細かすぎて伝わらない!『令和5年版将棋年鑑』藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足 第2回|将棋情報局

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細かすぎて伝わらない!『令和5年版将棋年鑑』藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足 第2回

(1)潜在意識としての青
(2)會場手筋
(3)あの日の続き
(4)東山動植物園

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 皆さんこんにちは。「雲の向こうは、いつも青空」でおなじみの編集部雲外蒼天です。いや、島田です。

藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足、第2回の時間がやってまいりました。将棋年鑑に掲載する藤井聡太竜王名人のインタビューについて、できるだけ取材現場の臨場感が伝わるように補足していくこの企画。
 
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おかげさまで第1回の記事は多くの方に読んでいただきました。ありがとうございました。Twitterでいただいた感想を信じるなら、皆さん意外と「気持ち悪さのキャパ」があるようですので(笑)、伸び伸びと書いていこうと思います。
とはいえ、本連載の気持ち悪さは藤井曲線のように回を追うごとに増していきますので、「もう無理」と思われた方は非常口から元の世界にお戻りいただければ幸いです。

では、元気よく第2回行ってみましょう!

今回のMENUは以下の通りです。
(1)潜在意識としての青
(2)會場手筋
(3)あの日の続き
(4)東山動植物園

今回も4つのテーマで横四方固めを決めていきたいと思います。
では、(1)からまいりましょう。

(1)潜在意識としての青
まず最初のテーマは「潜在意識としての青」です。これはシンプルな質問コーナーの「好きな色」についての質問で現れたものです。

まずは以下のやり取りをご覧ください。

――続いての質問です。好きな色は何ですか?
「特にどれが好きか意識してはないんですけど、自分の持っている和服の色が青系が多いので」
――はい、そういうイメージがあります。
「なので、おそらく潜在意識としては青だと(笑)」

・・・なんという独特な答え方でしょうか。「好きな色は?」「青です」という単調な回答じゃない。自分の持っている和服の色から自らの潜在意識を類推していくスタイル。

以前のインタビューで好きな寿司ネタを聞いた時に、「自分は好きなものは最後に食べるタイプで、イクラとマグロを最後に頼むことが多いので、その辺りかと」という答え方をされたことがありましたが、それと似たような感じです。

このように、好みを聞かれた時に直感で答えるのではなく、自分の普段の行動から逆算して潜在意識を推測するのは、藤井先生独特の思考様式としてあるように思います。

面白いですよね。

なぜこのような考え方になるのかについて
・自分の好みを明言することを避けたいから?
・意識していることと、していないことを分けて考えたいから?
・自分自身を俯瞰して見たいから?
・将棋と詰将棋以外のことに興味がないから?
とか、いろいろ考えてみたんですが、結局よくわからなかったので諦めました(;^_^A

藤井聡太研究家として(え?いつから?)今後も考察を続けていきたいと思います。



(2)會場手筋
藤井先生の考え方の深淵に触れた(気がした)ところで、続いてのテーマは「會場手筋」です。これは、過去の連載を読んでくださっている方ならわかるかもしれません。
會場手筋とは、インタビュー中にインタビュアーが先に自分の考えをしゃべりすぎることによって、取材対象からそれ以上の言葉を引き出すという高等テクニックを指します。
この将棋年鑑インタビューにおいて弊社の會場が多用する技術で、今回もその威力はいかんなく発揮されたのでした。

詰将棋パートから、以下のやり取りをご覧ください。

――プロ棋士の作品といえば、昨年は斎藤慎太郎先生の七種合煙『リレー』の発表もありました。
「先日解いてみたのですが、思ったより難しくなくて良かったです」
――斎藤先生も七種合煙詰としては手順が易しくできたのも気に入っているとおっしゃっていたので、まさに意図通りですね。七種合でも明快に変化が割り切れているという。…いや、先生におっしゃっていただいたほうが良かったですね(笑)。失礼しました。
「いえいえ。でも本当にそれぞれの合駒がスッキリ出てきて、七種合を出しているんですがそれがすごく無理がないというか。自然に合駒が出てきて気づいたら七種合になっているという感じで、さすがだなと思いました」

・・・まさに、會場手筋。

先に「七種合でも明快に変化が割り切れている」ということを言ってしまうことで、藤井先生はそれ以上の言葉を用意しなくてはいけなくなりました。
そして「自然に合駒が出てきて気づいたら七種合になっている」という詩的な表現を引き出すことに成功したのです。

會場、恐るべし。

ただこれは十中八九、偶然の産物で、単に會場が斎藤先生の作品の良さを語るのを止められなかっただけだと思われます(笑)。

まぁでも、マニア同士の会話ってこういうことなんですよね。
毎回思うんですけど、この詰将棋パートに関してはインタビューというより詰将棋好きな二人の会話、という感じがします。

その証拠に、會場の話はこのような出だしで始まっています。

――では、よろしくお願いします。詰将棋パートに関しては、年に一度詰将棋のことを聞いてくるオジサンだと思って気楽に答えてください。
「ははは(笑)。よろしくお願いします」

もうこの時点で藤井先生が楽しそうなんですよね。
くぅ。勝てない。
いいもんいいもん。



(3)あの日の続き
いい感じに肩が温まってきたところで、渾身のストレートを投げていきたいと思います。3球目は「あの日の続き」です。

以下のやり取りをご覧ください。

――これまで指した将棋の中で詰将棋のような手が現れた対局はありますか?
「あると思うんですけど、思い出せるかどうかですね…(長考して)2021年の竜王戦第4局です」
――あ、あの将棋ですか。
「はい」

2021年の竜王戦第4局というのは・・・、みなさんご存じでよね? そうです。豊島先生との炎の十九番勝負の最終局、藤井先生と豊島先生のお二人から「もう少し続けたかった」という感想が出た(島田的に)伝説の一局です。終盤戦で超難解な局面が出現して豊島先生の長考中に藤井先生が奇跡的な詰み筋を発見して勝つというドラマチックな内容でした。
お二人の純粋な気持ちが盤上に現れたような一局で、あの将棋を思い出すだけで胸がいっぱいになってしまいます。

だから私が「あの将棋ですか」と言ったのに対して藤井先生が「はい」と答えてくださったのはうれしかったですね。

私にとってはもちろんですが、藤井先生にとっても「あの将棋」で通じるくらい特別な一局だったんだと言ってもらえたようで、思わず泣きそうになりました。

しかし、驚くのはここからです。

藤井先生の言葉の続きを見てみましょう。

「本譜は△3四桂に▲4七玉だったんですけど、▲3六玉とした変化で、以下△2四桂▲4五玉△4四歩▲同玉△3三銀▲同玉△3二歩▲4四玉△3三金▲4五玉△4四歩▲同銀△同金▲同玉△3三銀▲5五玉△8五竜で詰みます。本譜は▲4七玉△5八と▲3六玉となったんですが、先ほどと同じように進めると最後の△8五竜に対してと金が5八にいっているため▲6六玉と逃げられてしまいます。ただ、今回は竜の横利きが通ったので▲3六玉に△2五金からの詰みが生じています。これは詰将棋的な構造かなと思いました」

・・・いや、凄くないですか?

2021年の将棋の長手数の変化手順をそらんじる藤井先生。藤井先生の頭の中にはあの将棋がいつでも取り出せる形で残っているんですね。
なんなら普段からあの将棋の続きをまだ一人で考えているんじゃないかとすら思いました。

多くの将棋ファンにとって大切な将棋を、藤井先生もまた大切にされているんだなと思って、とてもうれしかったです。



(4)東山動植物園
ほっこりした気持ちになれたところで、今回もエンディングが近づいてまいりました。最後のテーマは「東山動植物園」です。先に謝っておきますが、ここから一気に気持ち悪くなりますので、ご容赦ください。
そもそも東山動植物園って何?という方も多いと思うので先に説明しておきますと、これは名古屋市にある動植物園で、広大な敷地内に動物園、植物園のほか、東山スカイタワー、遊園地が併設されています。

このお話はシンプルな質問シリーズの中のジェットコースターについての質問で現れました。

以下のやり取りをご覧ください。

――続いての質問です。ジェットコースターに乗ったことがありますか? 絶叫マシン系はいける口ですか?
「ジェットコースターというか、まず遊園地自体、東山動植物園以外に行ったことがないです」
――あ、そうなのですね。
「なので、東山動植物園のジェットコースター以外に乗ったことがないです」
――東山動植物園のジェットコースターというのはどれくらいのジェットコースターですか?
「いや、全然激しくはなくて、絶叫要素はゼロです(笑)」
――そうなんですね。ぐるぐる回ったりしないんですね。
「はい。だから絶叫系がいけるかどうかはわからないんですけど、決して歓迎ではないです(笑)」
――乗ってみたいとも思わない?
「そうですね。自信ないです」
 

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「ティーカップは苦手です」
東山動植物園の遊園地エリアの真ん中で、藤井先生は珍しくはっきりと言った。
ぐるぐる回ると気持ち悪くなってしまうらしい。

そうなると次に乗るのはペダルをこいで浮かぶ「フライングイーグル」か「ジェットコースター」ということになる。

二人で話し合った結果、フライングイーグルはワシの乗り物が妙にリアルで怖いという謎の理由で却下され、消去法により次のアトラクションはジェットコースターに決まった。

園内はそれほど混雑しておらず、花形のジェットコースターの列もすいすいと進む。
本格的な夏が始まる前にここに来れて良かった。

ジェットコースターの待ち時間はその高さを間近で見ることになるので恐怖感が増されるものだが、東山動植物園ではその心配がない。なにしろ、最高到達地点が低すぎるのだ。大体15mくらいだろうか。富士急ハイランドの「FUJIYAMA」が79mというから、かなり低い。位置エネルギーを運動エネルギーに変換するので、乗り物のスピードも必然的に遅くなる。先に乗っている人たちからも絶叫というより、笑っている声のほうが多く聞こえた。

「これは楽勝ですね」と言いながら、視線を藤井先生に戻す。
意外にも藤井先生は緊張しているように見えた。

列は止まることなく進み、いよいよ我々の乗車する番が回ってくる。
シートベルトを締めて発進だ。

カタカタと音を立ててゆっくりと上昇したが、すぐに頂点に達してしまった。そこからスピードをあげてカーブしながら降りていく。

私が「おー、結構速いですねー」と言いながら横にいる藤井先生を見ると、なんと、目をつぶって微動だにしない。そしてその姿勢のままゴールまで着いてしまった。

「意外と大丈夫でした」という藤井先生に
「いや、めっちゃ怖がってましたよ!」とツッコむ私。

そのままキャッキャと歩いているうちに目の前に大きな観覧車が現れた。

「いったんこれに乗りましょうか」と私が言うと
「そうですね」と藤井先生も同意してくれた。

動物の顔の形をしたかわいい観覧車だ。
我々をのせて、ゆっくりと上へ上へあがっていく。

観覧車から二人で外を眺める。
遊園地も、動物園も、植物園も、名古屋の街もどんどん小さくなっていった。


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はい。以上で第2回の連載は終了となります。

ちょっと、私の心が東山動植物園に行ったまま帰ってこないので(笑)、第3回がいつになるかわからないんですけど、そのうち帰ってくると思うので気長にお待ちいただければ幸いです。

皆さん、今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

また、お会いしましょう。

(島田)


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