ユニコーンやソロ活動で才能を発揮してきた奥田民生さんは56歳。今回は博報堂生活総合研究所の前沢裕文氏(44歳)が、おじさん歴10年以上の憧れの先輩に教えを請う。すると、40代で再始動したユニコーンでは、おじさんであることが武器になり、そのことで自身も楽になったという。ネガティブなはずの「おじさん」をどう武器にしたのか――。全40代のお手本として必読![日経クロストレンド 2021年9月16日付の記事を転載。本記事を収録した新刊 『-30年調査でみる-哀しくも愛おしい「40代おじさん」のリアル』 が12月15日に発売]

奥田民生氏
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 奥田民生――。もうこれだけでパワーワードです。中高生の頃のバンドブームをきっかけに音楽を聴くようになった40代おじさんたちは、名前から後光が差して見えることでしょう。

 今回は、2021年8月に2年ぶり16枚目となるアルバム『ツイス島&シャウ島』をリリースしたロックバンド、ユニコーンの奥田民生さんにお話を伺いました。現在56歳でおじさん歴14年目を迎えている先輩の一言一言は、私たち40代おじさんがおじさんとして生きていくための手引きのようなものになっていると思います。早速ご一読ください。

奥田 民生
1965年広島生まれ。87年にユニコーンでメジャーデビュー。94年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタートさせ、様々なアーティストとのコラボレーションや、プロデューサーとしての才能も遺憾なく発揮。バンドスタイルの「MTR&Y」、弾き語りスタイルの「ひとり股旅」、宅録スタイルのDIYアナログレコーディング「カンタンカンタビレ」など活動形態は様々。テレワークでゲストとつながりトークや演奏を繰り広げる「カンタンテレタビレ」やバーチャル背景で演奏する「カンタンバーチャビレ」などをYouTubeにて次々と公開。その独自の活動でリスナーのみならずミュージシャンからも愛されている。

奥田民生氏
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前沢裕文(以下、前沢) 博報堂生活総研が2020年に行った調査で「43歳からがおじさん」という結果が出ておりまして。奥田さんは1965年5月生まれということで、43歳前後のアルバムリリースを調べると、2008年1月、42歳のときにソロで『Fantastic OT9』、09年2月、43歳のときにユニコーンで『シャンブル』をリリースされています。

奥田民生氏(以下、奥田) ああ、ユニコーン再始動してますね(編集注:ユニコーンは1993年に一度解散し、2009年に再始動した)。

前沢 再始動後初アルバムが、おじさんになった少し後のリリースなんですよ。

奥田 復活したユニコーンは完全に「おじさんバンド」ですからね。まさに年齢的にも合ってるじゃないですか(笑)。

 確かに、再始動がその時期だというなら、そのときは「俺たちはもう全然若くない」というのが染み込んでいるし、「昔みたいにはできないし、やらないからね」みたいな感じですからね。僕らの場合はおじさんになったことを武器にするというか、おじさんはやらないよそんなことはって。

前沢 武器というか、盾というか(笑)。

奥田 そうですね(笑)。「おじさんなんだからそんな仕事のさせ方しないでくれ」と言える。「もうおじさんなんだから」って感じは、すごく楽でした。メンバーの関係も、おじさんになってまで細かいことやいのやいの言わないよもう、という空気もありましたしね。

前沢 ご自身の40代は、振り返ってみるとどんな40代でしたか?

奥田 30代と一緒だと思ってやっていました。40代中盤くらいからは、体力もなくなってきたなとか、四十肩になったし、バンドでもそんな話しかしないし。どこの病院行ってんだとかさ(笑)。

 でも、周りからの見られ方が「おじさん」というのがよかったし、再始動して「おじさんバンド」って堂々と言えることがすごく楽。

前沢 どんどんいいおじさんになっているように見えますけど、奥田さんの中でこんなおじさんでいたいというのはあるんでしょうか?

奥田 ふふっ。どうすかねえ。若い頃から割と老けたがりだったから。20代の頃から、30代後半くらいの人の音楽のつくり方がいい感じだなと思っていたので、早くそうなりたいって、焦ってそっちにいってる感じがあって。がむしゃらじゃなかったり、ちょっと余裕があったり、そういうのに憧れていたんですよね。今も、そんな感じが正しいと思うんですけど。

前沢 そういう姿勢だからなのか、とても楽しそうに見えます。

奥田 YouTubeでレコーディングの様子も公開しているんですけど、レコーディングって、まじめにこう頭をかきむしりながらつくってるようなイメージがあるんじゃないかなと思って。そういう人もいるかもしれないけど、レコーディングはもっと楽しいんだ、面白いんだっていうのを見せたかったんですよね。悩んでやるようなことじゃないみたいな。仕事に向かうときに、遊んでいるようなそのテンションでそのままいけるかどうかっていうのが問われるんじゃないかと。人間は。

前沢 (笑)

奥田 と同時に、すごく準備してやるよりも、やっている途中にポンと思いついたこと、そっちに食いつく方が絶対に面白いって、年とっていくうちにどんどん思うようになって。言ってみたら、大喜利の毎日みたいな。

 一番面白いのは、とにかくアドリブで突き進む。その方が面白いってなってきているんですよね。で、その大喜利みたいなのって、滑ったら嫌じゃないですか。だから嫌なんですよ。緊張するんですよ。だけど、それも年とってくると、滑ってもいいやってなるんです。失敗しても別にまあいいかと。若い頃は、失敗したらその先の仕事に影響があるけど、今やもうないだろうという気でもいるから。

前沢 これまでに失敗したと思うことってありますか?

奥田 うーん。

前沢 それを失敗と捉えるかどうかはありますけど。

奥田 そういうことですよね。そういう意味では、ないですね。

 ユニコーン解散したときに、やっぱりすごく悲しかったんですよ。「バンドはずっと長く続く方がかっこいいのにな」と思っていましたから。で、「ああ失敗した」って感じはちょっとあったけど。失敗ではないけど、あれくらいかなぁ。

 あ、芸名をつけなかったのが失敗かなって思ったことがある。病院に行って名前を呼ばれるじゃないですか。「奥田民生さん」って言われてざわってするときがあるんですよ、実際。「ああ、デーモンなんとかにしておけばよかった」みたいな(笑)。

前沢 それくらいですか?(笑)

奥田民生さん(右)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文(左)
奥田民生さん(右)と博報堂生活総合研究所の上席研究員・前沢裕文(左)
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“おじさん”になったら歌詞は変わってくるっちゃ変わってくる

前沢 若い頃と、おじさんになった後では、曲のつくり方やバンドのあり方というのはだいぶ変わりましたか?

奥田 そうですね。さっき言った大喜利要素みたいなことをやろうやろうって増やしていったし。つくり方が変わっていかないと飽きるんで。同じことをするのでも、ちょっと見方を変えるとか、ちょっと足かせをつくるとか。それ始まりみたいなつくり方になってる。そうした方が飽きないし、アイデアも湧くんですよね。

 それは若い頃からずっと修業してきたいろんな技がね、あってできることなので、段階があると思いますけど。バンドでも音楽活動全体でも、やっぱり修業あってのつくり方ということはありますけどね。

前沢 なぜかマイペースというイメージがついていますが、修業もそうですし、昔から常に新しいことにチャレンジしていますよね。むしろマイペースと逆というか。

奥田 「全然僕のペースじゃありません」ってよく言うんですけど。マイペースって悪い意味でとったらやる気がねえんだよ、覇気がねえんだよっていう話にもなるし(笑)。「マイペースで楽しそうですね」っていい言われ方なんでいいんだけど、マイペースではないですよ。

前沢 奥田さんがYouTubeを始めたのも15年と早いですし。ユニコーンでは全員が作詞・作曲したり、演奏する楽器も固定しなかったり。ニューアルバム(21年8月18日リリースの『ツイス島&シャウ島』)では、奥田さんが尺八まで吹いてますよね?

奥田 尺八はね、結構前から持ってて。吹けるようになりたいって思っているんですけど、全然うまくならないんですよ。日によって今日は全くダメとか、今日はちょっとだけ鳴るとか、そんな程度です。それを川西さん(編集注:ユニコーンメンバーの川西幸一氏)が「ちょっと音入れて」って。「入れてって言われても、この曲のキー吹けないし」とか言いながら、一人でブブブーッて練習していたやつを勝手に入れられてるんです(笑)。だけど、いまいち出てないんですよ、音が。ちょっと間抜けな音なんですよね。そういう日だったんです(笑)。

 ちゃんと吹けるようになったら曲つくりたいと思っていたけど。道半ばで出されちゃった感じですね。

奥田民生氏
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前沢 その感じも本当になんでもありなバンドだなと。アルバムの資料にあるコピーがすごいんですよ。「メンバー5人全員が作詞・作曲を手掛け、ボーカルを含めた楽器パートが楽曲ごとに入れ替わるという他の追随を許さない自由度で、我が道をいく奇跡のバンド・ユニコーン」と書いてあります。

奥田 (笑)。追随許してるけどね。というより誰も追随しないだけでしょ(笑)。そんな、こんなふうにやりたいって人いますかね? バンドやってて。

前沢 いますよ! 本当に楽しそうだなあって思いますし。

 あのー、曲づくりの変化でいうと、歌詞も変わってくるのかということについても伺いたくてですね。

奥田 個人的には変わっていると思うけど。同じ人間がつくるものは、根本はそんなにはね、変わらないですし。

前沢 インタビューで奥田さんは、「歌詞はそんなに意味ない」「音に合わせている」と常々おっしゃっていますが。

奥田 常々。口を酸っぱくして(笑)。

ユニコーンとソロ約400曲の歌詞をAIで解析してみると…

前沢 でも何かしら込められた意味や作詞の傾向があるんじゃないかと思って、歌詞をAI(人工知能)で解析してみたんですよ。

奥田 まじで? そんなことするんですか?(笑) そしたらなんて言うの?AIは。

前沢 ユニコーン全曲、奥田さんのソロの曲合わせて約400曲の歌詞について、それぞれ43歳前のおじさん以前、43歳後のおじさん以降で、よく出てくるワード、特徴的なワードを調べたんですね。で、好きなワードや傾向があるのかなと思ったら全然なくて。

奥田 それはだけど、どんだけ適当かってことでしょ? 言ってみりゃ(笑)。

前沢 そういう言い方もできなくはないですが(笑)。例えば、これはユニコーン全曲でよく出てくるワードを調べたもので。

<ユニコーンの曲によく出てくるワード>
<ユニコーンの曲によく出てくるワード> 注)分析にはユーザーローカル テキストマイニングツールを使用(以降も同様)
注)分析にはユーザーローカル テキストマイニングツールを使用(以降も同様)
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奥田 おー、すごい。イサムハンサム(笑)。1曲じゃん(笑)。

前沢 奥田さんが作詞したユニコーンの楽曲で、おじさん以前と、おじさん以降のアルバムで特徴的なワードに変化があるか見てみたり。

<ユニコーンの奥田さん作詞の曲(『SPRINGMAN』以前)に特徴的(※)なワード>
<ユニコーンの奥田さん作詞の曲(『SPRINGMAN』以前)に特徴的(※)なワード> 注)※スコア分析(一般的な文書ではあまり出現しないが、調査対象の文書だけによく出現する単語は重視)を使用(他同)
注)※スコア分析(一般的な文書ではあまり出現しないが、調査対象の文書だけによく出現する単語は重視)を使用(他同)
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<ユニコーンの奥田さん作詞の曲(『シャンブル』以降)に特徴的なワード>
<ユニコーンの奥田さん作詞の曲(『シャンブル』以降)に特徴的なワード>
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奥田 めちゃめちゃとりとめないな。

前沢 そうなんですよ。まるで傾向がないんですよ。

奥田 AIやるなー(笑)。いや、でもよかったです。傾向あったらそれはもう癖ってことだから。

前沢 そうです。でも、音を先につくったらはめやすいワードとか使いやすいワードとか……。

奥田 そうそうそう、そういうのは絶対あると思っていたけど。あるにはあるんでしょうけど。例えば、TUBEなら夏だらけってことですよね。

前沢 (笑)

奥田 そういうのに絞ってガンガンいく人って、すさまじくすごいと思いますね。大変だと思いますよ。

前沢 ソロの楽曲になると、ユニコーンとは違うワードが出てきますね。

奥田 ソロの方が偏るっちゃ偏るのかなぁ。

<奥田さんのソロの曲(『Fantastic OT9』以前)に特徴的なワード>
<奥田さんのソロの曲(『Fantastic OT9』以前)に特徴的なワード>
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<奥田さんのソロの曲(『OTRL』以降)に特徴的なワード>
<奥田さんのソロの曲(『OTRL』以降)に特徴的なワード>
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前沢 でも、ユニコーン初期の『BOOM』『PANIC ATTACK』の頃はそのときだけに出てくるワードがありますけど、その後は傾向らしい傾向はないですね。

奥田 あの頃はね、歌詞っぽくしなきゃというのがあったけど。

前沢 昔は歌詞におじさんというか「あやしい係長」とか「さんざんからんで人生語るおっさん」が登場したのが、最近ないのは40代おじさん的には寂しいです(笑)。

奥田 若いうちに老け願望があったから。だからサラリーマンの悲哀みたいな歌詞もあったじゃないですか。ああいうのは、本当におじさんになったらつくらないですよね(笑)。

 今僕がサラリーマンのそれを歌ったところで、それを誰が「そうだそうだ」と言うもんかというのがあるから。そういう意味では歌詞ってのは変わってくるっちゃ変わってきますよね。

前沢 いやあでも……こんなに不毛な分析になると思わなかったです(笑)。

奥田 がんばってもらったのにすみません(笑)。

奥田民生氏
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後編につづく

(写真/竹井 俊晴)

日経クロストレンド 2021年9月16日付の記事を転載]

おじさんの変化を、おじさんが解き明かす

1981年の設立以来、生活者をウオッチし続けてきた博報堂生活総合研究所。約1400項目もの質問を聴取し、回答の変化を時系列比較した「生活定点」調査を92年から継続しています。このデータなどを基に、同研究所の40代の研究員が、40代男性の意識や行動、価値観などの変化について徹底分析。実は、コロナ禍で大きな変化を遂げている実態が見えてきました。年齢を10歳刻みで分けて人口を見ると、最多層でもある40代おじさんの生態が今、明らかになります!

前沢裕文(著)/日経BP/1980円(税込み)