京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

卯月八日は天道花で五穀豊穣

2020-05-08 06:27:44 | 歳時記・文化・芸術
タイトルの「卯月八日」とは、今風に言えば4月8日のことです。この4月8日と聞けば、思い浮かぶのはお釈迦様の生誕を祝う「花祭り」かもしれませんね。でも、仏教の広がりとともにこの「花祭り」と習合した、日本古来から農村を中心にこの時期に行われる山の神(農耕の神)を導く民間信仰行事や習俗のことを指して「卯月八日」とも言います。そして、この京都にもその風習が残っており、それが「天道花(てんどうばな)」です。

私も以前は知らなかったのですが、数年前に当倶楽部の会員の方からこの行事のことを初めて聞きました。そして、ちょうどタイミングよく「自作の天道花です」と、天道花のことを教えていただいた会員の方から数日前に写真をいただき、ブログでの写真使用の許可も得られましたので、ちょっと紹介したいと思います。


(当倶楽部会員が作った天道花)


この天道花は、京都を含む近畿地方から西の地方を中心に行われている風習で、細長い竹の竿の先にシャクナゲやツツジ、ヤマブキ、フジ、ウツギといった季節の花を挿して門や家屋の上に立てて飾られます。本来は陰暦4月8日ですが、現在は月遅れの5月8日に行われることが多いようです。京都では天道花と呼びますが、大阪では立花、兵庫では高花、奈良では八日花とも呼ばれるようですね。

いただいた写真の天道花は、庭で咲いている赤花のツツジ、紅白のシラン、黄花と白花のモッコウバラ、ユリオプスデージーで花束を作って竿の先端にくくりつけ、十字になるようシキミの束も2つくくりつけたとのこと。


(天道花を掲げてみました)


この天道花の話を初めて聞いて私の頭に思い浮かんだのが、先日紹介しました「やすらい祭」の花傘です。やすらい祭は「疫病退散」の祭事ですが、天道花はお釈迦様に供える花であるとともに「五穀豊穣」や「虫送り」も祈願した祭事です。この写真の天道花は新型コロナウイルス退散も込めて作成したとのことなので、現代版の「虫送り」とも言える「ウイルス送り」も期待できるでしょうか。

それと、この「やすらい祭」だけでなく「天道」という言葉から「太陽の道」も連想しました。太陽を農耕の神として豊作を祈願するのであれば、神道であれば天照大神、本地垂迹を考慮すれば仏教では釈迦如来(お釈迦様)ではなく大日如来で、縁日は毎月28日だから陰暦4月28日ではないのかなと、ふと頭に浮かんだのでした。

また天道花と農耕の神様との関係から「桜」の語源も思い浮かんだのでした。桜の語源のひとつに、桜の「さ」が農耕の神(山の神)を指し、そして「くら」が高御座であるとして、苗代作りや代掻きなど田植えにまつわる作業が滞りなく行われるよう農耕の神が見守るために座る木だから「さくら」と呼ばれるようになったという説があります。

京都市内でも昔はまちなかでこの天道花を飾る風習が残っていたそうですが、現在は山間部やその周辺だけでひっそりと行われている年中行事になってしまったようです。ただし京都市内でも1か所だけ今でも神事として毎年この天道花を飾る神社があります。それが仏光寺通猪熊西入にある天道神社で、5月17日に行われる「天道花神事」です。


(天道神社)


天道神社は、もとは長岡京に祀られていた天道宮を桓武天皇が平安京遷都に際して三条坊院東洞院(現在の東洞院御池付近)に勧進した神社で、安土桃山時代にこの地に遷宮されたと伝わります。

当日は鳥居横の境内で竹竿の先に飾られた「天道花」を高々と掲げ、神事には氏子や関係者だけでも一般の参拝者も参列でき、本殿前で行われます。


(天道神社本殿)


この「天道花神事」が天道神社ではどうして5月8日ではなく5月17日に行われるのかについては、神社の関係者に詳しくお聞きしたわけではないので推測ですが、天道神社の境内には明治天皇の皇后である昭憲皇太后(一条美子)の御胞衣が埋められた埋納塚があり、昭憲皇太后が陰暦4月17日の生まれで、この日に行われる「御胞衣塚神事」に合わせて「天道花神事」も行われるようになったのではないでしょうか。

さて、今年は天道神社で「天道花神事」が行われるのかどうかわかりませんが、一度見てみたいと思いますし、来年以降に天道花を自分で作ってみようかなとも思います。


追記:2020年5月15日の和田浦海岸様の投稿記事「星に花を供える儀式。」で、当記事の「天道花」のことを取り上げていただきました。

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