北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】米コロンビア級戦略ミサイル原潜建造開始と仏原潜シュフランミサイル実験

2020-12-21 20:00:32 | インポート
■週報:世界の防衛,最新10論点
 今回は潜水艦特集、各国の潜水艦に関する最新事情等の10の話題を纏めてみました。

 ウィスコンシンが復活します、アイオワ級戦艦ウィスコンシンの名が建造中のコロンビア級戦略ミサイル原潜2番艦の艦名として継承される事となりました。コロンビア級戦略ミサイル原潜は現在アメリカの核抑止力第二撃を主管する戦略ミサイル原潜ですが一番艦オハイオ竣工は1981年、老朽化が進むと共に一部は巡航ミサイル原潜に改装されています。

 コロンビア級戦略ミサイル原潜は水中排水量20800tとなっており、これは前型のオハイオ級戦略ミサイル原潜の18700tを上回るアメリカ海軍史上最大の潜水艦となっています。他方搭載するトライデントミサイルは16基となっていまして、オハイオ級の24基よりも大きく縮小されたものとなりました。これは冷戦後の戦略核兵器を巡る変容を受けたもの。

 オハイオ級戦略ミサイル原潜の竣工した時代と比し、戦略ミサイル原潜の長期警戒任務頻度は低下しており、一時はヴァージニア級攻撃型原潜に数基の発射区画を挿入する案も検討されました。16基とはオハイオ級以前の潜水艦発射弾道弾SLBM搭載数となっています。オハイオ級は18隻が建造されましたがコロンビア級は12隻の建造が計画されています。
■コロンビア級一隻47億ドル
 コロンビア級戦略ミサイル原潜は護衛艦ひゅうが満載排水量よりも大きいのですが建造費も自衛隊潜水艦の八倍だ。

 ジェネラルダイナミクス社は11月7日、アメリカ海軍が導入するコロンビア級戦略ミサイル原潜2隻の建造費として95億ドルに上る契約を獲得しました。対象となるのは一番艦のコロンビアおよび二番艦のウィスコンシンで、アメリカ海軍は最終的に12隻を導入予定です。一隻当たり47億ドル、ニミッツ級原子力空母の50億ドルに匹敵する巨費という。

 コロンビア級戦略ミサイル原潜2隻の建造費が95億ドルに上る背景にはSSD推進方式として耐圧船殻外に電動ポンプジェット推進装置を直付するシャフトレスドライブを採用し、原子炉からの減速機振動を外部に伝達させない徹底した静粛構造やラジアルギャップ型永久磁石同期モーター等、画期的な新技術の採用を検討する為の建造費高騰と考えられます。

 アメリカ海軍ではコロンビア級戦略ミサイル原潜を目下最重要の建造計画と位置づけており、当面は2026年まで毎年1隻のコロンビア級戦略ミサイル原潜を建造するといい、一番艦を2030年と見込んでいます。建造はジェネラルダイナミクス社の協力企業であるエレクトリックボート社がロードアイランド州クオンセットポイントにおいて進めるとの事です。
■英戦略ミサイル原潜コロナ蔓延
 日本では自衛隊がCOVID-19感染対策にかなり苦慮しているのですがイギリスは大変な事になっているもよう。

 アメリカに寄港したイギリス海軍戦略ミサイル原潜ヴィジラント艦内において新型コロナウィルスCOVID-19感染者が発生したとの事、ヴィジラントはヴァンガード級戦略ミサイル原潜の三番艦でイギリス海軍に4隻しかない戦略ミサイル原潜の一隻であり空軍が核戦力を廃止したイギリスにおいて、戦略ミサイル原潜は、唯一の核抑止力となっています。

 ヴィジラントでの感染拡大、これは10月14日にアメリカ当局が海軍ニュースにて発表しました。ヴィジラントが入港したのはジョージア州キングストンベイ海軍基地、ただ乗員の一部が上陸中に400km離れたフロリダ州のココアビーチを訪問しており、フロリダ州はアメリカ国内でもCOVID-19感染爆発による被害が大きく、ここで感染の可能性がある。

 イギリス核抑止力への影響が懸念されますが、イギリス国防省報道官は海軍のミサイル原潜即応体制は公表しない事としていると述べたのみ。密閉空間の最たる潜水艦、ヴィジラント艦内での患者は30名を越えるとのこと。ヴァンガード級戦略ミサイル原潜の乗員数は135名であり、発症患者が30名を越えるのであれば罹患者は更に多い懸念があります。
■火災の仏原潜ペルル,修理へ
 先日アメリカ強襲揚陸艦ボノムリシャールが火災から修理を断念し廃艦が決定した一報が在りましたがフランスの潜水艦は修理される。

 フランス海軍は6月にツーロン軍港造船所での長期修理中の大規模火災により外殻が溶け落ち、ほぼ全損に等しい損害を受けた原子力潜水艦ペルルの修理を11月にも開始するとのこと。リュビ級原潜はフランス海軍がドゴール政権時代に原子力潜水艦は核抑止力整備優先を念頭に戦略ミサイル原潜の建造を重点特化したため、貴重な攻撃型原潜でもある。

 ペルルは鎮火まで14時間燃え続けた事で船体前部が隔壁ごと骨組みだけが残る深刻な損害を受けている、フランスのパルリ国防相はこの修理について、船体前部は金属材質が熱により変質し修理不能だが、原子炉を含む機関部と船体後部については損傷が及んでいないとし、2019年に除籍された同型艦サフィールの船体前部を接合し修理する方針を示した。

 リュビ級は水中排水量2670tと原子力潜水艦では非常に小型で、魚雷と比較的射程の短いエクゾセ対艦ミサイルを搭載する。ペルルの修理は2023年6月までに修理を完了するとのことで、先ず修理の第一段階としてペルルの焼失区画切り離し工事が実施、これには六か月間を要する見込み。ただ、ペルルの竣工は1993年、修理完了時に艦齢30年を迎える。
■シュフラン,巡航ミサイル試験
 フランスの攻撃型ミサイル原潜が巡航ミサイルの運用能力を付与され打撃力を強化するもよう。

 フランス海軍の最新型原子力潜水艦シュフランは公試において初の巡航ミサイル発射試験に成功したとのこと。発射実験は10月21日に実施され、ストームシャドウ巡航ミサイルが発射された。ストームシャドウはフランスが空対地巡航ミサイルとして開発したもので、派生型に、水上戦闘艦発射型と潜水艦発射型の魚雷発射管用と垂直発射型があります。

 シュフランはシュフラン級攻撃型原潜の一番艦で2021年竣工に向けて公試が進められており、F21魚雷等も搭載、前型のリュビ級攻撃型原潜が建造費を抑える為に2670tと長期航海に対応できない小型過ぎる船体を採用していたのにたいし、シュフラン級は水中排水量5300t、年間270日間の作戦航海が可能です。2030年代までに同型艦6隻が建造される。

 ストームシャドウ巡航ミサイルは英仏共同開発、スタンドオフミサイルとして開発され、射程は250km以上、空軍用のミサイルはステルス性を意識した形状を採用していますが、海軍型は魚雷発射管からの運用を想定し胴体が円形状となっており、垂直発射型については2018年にシリア内戦介入に際し駆逐艦アキテーヌより発射、実戦経験があります。
■エジプト向け209型建造進む
 209型潜水艦は海上自衛隊の潜水艦の三分の一程度の大きさの潜水艦ですが、沿岸防備には使いやすい潜水艦という事で定評があります。

 ドイツのティッセンクルップシステムズ社はエジプトより受注した209型潜水艦四番艦S-44の建造が現在の新型コロナ禍下でも順調に進んでいると発表しました。209型潜水艦は輸出用潜水艦の傑作潜水艦として知られ、2011年に最初の2隻を受注して以来、2015年に追加の2隻を受注しており、四番艦は9月29日に進水式と命名式を迎えています。

 S-44は209型Mod1400という209型では大型版であり、全長62m、吃水6.2m、水中排水量は1600tで乗員は30名です。三番艦S-43は2020年4月に引き渡しを完了しています。ティッセンクルップシステムズ社は潜水艦の他に海洋防衛産業の大手であり6000名規模の雇用を担っており、コロナ禍下でも順調な艦船建造を強調する意義はあるのでしょう。
■インド向けスコルペヌ級
 スコルペヌ級は自衛隊の潜水艦の半分強程度の潜水艦ですが、自衛隊の潜水艦は紹介範囲が広すぎる為に原潜のような行動範囲を求められている為の苦肉の策といえるのやも。

 インド海軍はフランスのスコルペヌ級潜水艦ライセンス生産型カルヴァリ級潜水艦5番艦の進水式を11月12日に実施したとのこと。スコルペヌ級潜水艦ライセンス生産は2005年に仏印政府間で6隻のライセンス生産を37億5000万ドルで契約したものであり、新しい潜水艦の艦名はヴァギル、インド東部のマサゴン造船所にて建造されているものです。

 スコルペヌ級潜水艦はフランスのDCNS社とスペインのナバンティア社が共同開発した輸出用潜水艦で各国需要に併せ水中排水量1070tの沿岸型から基本型の1668tと強化型の1800tまでを選択肢としており、3800hpのディーゼル機関を搭載したディーゼルエレクトリック方式潜水艦ですが要望に応じAIP機関を搭載しAIP潜水艦とすることも可能です。
■ミャンマーが中古潜水艦
 インドが新型潜水艦の整備を進める中で中古潜水艦がミャンマーに輸出されるもよう。

 ミャンマー海軍はこのほど海軍史上初の潜水艦取得に乗り出しました、導入を計画するのはロシア製キロ級潜水艦のインド海軍運用艦シンドゥビルで、1988年にロシアから導入したものです。ミャンマー海軍ではシンドゥビルを練習潜水艦とし、将来の新造潜水艦導入へ基盤固めとしたい指針でミャンマー海軍のライン上将は10月にインドを訪問しました。

 シンドゥビルはインド海軍が導入したキロ級潜水艦としては初期のもので、導入当時は北大西洋や北太平洋を任務区域に想定したキロ級は暑いインド洋にてバッテリー消耗に悩まされましたが解決しています。シンドゥビルは現時点インド国内のヒンドスタン造船所にて近代化改修を実施中であり、この改修が完了後にミャンマーへ引き渡されるのでしょう。
■フィリピン初の潜水艦構想
 自衛隊が除籍させた潜水艦はるしお型や潜水艦ゆうしお型などpは考えれば勿体ない事をしたと思う事もあります。

 フィリピン海軍は潜水艦の導入を計画しておりこの程フランスのナーバルが潜水艦国際競争受注に向け11月18日、マニラへ現地事務所を開設しました。フィリピンの潜水艦建造は2019年に同国のドゥテルテ大統領が海軍近代化計画の一環として提示されており、2023年から2027年までの間に2隻を導入する構想ですが、予算面の課題が大きいという。

 潜水艦導入以前にフィリピンには米沿岸警備隊中古巡視船や第二次大戦中の護衛駆逐艦、イギリス香港駐留時代警備艇等、まともな水上戦闘艦が無いものの、フィリピン政府は潜水艦を自国内で建造し整備する事を希望しており、潜水艦技術よりも第三国に潜水艦建造技術を養成する事に長けたナーバル社はこの分野であっても支援できると自負しています。

 フィリピン海軍が潜水艦建造を進める背景には、冷戦時代に駐留米軍により絶対的な安全を確保していたフィリピンが1992年に駐留米軍を全て国外に退去させた結果、中国の軍事圧力に曝される事となり、海軍のきづかないままに複数の島嶼を占拠されていた事に起因します。もっとも造船業も乏しいフィリピン産業力では大きな冒険と云わざるを得ません。
■北朝鮮,ミサイル潜水艦増強
 北朝鮮のミサイル潜水艦対策に海上自衛隊も今後は何らかの措置が求められるかもしれませんね。

 北朝鮮が新たに弾道ミサイル搭載潜水艦2隻を建造している、韓国国家情報院が11月3日に発表した。北朝鮮は10月の軍事パレードで新型SLBM北極星4を初公開しており、近くこの北極星4を搭載可能な潜水艦を建造すると分析しているもので、1隻は旧ソ連製ロメオ級潜水艦改良型、そして、もう1隻は大型の新型潜水艦である、と分析している。

 北朝鮮に第一線級の潜水艦国産能力は無い。しかしながら北朝鮮は核開発を進めると共にその運搬手段の生存を近年重視しており、米ロや英仏中の戦略ミサイル原潜のような機動運用ではなく、自国領海内の機雷原と防空ミサイルに守られたミサイル潜水艦の聖域を構築し、水中ミサイル発射プラットフォームとして用いる運用を想定していると考えられる。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【日曜特集】航空自衛隊60周... | トップ | 【防衛情報】フランス原子力... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (北京亭すぶた)
2020-12-22 00:14:11
フィリピンって世界第5位の造船受注あるそうなので、それなりの造船基盤はあるのかなと思ってましたが、主要な造船会社は外資系(常石とか韓進とか)でしたね。潜水艦自給への道程はけっこう長くなりそうですな。フリゲートとか安定して建造する方が先決にも思えます。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

インポート」カテゴリの最新記事