紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【桜玉吉】の物語を追う[防衛漫玉日記編]

2011-02-06 01:50:18 | ○○の物語を追う
前回 「しあわせのかたち編」からの続き


「しあわせのかたち」連載終了からほどなくして、桜玉吉先生は「ファミコン通信増刊号『ファミコミ』」にて、
あらたな作品の連載を始めます。
「ファミコミ」は当時のアスキーが発行していた漫画雑誌で、アスキーの漫画部門としては、
他に「アスキーコミック」という月刊誌も発行していました。

アスキーの漫画部門ができたのは、桜玉吉先生の漫画人気がキッカケだったと言われています。
この「ファミコミ」と「アスキーコミック」は、残念ながら現在は休刊していますが、
この両誌を引き継ぐかたちで、のちの「コミックビーム」創刊につながることになります。
つまり、「コミックビーム」の誕生には桜玉吉先生が間接的に関わっていたわけです。
【放浪息子】も【テルマエ・ロマエ】も玉吉先生がいなかったら読めなかったかもなんですよ!?

・・・余談でした。

ともあれ、玉吉先生は「ファミコミ」にて【トル玉の大冒険】という作品を連載することになります。


  トル玉の大冒険

【トル玉の大冒険】は、前作【しあわせのかたち】の後期のエッセイ漫画スタイルを継承した作品です。
【しあわせのかたち】のなかでも、急に濃い顔になって語りにも毒が増えた「しあわせのそねみ」の
スタイルを引き継いでいます。嫌ハガキ何通も送られたのに。



実体験をおもしろおかしく漫画にするスタイルはしあわせのかたちの頃と変わりません。
ただ、しあわせのかたちが日常を淡々を綴っていたのに対して、トル玉は船舶の免許を取りに行ったり、
バイクの免許を取りに行ったりと、自ら進んでネタを拾いに行っているのが印象的です。


  あらたなる仲間たち

トル玉では、玉吉の他にメインキャラクターとなる人物が2人登場します。


まずは、元・A書店の編集者「O村」です。
このキャラクターは、元・秋田書店の編集者で現・コミックビームの編集長を務める「奥村勝彦」が
モデルとなっています。(というか、そのまんま)


しあわせのかたちの頃は、こんなかわいげなキャラだったのに、
トル玉ではパンチパーマの、どうみてもヤクザもん。どうしてこうなった?


ただ、見た目は怖いけど、中身は漫画にとても真摯に向き合う熱血編集者なのでした。



次に、「ヒロポン」。
かつて、しあわせのかたちの頃、玉吉先生の担当編集者だった広瀬という人物がモデルです。


しあわせのかたちに出たばかりの頃はまともな人だったのに・・・


トル玉じゃ、これ。
鼻ちょーちん膨らませて、語尾に毎回変な言葉がつく不気味な青年になってますた。


以上、玉吉先生のエッセイ漫画にこの2人が加わり、トル玉はさらなる展開を見せるのです。



  コミックビーム創刊、【防衛漫玉日記】開始

前述のとおり、「ファミコミ」は休刊となりそれを引き継ぐかたちで「コミックビーム」が創刊されます。
1995年の11月のことでした。

そして、創刊号には【トル玉の冒険】改め、【防衛漫玉日記】を連載する玉吉先生の姿があったのです。



タイトルが変わっただけで、スタイルはトル玉とほとんど同じです。


一話から桜家の台所事情の逼迫っぷりが書かれ、ああ、漫画家って描かないとほんとに収入ないのな
と気付かされます。大変!


で、ヒロポンの提案で似顔絵描きを開業することに。
出店場所はファミコン通信主催の「ゲームの殿堂」という武道館でのイベントに決定します。


ゲームのイベントということで、ゲームキャラの絵を描きます!という作戦をとることにした玉吉。
「拳」の字を間違えるという凡ミスに、この場で墨を飲んで死にたい気持ちになったりします。


でも、結局ヒロポンのチョンボで稼いだ金が全部寄付扱いになるというオチ!


と、こんな感じで防衛漫玉日記は進んでいきます。
コミックビームを引っぱって行くべく、桜玉吉がガチンコで身体を張るのです。


  【余談】本当に苦しかったコミックビーム





今でこそ、【放浪息子】や【いばらの王】など、コミックビーム連載の作品が着々と映像化されており、
それなりに知名度のある漫画雑誌となっているコミックビームですが、創刊当初は本当にやばかったようです。

【防衛漫玉日記】では、ビームの初代編集長・金田一氏が街中でビームをわざとらしく読んでアピールしたり、
雪道で車が故障して立ち往生した際、ためらった末にビームをたき火の火種にしたりと自虐的なビーム描写が
目立ちます。


この後、桜玉吉先生によりファミ通に自虐的なコミックビーム宣伝の4コマ漫画が
ちょいちょい掲載されるようになりました。

でも、みんなが読んでくれたおかげで、昨年、コミックビームは創刊15周年を迎えることが出来ました。
本当によかったね、コミックビーム!


  防衛漫玉日記ダイジェスト

さて、【防衛漫玉日記】で桜玉吉先生が身体を張って集めたネタの数々をダイジェストで紹介したいと思います。
これが、エッセイ漫画に命をかける男たちの姿だ


バンジージャンプは死の一歩前を体験できる投身自殺のシミュレーションであり、
その臨死体験は自分のその後の人生に何らかの変革をもたらすのでは?
ということで、バンジーに挑戦する玉吉(と、それに巻き込まれるヒロポン・O村)


いろいろあったのち、バンジー!


でも、その後の人生何も変わらず。
まぁ、そうでしょうよ。



漫画家生活十年目を迎えるということで、一度漫画家の初心に立ち戻るため、
代々木アニメーション学院コミック科に入学する玉吉(と、それに巻き込まれるヒロポン・O村)


3人はそれぞれ学院に生徒として潜入!


自分より遥かに若い同級生たちに複雑な思いの玉吉。
このあと、生徒ひとりひとりの自己紹介でO村、ヒロポン、玉吉のおもしろ自己紹介が続く。


そして、生徒たちの前で実は漫画家の桜玉吉だよーん、とドッキリ成功と意気込むも・・・


同級生見事にノーリアクション。
まぁ、ねぇ・・・。


  突然の鬱、連載終了へ



ある回で、急に力のない墨絵になる防衛漫玉日記。
どうした、玉吉・・・?

なにやら事情によりやる気がなくなったらしいけど、その事情を語る気力もないとか。
この回以降、それまでのハイテンション・ガチンコのノリは身をひそめ、
どことなく無気力感の目立つ作品展開となります。
明らかに、桜玉吉先生の精神状況が変わっているのです。
そして、ついに・・・



突然の連載終了でした。
トル玉もふくめ、二年半続けてきたこのスタイルでの桜玉吉作品はこれにて終了します。


防衛漫玉日記単行本に描き下ろされたあとがき漫画に、防衛終了後の玉吉の近況が記されます。


生活をかけた麻雀・・・


読者女性からの心中のお誘い・・・


きつめのブレインウォッシュ・・・


「防衛漫玉日記」はこれにて終了しましたが、桜玉吉の物語はまだ終わりではありません。
以降、「幽玄漫玉日記」「御緩漫玉日記」と、その作風を少しずつ変えながら進んでいきます。

 次回、幽玄漫玉日記編へ続きます。

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2 コメント

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Unknown (taka)
2011-02-13 04:30:41
分かりやすくまとまっていて面白かったです。
あんまり玉吉さんの作品ってネット上で
イジられてない気がするので新鮮でした。

こうやって昔の桜玉吉作品を見ると
毒はありながらも基本は明るくポップで、
それでいて精妙なネームが冴えていて
本当に「作りこまれてる」感じがしますね。

そしてここから幽玄の後半を経て、
御緩に至る流れを思うと今からちょっと
気が重いですが……次回更新を楽しみにしています。
Unknown (紫)
2011-02-13 22:33:16
>takaさん

昔の玉吉作品はホントに作り込まれてる感ありましたね。
新しいのになればなるほど、直感で描いてる感じになってきてるような。
どちらが良い悪いというものでもないですが。

幽玄後半からはホントにどうまとめたものかと
今からウツウツしちゃいます。
御緩はどこまで虚構でどれが真実なのか・・・

やれるとこまでがむばってみます。

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