文春オンライン

「背骨が折れ、臓器を失っても…」死と隣り合わせの“脱北”の真実 移動距離1万2000キロに寄り添い続ける支援者

ドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』キム・ソンウン氏インタビュー

2024/01/11

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 韓国・北朝鮮, 映画, 国際

note

 世界で最も閉ざされた国の1つ、北朝鮮。最高指導者である金一族が神のように崇められ市民は自国が「地上の楽園」だと信じ込まされている。その一方で、飢えや貧困の問題は根深く、強制収容所や拷問・処刑といった恐ろしい人権侵害がはびこっているのが実情だ。

 映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、そんな北朝鮮から命をかけて脱出を図る家族と、彼らを支援する人々のドキュメンタリー作品だ。再現フィルムは使用せず、隠しカメラやスマホで撮影した生々しい記録映像ばかりで綴られる。

 このドキュメンタリーに脱北者支援の中心人物として登場し、危険かつ過酷な行程の手引きを行っていたキム・ソンウン氏にインタビューを行った。

ADVERTISEMENT

◆◆◆

パンデミックのギリギリ手前で成功した脱北

キム・ソンウン牧師 ©️杉山秀樹/文藝春秋

 韓国・カレブ宣教会の牧師であるキム・ソンウン氏は、脱北支援を行う「地下鉄道」の中心メンバーであり、1000人以上もの脱北者を手助けしてきた。本作では、過酷なジャングルやメコン川へ同行し、体を張って5人家族を脱北へと導いている。

キム・ソンウンさん(以下「キム」) これを見てください(スマホを手に)。マドレーヌ・ギャヴィン監督やスタッフと一緒に、東南アジアで記念に撮った写真です。

――みなさん明るい表情ですね。映画での脱北が行われたのはいつ頃だったんですか?

キム 2019年の11月でした。

――4年と少し前。

キム はい、これを撮影して、1カ月後にコロナのパンデミックが始まりました。もしあとちょっと遅かったら、彼らを救出できなかったでしょう。

――コロナ禍で何年間か、脱北支援活動はできなかったとか。

キム ええ、コロナ禍で脱北させられたのは、たった1人だけでした。

――その間「助けたいけど助けられない」という心の葛藤はありましたか?

キム それは全くありませんでした。コロナ禍では、脱北に成功した人々のための教会を建てたり、一緒に過ごせる場所や食堂を作ったりと、やることはたくさんありました。牧師として礼拝の仕事もありましたからね。

 脱北者のための施設では、鶏やヤギ、犬、七面鳥、鴨などを飼っていて、農作業もできます。この施設の目的は、故郷を失った脱北者に、いつでも戻れる故郷を作って一緒に話したり、作業をしたりすること。全て無料で利用でき、身も心も癒される場所です。その中で神の福音を伝えることもできる。これは、とてもやりがいのある仕事でした。