長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

255.木版画 『オンネウ・老大なるもの』を制作する。

2016-08-01 18:45:51 | 版画

6月の末から先月にかけて梅雨の中、『オンネウ・老大なるもの』と題した大判木版画を集中して制作した。「野生の肖像」という連作の中の1点となっている。

画題としたのはオジロワシというのワシの1種である。オジロワシは英語名はWhite-tailed Eagle、といいユーラシア大陸北部に広く分布する。日本では北海道北部および東部で少数が繁殖する他、冬鳥として渡来する。観察記録は全国からあるが、特に北部日本に多い。その名前のとおり尾羽が白く、翼を開いた長さは2mを越え、オオワシ、イヌワシなどと並び日本を代表する大型のワシである。僕も10年近く前に北海道東部に探鳥旅行にいったおり広い湖沼の上空などを飛ぶ雄大な姿を観察し、感動したものだ。

先住民である北海道アイヌの人々はこの土地に生息する野生鳥類をシマフクロウをコタンコロカムイ、タンチョウ(鶴)をサルルーンカムイ、などと呼んで敬ったことがよく知られている(カムイは神という意味)。そしてこのオジロワシを『オンネウ・老大なるもの』と呼んだ。オジロロワシは年齢を重ねると頭部や肩羽などの羽が、かなり白っぽくなる。この老いて立派なワシが北の大地の厳しい自然の中をじっと佇んでいる姿に神聖なる印象を持ち「老いて偉大なる知恵者」というイメージを重ねたのではないだろうか。アイヌの人たちは自分たちの村の老人たちも敬った。年老いた老人たちは人生の経験も豊かで村の中では知恵ある存在なのである。このあたりの考え方は、ベーリング海峡を渡った同じモンゴロイド(蒙古民族)であるネイティブ・アメリカンのそれと非常に酷似している。

今回の彫りは繊細な鳥類の羽を詳しく表現するため、前作の『コタンコルカムイ』同様、浅く細い線彫りに徹した。トーンが微妙なので途中なんども試し摺りをとってはまた彫るという繰り返しで慎重に制作を進めて行った。60㎝×60㎝という僕の版画作品の中では大きなサイズだが、添付画像を見ていただくとおり、削りカスは僅かな量しか出ない。このことで彫りの慎重さを想像してみてください。

がまん強く制作し続け、ちょうど梅雨明けと共に作品が完成した。実はこの作品には僕の中で「ある特別な想い」があって制作したのだが、今はそれを語らないでおこう。いずれ作品が完成し、個展やグループ展で発表した時に会場で来場者に語ろう。あるいは、しばらく時間がたってからブログやSNSを通じてお話ししていくことにします。画像はトップが版を彫っている最中の「オンネウ」の部分。下が向かって左から同じく彫りの部分、制作に使用した彫刻刀、この版を彫った削りカスの全て、試し刷りの部分(肩羽あたり)。

 

           

 

 

 

 



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1 コメント

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いつもありがとうございます。 (uccello)
2016-08-12 21:25:21
ブロガーのみなさん、いつもマイブログにお立ち寄りいただきありがとうございます。いいね!をいただいた方々、感謝します。

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