ちいさなさえずり

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野鳥方言名サシバ、ノスリ、クマタカ、ハチクマ

2016-05-31 17:25:16 | さえずり民俗学

 

                                  サシバ    (2016.04.24)

 

 サシバ、ノスリ、クマタカ、ハチクマの4種のタカをまとめて“たか”と呼んでいました。4種とも旧高柳町で観察されていましたが、クマタカは近年全く見られなくなりました。タカ科の鳥は旧高柳町全域で次回予定のトビを含め全部で12種記録されていますが、そのうち“たか”と呼ばれていたこの4種が特に馴染みがあったものと思います。現在は標準和名が浸透しているため、旧高柳町ではサシバ、ノスリ、クマタカの3種を標準和名で言っている人が多かったです。しかし、ハチクマという標準和名は知らない人が多かったです。

 “たか”は固有の方言名か、一般的な呼称として使用しているのかについて地元の方に聞きましたが特に使い分けはしていませんでした。これらの鳥を表す他の呼称を使用していなかったこともありましたので、ここでは方言名として扱うこととします。

 サシバは、夏鳥として子育てのために南からやってきます。サシバは水田やその周辺に生息しているトカゲやカエルを好んで食べる鳥です。旧高柳町の人は農作業しながら上空を舞うサシバを見て初夏を感じていました。農作業をしていた7~80代の男性に聞いたところ、春先の雪のある頃にやってきて、春から初夏にかけて子育てをするといったサシバの生態をよく知っていました。田圃の畔がしっかりと草刈りをしてあると、トカゲやカエルの動きが掴め、それらを捕獲するのが容易になることから、このサシバも人に頼って生きています。餌を探して、田圃に立っている電柱に止まっているサシバを見ることも多いです。旧高柳町の人は単に“たか“という方言名だけでなく、標準和名のサシバもよく知っていました。

 新潟県的には、”はやぶさ”・”へびくいどり“の方言名をサシバが持っていました。ヘビといっても小さなヘビですが、ヘビ、カエル、トカゲなどが好きなサシバを”へびくいどり“としていることは、この鳥の生態を良く観察していると思いました。サシバを“たか“と呼ぶのは、新潟県以外でも、青森県、栃木県、山梨県、岐阜県があります。

 ノスリは、その姿を見ることは少ないです。ノスリは黒姫山系では年間を通して生息していますが、春から夏にかけての繁殖期間は少し高い標高の林で子育てをしていました。また、冬期は一面雪に被われた黒姫山の東側の河岸段丘下を流れる鯖石川沿いにある林の樹頂に止まり、何時間も獲物を狙っている姿を見ました。

 ノスリを“ばかたか”と呼ぶ人もいましたが、岩手県、青森県、千葉県、埼玉県、伊豆大島、山梨県、大分県、宮崎県、熊本県などでは”たか“と呼ばれていました。

 ノスリは、”くそとんび“、”しょうべんだか“、”まぐそだか“、その他の方言名が新潟県にありました。いわゆる聞こえのいい名称がついていませんでした。新潟県は豪雪地として知られています。雪のない季節や、雪の少ない地方においては、電柱上で獲物を狙っているこのノスリを多く見ることができます。電柱のない時代や環境にあっては、田圃にある山積みされた堆肥や藁屑の上で獲物を狙っていたことからのネーミングかもしれません。またノスリは”くそとんび“(青森県)、”まぐそたか“(長野県)もあります。”ふんどり“(岩手県)や”くそたか“(大阪府)、その他これに類した方言名が多数『日本鳥類大図鑑Ⅱ』に収録されています。農耕が生活の中心であった時代より、この鳥に人が持つイメージは同じであったと考えられます。

 クマタカはより大形で数も少ない鳥ですが、かつては集落周辺にあるスギ林に巣があったこともあったそうです。非常に稀な鳥ではですが、生息していることを地元の人々は知っていました。

 クマタカはタカ科の中でタカという名の付くタカでは最大の鳥であり”おおたか“という方言名が新潟県にありました。その意味は分かりますが、標準和名オオタカは別の種類です。また、方言名新潟県の”うまくそたか“と同意と思える”うまぐそだか“が徳島県に、”うまのくそたか“が福岡県、長崎県に、”うまぐそどり“が広島県に、”まぐそたか“が山口県、茨城県、群馬県、千葉県、島根県、岡山県などに、”うまぐそたか“が栃木県、広島県、香川県などに、”まぐっそたか“が埼玉県に、”まぐそだか“が長野県にそれぞれありました。長野県は、ノスリも”まぐそたか“と言っています。ノスリは、鷹狩りにも使えないタカということで、蔑視されたことも考えられるますが、クマタカは秋田県では鷹狩りにも使われていた精悍なタカです。同県では、”馬糞鷹“の方言名を持ち、「愚鈍で兎より外何も取れぬ」としています。ノスリが鷹狩りに使えないのと同様、他の獲物を取れないクマタカのことを蔑視していたとも考えられます。

 ハチクマも夏鳥です。数の少ないこともあり低い認知度でした。地バチを主に食べる一般的には馴染みのないタカの1種です。春先の未だ雪が沢山残る頃黒暇山の上空を縦1列になって渡っていた7羽のハチクマを見たことがあります。サシバとクマタカの中間の大きさのタカで、形はどう見てもタカです。そのため数は少ないものの“たか”と呼んだと思います。これはタカの形のした鳥総てを一般的な呼び名である“たか”を使っていた可能性が高いです。  

 

・ 石黒の暮らし編集会編 大橋寿一郎他著 2004 『ブナの里の歳時記 石黒の昔の暮らし』 石黒の暮らし編集会

・ 清棲幸保 1952『日本鳥類大図鑑Ⅱ』 ㈱大日本雄弁会講談社

・   小林京平編発 2007 『かどでことば』

・ 関口史郎編発 2011 『新潟県の天産物方言(新潟県の方言名 捕逸・改訂)』

 

・   武藤鉄城「鳥・木の民俗」(昭和初期の作品(1984)) 1993 『日本民俗文化資料集成 第12巻 鳥・木の民俗、他』 ㈱三一書房

 

 


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