に、佐渡島さんから就活生へのメッセージをいただいて、このインタビューを締めたいと思います。

佐渡島:はい。自己理解は就活のためだけにあるのではなくて、この先、大人になってからもずっと、いろんな人とコミュニケーションを取っていくうえで必要な能力です。

 その意味では、遅かれ早かれ、どこかの時点で自己理解はしっかりとやっておかないといけない。だから、就活はそれに取り組むいい機会だな、くらいに思っておけばいいんじゃないでしょうか。

そうですね。自己理解は他者と関わり続ける限り、ずっと必要になりますからね。

佐渡島:そうなんです。そして、これからは転職や副業は当たり前の時代ですから、就職したらそれで人生がすべて決まってしまうわけでもありません。社会に出てからも、さらに次のステップに進むための自己理解をどんどん進めていけばいいと思いますよ。

確かに。

佐渡島:それと、繰り返しになりますが、就活というのは、就活生が会社を見極める時間なんだよ、ということは強く伝えたいですね。

会社との相性を見極める、ということですね。

佐渡島:そもそも仕事というのは、我慢の結果として報酬が支払われるものではありません。自分が楽しみながら強みを活かした結果として、一緒に働く周りの人たちも楽しくなる。それに対して報酬が支払われるものなんです。だから、自分が我慢した見返りに一生食べさせてもらえる会社を見つける、という考え方はしないほうがいいです。

仕事に対する根本的な考え方として、「仕事を楽しむ」ことが大事なんですね。

佐渡島:そう、仕事は楽しまないと。すごくシンプルな話で、例えば犬アレルギーの人が動物園の職員になるのは、相当ハードルが高いですよね。おそらくその選択をする人はほとんどいない。

それは厳しそうですね。身体がつらくて、仕事なんて楽しめそうにないです。

佐渡島:こうした身体的なミスマッチならみんなイメージしやすいんですが、それ以外だと、つい我慢してしまう人が多いんです。実際にそういうミスマッチはたくさんあります。

精神的に我慢をしたり、我慢を強いられたり。

佐渡島:仕事を楽しむためにも、自分が居心地よく生きられる場所を見つけてほしいと思いますね。

そうですね。就活生の方々には、『あなたを引き出す自己分析』を活用して自己理解を深めて、自分が生き生きと働ける会社との出会いにつなげていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

佐渡島:こちらこそ、ありがとうございました。


35巻#327 「自分への言葉」
35巻#327 「自分への言葉」
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© Chuya Koyama/Kodansha
(構成:前田 はるみ

※佐渡島さんのFFS理論との関わり、仕事への活かし方については下のリンクからどうぞ。
コルク佐渡島氏『みんないいアイデアに1度しか触れない』
『自分を嫌いな上司』の真実が分かる本

就活は、『宇宙兄弟』のこの「キャラ」に学ぼう!
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 企業の採用担当者に「自分の価値」を分かりやすく、かつ、ムダに“盛らず”に伝えたい。それには、正しい自己分析と、それを受け容れ、他人にうまく伝えることが必要です。FFS理論はあなたの個性を「凝縮性」「受容性」「弁別性」「拡散性」「保全性」の5つの因子で診断。あなたの内側にある「あなたの強みと弱み」を引き出して、言葉にします。

 さらに、自分と似た因子を持つ『宇宙兄弟』の、個性豊かなキャラクターたちのドラマを読みながら、「こうすれば相手に良さが伝わる」「こういう振る舞いはマイナス」と、自分の性格が生み出すポジティブ、ネガティブな印象が分かりやすく学べます。就職活動はもちろん、ビジネスパーソンの転職にも役立ちます。本には、ウェブサイトでより詳しい診断が受けられる袋綴じのアクセスコードが付いています。

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