各種条件を満たせば1円という極端に安い料金で入手できる「1円スマホ」。他キャリアからの乗り換えや自社での新規契約を通して顧客を囲い込むための販売手法だ。だが1円スマホの存在は中古販売店などを圧迫するうえ、携帯料金の引き下げやサービスの競争を阻害するため規制が必要とされてきた。また、回線契約をしないでスマホのみを大幅に割引された価格で購入し、それを転売する行為を助長するといった弊害もある。

 このため、2019年10月の電気通信事業法改正で回線契約時のスマホ値引き上限が税込み2万2000円に制限され、さらに23年12月27日からは端末単体の販売も値引きの規制対象とされることになった。これにより高額なスマホを実質1円という極端な割引価格で入手できなくなる。なぜ1円スマホが生まれたのか、どのような仕組みで割引されてきたのか、過去の記事を通して、その背景と経緯を振り返る。

1円で入手できる「1円スマホ」

 「1円スマホ」とは、各種条件を満たせば端末代金が実質1円という、極端に安い料金で入手できるスマートフォンのこと。スマホが登場する以前の携帯電話(いわゆるガラケー)の頃から、販売代理店によってこのような販売手法がたびたび採用されてきた。

 2023年11月時点で、1円スマホは「楽天モバイル」や「ワイモバイル」などが取り扱っていた。他のキャリアからの乗り換えや自社での新規申し込みといった、各種キャンペーンの適用条件を満たすことで、通常は数万円のスマホを実質1円で入手できる。

 販売代理店が1円でスマホを売る背景には、スマホの普及が進んで新規契約が少なくなったことと、制度の改正により異なるキャリア間でサービスの乗り換えが簡単になった(違約金が発生しなくなった)ことが挙げられる。できるだけ多くの利用者を自社に引きつけるための方策が1円スマホというわけだ。

 一方で1円スマホは大手のみが採用できる販売手法であって、価格競争について行けない中古販売店などの事業を圧迫するという指摘がある。また1円でスマホを買った後にすぐ元のキャリアに戻る人も少なくないため、各社の事務手続きを増やしているとの声もある。加えて、1円スマホを購入しては転売する「転売ヤー」の存在も問題視されている。また、携帯端末を安くすることに使われる原資を携帯料金やサービスの競争を促進するのに充てるべきだというそもそも論もある。

通信・スマホ業界が直面する失われた15年

 1円スマホ(および0円スマホ)の存在は、以前から問題視されてきた。かつては通信事業者の間で「販売代金を実質ゼロ円にして、通信料金で回収していく」販売手法が慣習となっており、それが携帯電話料金の高止まりに影響していると見られていた。国は15年末より有識者会議でこの問題を検討し、これを受けてキャリア各社も販売手法の見直しに向けて動き始めた。

弱肉強食に高まる反発

 1円スマホを主導しているのは大手キャリアだが、それにより現場の販売代理店には大きな負担がかかっている。中には販売代理店にキャンペーン実施を強要して、それにかかる費用を販売店自身に負担させるケースも発生していた。こうした慣習が横行することで、経営難に陥っていった販売代理店も少なくない。

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