く~にゃん雑記帳

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<ラスコー洞窟壁画> 「入り口側は〝生〟を謳歌、奥の壁画は〝死〟を意識」

2013年10月21日 | 美術

【木津川市文化協会の講演で、東京芸大の五十嵐ジャンヌさん】

 京都府の木津川市中央交流会館(いずみホール)で20日、「ラスコーの洞窟壁画の世界」と題した講演会(同市文化協会主催)が開かれた。ラスコーはフランス南部にある旧石器時代後期の洞窟壁画。生き生きとした動物表現で知られる。講師の五十嵐ジャンヌさん(東京芸術大学大学院美術研究科リサーチセンター非常勤講師)は「洞窟の入り口側には〝生〟を謳歌する躍動感あふれた壁画が多い。だが、奥に向かって〝死〟を意識させる画像が増えてくる。この洞窟壁画は『生と死』をテーマに描かれたのではないか」と指摘した。

 

 五十嵐さんは1992年東京芸大美術学部を卒業後、大阪大学大学院を経て、2003年、フランス国立自然史博物館で先史学の博士号を取得した。両親はともに日本人だが、2人とも大のフランス好きなことから「ジャンヌ」と名づけられたそうだ。ヨーロッパには旧石器時代の洞窟壁画がフランスとスペインを中心に300カ所もあるという。五十嵐さんはそのうち最大のルフィニャック洞窟やラスコー洞窟も含め50カ所以上に入って調査してきた。

 ラスコーの洞窟は約70年前の1940年、近くで遊んでいた少年たちによって発見された。内部は人の手足のように約250mにわたって伸び、側壁や天井に600に上るともいわれる馬や牛、鹿などの壁画が描かれている。氷河期の1万7000~1万5000年ぐらい前にクロマニヨン人によって描かれたという。五十嵐さんはそれらの色鮮やかな壁画を、スライドを使いながら紹介した。

 

 洞窟内は大きく分けて7つの空間に分かれる。入り口に近い「ウシの部屋」や「軸状奥洞」には巨大な牛や駆ける馬が写実的に描かれている。いずれも顔料の濃淡によって立体感豊か。線刻や筆で輪郭線を描いたりワタ状のものでポンポンたたいたり、技法も様々という。ラスコーの壁画は黒や赤、茶、黄、紫などカラフルな色彩も特徴の1つ。中には黒の材料、酸化マンガンのように、近くで取れないため遠方から運んだと推測されるものもあるという。

 中ほどの「井の部屋」から奥の「身廊」「ネコ科の動物の奥洞」にかけては、矢に当たった馬やバイソン、ヤリが突き刺さったネコ科の動物、倒れた人たちなどが多く描かれている(上の写真)。「井の部屋」からは小動物の骨が多数見つかり、「身廊」からは石製のランプが26個も出土した。「地面にランプを並べ、明るくして描いたのではないだろうか」。

 壁画を描いた理由については①呪術説②余暇を利用した「芸術のための芸術」説③トーテミズム④シャーマニズム⑤生態システム反映説――などがあるという。生態システムは比較的新しい説で、描かれた動物の組み合わせから自然の生態系をそのまま描いたというもの。このほか狩猟の成功を願ったという説や狩猟対象の動物の繁殖を願って描いたといった説もあるそうだ。

 五十嵐さんは洞窟壁画全体の配置や表現方法などから「生と死」をテーマに描かれたとみる。「前半の躍動感にあふれた画像が、奥に行くにしたがって死を連想させる。この洞窟壁画は〝生〟とともに、やがて訪れる〝死〟への意識を共有するために描かれたのではないか。(これらの壁画を前に)儀式を行うことで、若い世代に死について教えたかもしれない」。

  (白いシミに覆われた壁画)

 世界遺産にもなっているラスコーの洞窟壁画はかつて押し寄せた観光客が吐く二酸化炭素とずさんな保存管理によって状態が悪化、ユネスコは2009年、このままでは危機遺産リストに登録されかねないとの警告を発した。現在は非公開だが、五十嵐さんは1日5人という人数制限が行われていた1994年に運よく見ることができたという。「今はいい結果になってほしいと願うばかりです」。


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