『宝石の国』人気の秘密を徹底考察!!

2012年に『月刊アフタヌーン』で連載が開始されて以降、そのアート性に満ちた絵と独創的な世界観で多くの読者の心を掴んだ漫画『宝石の国』。身体が「宝石」で出来ている28人の生き物が、その宝石目当てに自らを拐おうと月から襲来する月人(つきじん)と戦いながら暮らす物語です。ファンタジー作品に分類されるものの、その物語の類まれな独創性はファンタジー漫画の中でも異彩を放っています。

今回はそんなファンタジー超大作『宝石の国』の魅力を徹底的に解説したいと思います!

『宝石の国』基本情報

まずはあらすじや作者など、漫画『宝石の国』の基本情報をご紹介していきます!

『宝石の国』あらすじ

宝石の国 1巻

宝石の国 1巻

今から遠い未来、宝石のカラダを持つ28人は、彼らを装飾品にしようと襲い掛かる月人に備えるべく、戦闘や医療などそれぞれの持ち場についていた。月人と戦うことを望みながら、何も役割を与えられていなかったフォスは、宝石たちを束ねる金剛先生から博物誌を編むように頼まれる。

この物語は、私たち「人間」が絶滅した遥か未来の世界を描いています。物語の中心は、宝石のカラダを持つ28人。彼らは「人間」が海底に沈み微小生物に食べられたことから無機物の結晶となり、やがて「宝石」として浜辺に打ち上げられて誕生したとされています。

『宝石の国』第1巻p20-21

彼らは、宝石である彼らを装飾品にするため月から襲来する宿敵・月人(つきじん)との戦いに備え、戦闘や医療、武器製作など、日々それぞれの仕事をこなしながら暮らしていました。薄荷色をしたフォスフォフィライト(通称・フォス)も、その宝石のうちの1人。しかし彼は、硬度が弱く不器用で何をやっても駄目なことから、1人だけ仕事が与えられていませんでした。自分も誰かの役に立ちたいと願いながら、叶わぬ日々を送っていたフォス。そんなある日、フォスは宝石たち28人の指導者である金剛先生から呼び出され、「博物誌を作る」という仕事を与えられます。あてがわれた仕事にイマイチ納得できていないフォスでしたが、仕方なく浜辺に出て情報収集をしていると、そこへ宿敵である月人が襲来し…。

独創的な設定と、重厚感のあるストーリー。漫画が好きな人なら、この世界観に没入してしまうこと間違いなしです!

作者・市川春子(いちかわはるこ)先生

2006年に『月刊アフタヌーン』が開催する新人賞「アフタヌーン四季賞」に投稿した『虫と歌』という作品で大賞を受賞し、翌年に読み切り漫画である『星の恋人』でデビューを果たした先生です。 主に短編や読み切りを多く発表されてきた先生にとって、初の長編連載作品となった漫画が、本作『宝石の国』。過去の作品において、手塚治虫文化賞・新生賞を受賞してきた先生の長編作品とあって、『宝石の国』は連載当初から多くの注目を集めました。

累計発行部数は180万超え!

既刊9巻が発売中の本作ですが、8巻までの累計発行部数は180万部を超えています!(2018年4月時点)

この大ヒットから岩手県一関市にて2018年の夏に「宝石の国」特別展が開かれました。石と賢治のミュージアムの鉱物展示室とのコラボ企画であり、キャラクターのモデルとなった宝石がイラストと共に展示され、多くのファンを集めました。

圧倒的映像美!3DCGでアニメ化!

『宝石の国』は、2017年10月~12月クールでアニメ化され、その美しい映像が大きな反響に。ダイナミックでリアリティ溢れる3DCGアニメーションにて制作され、TOKYO MXほかにて放送されました。白黒のコマでさえ、溜息が出るほど綺麗な本作です。カラーのアニメーションとなれば、どれほど美しいか。アニメから見はじめて、原作漫画を読みたくなった!という読者の方も多かったようです。どちらから入るかは、あなた次第ですよ…!

「このマンガがすごい!」ランクイン!

『宝石の国』は、連載開始の翌年、単行本の発売をきっかけに「このマンガがすごい! 2014年」オトコ編の第10位にランクインしました。この漫画の独創的な世界観は「これまで読んできたどの漫画とも被らない」と感じる方も多いかと思います。その「唯一無二」の存在感に、選考員の方々も圧倒されたのではないでしょうか。

それでは実際に、他の漫画にはないこの作品独特の魅力をご紹介していきます!

ままならないからこそ輝く宝石たち

『宝石の国』第2巻p2-3

この物語のキャラクターたちは、皆宝石の名前を冠しています。さらに、それぞれ宝石の特徴にあった色や硬度で彼らの「個性」が描かれているところが素敵です。

『宝石の国』第1巻p8

例えば、主人公の「フォスフォフィライト」は薄荷色の珍しい石がモデル。名前や色は勿論、「非常に脆く壊れやすい」という特徴までそのままキャラクターに描かれており、主人公のフォスフォフィライトもその弱さから、他の宝石たちが日々こなす仕事に向かず「仕事が与えられない」という葛藤を抱えています。

『宝石の国』第1巻p67

同じように葛藤を抱えるのが、この物語の鍵を握る「シンシャ」。彼のモデルもまた、実在する特徴的な宝石です。美しい赤色、バーガンディー色をしている一方、水銀を多く含むため人間が舐めたり水洗いしたりすることは危険とされており…。そのことから、シンシャは身体から毒液が出るキャラクターとして描かれ、周囲から孤立しています。そして皆を傷つけてしまうくらいならいっそと、自ら月人に襲われることを願いながら夜の見回りをする切ないキャラクター。

状況は違えど「ままならない」宝石である2人が互いに影響し合い展開してゆく様子は、脆さの中に相手を想う強さが垣間見え、なんとも言えぬ美しさがあります。

そしてその他、私たちがよく聞く有名な宝石の名前のキャラクターも多く登場します!硬度が一番強いダイヤモンド、紫色の水晶であるアメシストなど、読みながら宝石の特徴を調べてみるのも、面白いかもしれません。

芸術的な絵に表現される光と影

この漫画の1ページ目を開くと、第一印象として特徴的な絵のタッチに魅了されることでしょう。漫画というよりもオシャレな雑誌の挿絵などで見かけるような芸術的タッチが印象的です。そしてなんと言っても、宝石たちの輝き、自然との調和、光の反射が眩しいほど綺麗に描かれている点に惹かれます!白黒にも関わらず、宝石たちに反射した光が色とりどりに煌めいて見える不思議。漫画はここまで美しくなれるのか、と驚き圧倒されます。

一方で、宝石たちが輝けば輝くほど、未熟な宝石である主人公・フォスフォフィライトや、孤立したシンシャの影の描写が鮮明に映えてきます。

『宝石の国』第1巻p46

宝石であるにも関わらず脆く、その脆さゆえに周りからお荷物のような扱いを受けるフォスフォフィライトは、無力感や焦燥感と、それでも何かの役に立ちたいという欲求との間で葛藤しているように見えます。そんなフォスフォフィライトの繊細な感情が、光と陰の具合やバランスで絶妙に伝わってくるようで、この漫画の絵(とりわけ光の表現)の芸術性をひしひしと感じます。

「人間らしさ」際立つ詩的な台詞の数々

宝石たちが繰り広げる会話もまたこの作品の魅力です。

『宝石の国』第1巻p34

台詞のテンポに緩急があり、その1つ1つが詩的な響きを持っています。特に自分の無力さと葛藤する主人公・フォスフォフィライトの言葉には「人間」らしい重みがあり、無機質で不寛容な台詞の多い他の宝石たちとの対比によって、その温かみが際立ちます。

『宝石の国』第2巻p16

例えば、フォスフォフィライトの「誰からも必要とされていない」という悩みから、救いを求める気持ちが溢れたシーン。「誰でもよかったとは思いたくないんだ」という言葉は、自らの存在価値を誰に認めてもらいたいという人間らしい承認欲求が表現されています。さらに表情と絵の輝きが眩しく、切なさを引き立てますよね。

他にも素敵な台詞が作品の中に多く散りばめられており、それぞれの文脈の中でまるで宝石のようにキラキラと輝きを放ちます。自分の好きな台詞を探しながら読んでみるのも面白いかもしれません。

『宝石の国』終わりに

『宝石の国』は、ただのファンタジーではありません。絵のタッチや台詞が作り出す光と影のコントラストが美しく、独特の輝きを放つ物語です。2019年1月現在で既刊9巻が発売されており、巻が進むごとにどんどんと奥行きを増してゆく物語に注目です。

  • 宝石の国(1)

    宝石の国(1)

    今から遠い未来、宝石のカラダを持つ28人は、彼らを装飾品にしようと襲い掛かる月人に備えるべく、戦闘や医療などそれぞれの持ち場についていた。月人と戦うことを望みながら、何も役割を与えられていなかったフォスは、宝石たちを束ねる金剛先生から博物誌を編むように頼まれる。