奈良のむし探検

奈良に引っ越しました。これまでの「廊下のむし探検」に倣って「奈良のむし探検」としましたが、動物・植物なんでも調べます。

植物を調べる コツブキンエノコロ?

2021-08-10 18:03:58 | 植物を調べる
最近、よく見かけるエノコロがあります。何となく黄色っぽいので、キンエノコロかなと思っていたのですが、キンエノコロであれば直立しているのに対し、これはやや垂れ下がります。それで、採取して調べてみました。





調べたのはこんなエノコロです。ぱっと見、キンエノコロかなと思ったり、垂れ下がるのでアキノエノコロに色がついているのかなと思ったりしたのですが、アキノエノコロではありませんでした。



これは穂を撮ったものです。長さは12cmくらい、幅は5mmちょっとありました。



拡大して見ると、こんな風につぶつぶがいっぱいです。これが小穂という花です。それに長い毛がいっぱい出ています。



一つの小穂を撮ってみました。長い毛は小穂の根元から出ていて、刺毛あるいは剛毛と呼ばれています。この写真の場合は8本出ていました。刺毛の基部は白いのですが、先端は褐色になっています。これが遠くから見たときに黄色っぽく見える理由のようです。それで、いつものように、「日本産イネ科植物図譜」で調べてみました。エノコロは分かっているので、群の検索をするまでもないのですが、一応、見てみると次のようになります。

①花序は頂生、特異な総包葉はない
②円錐花序をもつ
③円錐花序の枝はごく短く、小穂は多数密集して、全体が円錐形や円筒形のかたまりになる
④密集円錐花序は長い刺毛、ときには長い絹毛におおわれる。小穂は長い芒をもつか、または小穂の柄上に長い刺毛や絹毛がある 第7群

円錐花序というのが引っかかったのですが、絵にはエノコロみたいなものも円錐花序に入れられていたので、そうなのでしょう。いずれにしも第7群になりました。ここからは絵と説明から属を探さないといけないのですが、これもエノコロなので、簡単でした。

⑤小穂はみかけ上1小花、ほぼ楕円形で前後から扁平、両性小花の頴は厚くて光沢がある。芒はないが、小穂の下から長い刺状毛が出て花序をおおう エノコログサ属 Setaria

ここからは種を一つずつ見ないといけないのですが、近くにありそうなエノコログサやアキノエノコロなどを見ると、刺毛の数と包頴の大きさで見分けることができます。アキノエノコロは刺毛が2本前後と少なく、エノコログサは第2包頴が小穂と同じくらいの大きさなので、パッと見て違いが分かります。結局、キンエノコロとコツブキンエノコロの2種が残りました。

⑥a 小穂は帯白色、広卵形で長さ2.8~3mm、小穂下の刺毛は黄金色で、円錐花序は刺毛を除いて幅7~9mm。分布は日本全土。 キンエノコロ
⑥b 小穂はキンエノコロに比べわずかに淡緑色を帯、長楕円形、長さ2.2~2.8mm、小穂下の刺毛はふつう紫色を帯びた汚褐色で、黄金色のものはほとんどない。円錐花序は刺毛を除いて幅5~6mm コツブキンエノコロ

これを写真で調べてみたいと思います。







これは小穂の写真ですが、第1包頴はやや短く、第2包頴は小穂の半分以上の長さを持っていました。第1小花は不稔でその護頴だけが見えています。第2小花は稔性で、その表面には横しわがたくさんありました。





これは小穂を表側からと裏側から撮ったものです。これらの写真と上の説明を比べてみると、小穂の形と小穂の下の刺毛の色がコツブキンエノコロの説明とよく合い、また、円錐花序の幅もコツブキンエノコロの範疇に入っています。それで、おそらく、コツブキンエノコロであろうという結論に達しました。





これはついでに撮った第2小花の護頴と刺毛の拡大写真です。護頴のしわにはこんな形をしていました。また、刺毛には細かい刺がありました。





これは葉の基部の写真と葉身の縁の拡大です。葉舌は細かい毛の列になっています。また、葉の縁にも細かい鋸歯がありました。

これで終わろうと思ったのですが、実はいろいろと迷うような記述がほかの図鑑類に載っていました。

日本草本植物総検索誌 II 単子葉篇
①花序は全体が密生して円柱形となり、枝の判らぬもの
②小穂の基部に刺針又は剛毛のあるもの
③小穂は棘針を残して落ちる エノコログサ属 Setaria
④花序は密生
⑤花序は直生、まったく枝なく密生
⑥剛毛5~8本。黄又黄褐色。葉鞘の辺に辺毛がない
 ⑦a 小穂2~2.8mm。剛毛は褐黄色。花序は通常短い。幹脚は少し横臥 コツブキンエノコロ
 ⑦b 小穂2.8~3mm。剛毛は黄金色。花序は長い。幹脚は横にはわない キンエノコロ

これは最近いつも見ている「日本草本植物総検索誌」の記述です。小穂の大きさがちょうど中間位で、剛毛の色はよいのですが、花序は短いというのが気になります。今回の植物はむしろキンエノコロよりは長いようです。

日本産イネ科植物図譜」、桑原義晴
①a 多年草。根茎はこぶ状。茎は直立円形。小穂は2.5~3mm、黄色~紫色 フシネキンエノコロ(分布は大東島→「日本帰化植物写真図鑑第2巻」によると、静岡、兵庫などで帰化)
①b 1年草~越年草。茎はそう生、やや扁平。小穂は2.2~2.8mm、淡黄褐色から黄金色~紫褐色 コツブキンエノコロ(葉身基部に長毛)
①c 1年草~越年草。茎は直立、楕円状でほとんど枝分かれしない。小穂は2.5~3mm、黄褐色 アフリカキンエノコロ(分布は沖縄)
①d 1年草。茎は直立やや扁平。小穂は3~3.5mm、黄金色 キンエノコロ(葉身基部に長毛)

これは桑原義晴氏の「日本産イネ科植物図譜」に載っている記述です。実はキンエノコロには4種もありました。ただ、アフリカキンエノコロの分布は沖縄ですが、フシネキンエノコロは「日本帰化植物写真図鑑第2巻」によると本州に帰化しているようです。ただ、写真で見る限り、穂がほっそりして如何にも違う感じです。ここで、気になるのはコツブキンエノコロもキンエノコロも共に葉身基部(葉舌の上方)にかなり長い毛があるとの記述です。写真で見る限り、長毛は見られません。

日本の野生植物 I
①a 小穂は長さ約3mm。第4頴はあらい横じわがあり、ボート形で、背面の上方は多少竜骨状になる。芒は黄金色 キンエノコロ
①b 小穂は長さ2~2.8mm。第4頴は細かい横じわがあり、背面の上方は竜骨状にならない。芒は帯黄褐色 コツブキンエノコロ

次は「日本の野生植物」旧版の検索表です。第4頴は第2小花の護頴のことで、背面上方には竜骨状のものはないのでよいのですが、「芒」ではなく、「刺毛」ではないかと思います。

帰化&外来植物 950種
①刺毛が黄金色
 ②a 刺毛は淡い黄金色。花穂の刺毛を除くと4mm以下である。第1包頴は1/2ほどまで伸びて第2包頴も同じ程度。両者が同じ長さというのも特徴。株元付近にある茎の節から根を下ろす(最大の特徴) フシネキンエノコロ
 ②b 刺毛は黄金色からくすんだ黄土色。花穂の幅は5mm以上。第1包頴は1/2くらい。第2包頴は2/3まで伸びる。小穂全体がほかの仲間より寸詰まりで丸っこい点も特徴 キンエノコロ
 ②c 刺毛は金色。全体に暗い赤紫がかったり、先端部が赤紫に染まっていることもある。第1包頴は1/2ほど。第2包頴も1/2ほど コツブキンエノコロ

これは最近お世話になっている「帰化&外来植物 950種」の記述です。キンエノコロの第1包頴は1/2、第2包頴は2/3、コツブキンエノコロの1/2と1/2と比較すると、キンエノコロの方が今回の植物と似ているようです。ただ、小穂の形がキンエノコロは丸っこく、コツブキンエノコロは縦長で、慣れればこれだけで見分けがつくとのことで、その意味ではコツブキンエノコロの方が似ている感じです。

ただ、「帰化&外来植物 950種」に書かれているように、コツブキンエノコロの花穂の長さが短いと一般に言われているが、多様であてにならない。中間的で悩ましい個体も非常に多いので、結論がすぐに出るとは限らないという言葉が真実味のあるように感じました。イネ科、なかなか難しいです。


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