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人的資本を考えるシリーズその2:人的資本の開示は誰にとって重要か


前回の記事では、人的資本を考える4つの視点と2つのキーポイントとして、多面的に人的資本経営について考えてみました。

その中で、人的資本経営とは、開示だけが目的ではなく、いかに人的資本について継続的に「開示」しつつ、いかに人的資本を「活用・改善」するかという点が押さえるべきキーポイントではないでしょうか、と述べました。

今回は特に「開示」について書いてみます。

どんな項目について開示が求められているのか?については内閣官房から出ている「人的資本可視化指針」が最も最新で詳しいものとなっています。(10月4日現在)ただ情報量が膨大なのでかなり読み込むのに四苦八苦正直しました。

開示項目としては、大きく2種類の開示が求められています。

(1)自社固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組・指標・目標

(2)比較可能性の観点から開示が期待される事項

さて、最近、多くの企業のご担当者様とお話している中で開示項目についてご相談いただくことが多いです。

特に機関投資家との対話が株価形成上、必要な上場企業のご担当の場合にはどの項目が良いか、と悩んでいる方もいらっしゃいました。一方、未上場企業の経営者の方とお話した際には、これらの開示が上場企業を中心に開示されることによってどんな影響があるのかわからない、と考えている事もあります。たしかにそうですね。そして、上場企業の中でもプライム市場に属していないような、小型株の場合、さらにどう開示していくか、という議論もあります。機関投資家との対話が少ない上場企業もたくさんあります。

つまり、企業規模や上場しているか否かにとって、「人的資本の開示」に関する温度感が全く異なる、という事を感じています。図にまとめてみると、以下のように整理できるでしょうか。

■機関投資家との対話、という観点から見る人的資本の開示

日本の上場企業は、3,836社です。そのうち、1,000億円以上の企業価値がある企業は727社です。この規模の企業ですと、機関投資家との対話が株価形成上重要ですし、海外機関投資家からも、海外企業との比較のために人的資本の開示を求められることが多いと思います。感覚ですが時価総額500億円以上となると、開示についての関心が急に上がりホットになるように思います。

一方、上場企業で時価総額100億円以下の企業も、1,524社存在します。時価総額100億円以下となると、アナリストカバレッジが少ないケースも多く、機関投資家とのコミュニケーションも、頻繁とまではいかなくなります。

さらに、未上場企業においては、一部の成長著しいベンチャー(※をつけた箇所)を除き、機関投資家とのコミュニケーションはかなり少ないと考えて良いでしょう。

つまり、上場していて時価総額が大きい企業と、未上場の中小企業では当然ではありますが「開示」について興味関心の度合いが異なります。上場していて、中型株以上の会社ではホットで、それ以下の会社だと関心が薄くなります。

 

■では未上場企業やグロース市場の小型株は人的資本の開示は放置しておけばいいのか?

これが機関投資家とだけの対話に限定するならば、放置でも良いのかもしれません。上場していて、企業価値が高い企業だけの問題だ、と捉えるのも無理のない話だと思います。

ただし、そうも言っていられないのでは?と思うのは、「労働市場との対話」の観点を考えた場合です。

どんな企業も、継続し成長していくには、優秀な人材の獲得です。近年では、人材の流動化が高まり、転職が当たり前になってきました。転職する際に参考とする情報は、年収などの条件面に加えて、openworkさん等の口コミの存在も非常に大きくなってきています。例えば、今どき初任給が開示されていない新卒求人はありません。どんどん、労働市場への情報開示は多様になってきたと言えると思います。

来年度より、上場企業を中心とした開示の義務化がなされます。

ということは、労働市場との対話における、情報量が格段に増加していく、ということに他なりません。上のほうで述べた、独自性のあるもの、比較可能性があるものの2種類の情報が増加し続けていきます。

人的資本に対し、どのようなスタンスで、どう取り組んでいくのか。機関投資家だけではなく、労働市場に対する対話が大きく変わるのが、人的資本に関する開示が義務付けされるタイミングなのではないでしょうか。

日本の人口はますます減りますから、人材獲得の困難さが増していきます。

■時価総額上位企業だけの話題ではない

となると、「人的資本の開示」は上場企業だけのものでもなく、労働市場への情報供給量が格段に増し、未上場企業であってもその影響は計り知れない、と私は思っています。全ての企業にとって、「人的資本に関する開示」は影響があるものではないでしょうか。

そのためには、離職率や人材教育といった(2)の比較できる指標だけではなく、(1)の独自指標も、各社の特色が出せるのでとても重要と言えると思います。

前回の記事において、人的資本の「開示」と「活用・改善」はセットでは、と述べたのは、開示するだけではなく、「どうやって人的資本を伸ばすのか」という視点が無ければ、機関投資家だけではなく労働市場との対話が成立しにくくなっていく(なぜなら一気に開示がはじまるため)と思います。

また次回、今度は「ではどういった開示をするべきか?」について考えていきたいと思います。


過去コンテンツへのリンクです。

人的資本を考えるシリーズその1:人的資本経営を多面的に考えてみる

人的資本を考えるシリーズその2:人的資本の開示は誰にとって重要か

人的資本を考えるシリーズその3:具体的な開示項目を先駆者に学ぶ。企業文化は開示項目となるか?

人的資本を考えるシリーズその4:心理的安全性と人的資本経営の関係について

「褒めるのはみんなの前で、しかるのは個別に」は正しいか

「心理的安全性」は日本企業こそ必要?-若手は超マイノリティ-

金融庁の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案について人的資本の側面から見てみました

丸井グループさんに人的資本経営について教えてもらいました


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