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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/28(火)横山幸雄/3大ピアノ協奏曲の夕べ/冷静に、技巧的に、そして華々しく

2012年03月02日 23時57分14秒 | クラシックコンサート
横山幸雄デビュー20周年記念公演 3大ピアノ協奏曲の夕べ

2012年2月28日(火)19:00~ サントリーホール・大ホール B席 2階 LA1列 15番 4,900円(会員割引)
ピアノ: 横山幸雄
指揮: 小泉和裕
管弦楽: 東京都交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
ラヴェル: ピアノ協奏曲 ト長調
ラフマニノフ: ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30
《アンコール》
 横山幸雄: バッハ=グノーの「アヴェ・マリア」の主題による即興

 横山幸雄さんは、実に「華」のあるピアニストである。颯爽としていて、しなやかで、とにかく上手い。今日のコンサートは、彼のデビュー20周年記念公演シリーズのひとつで「3大ピアノ協奏曲の夕べ」と題して、チャイコフスキーの1番、ラヴェルのト長調、ラフマニノフの3番という構成だ。オーケストラは小泉和裕さんの指揮する東京都交響楽団。コンサートマスターはもちろん矢部達哉さんである。
 ショパンのピアノ・ソロ曲全曲演奏会を暗譜で行うなど、話題の多い横山さんだが、40歳を過ぎて、今一番輝いている時。驚異的な記憶力と超絶的な技巧、強引なくらいの推進力とその中に垣間見えるさりげないロマンディシズム…。とにかく素晴らしい。会場は後援会の方々、ファンの方々を始めとして、いつものクラシックのコンサートと比べても圧倒的に女性が多く華やいでいる。若い女性から、かつては若かった女性まで、幅広い年齢層にファンがいっぱいいらっしゃるようで、今日のサントリーホールはよく入っていた。
 今日の席はいつもと違って、2階のLA1列、ちょうど第2ヴァイオリンの後方から見下ろす位置なので、鍵盤に踊る横山さんの指先と、指揮の小泉さんと、コンサートマスターの矢部さんが一緒に見える。ピアノと弦楽が右から、木管が真ん中に、金管と打楽器が左から聞こえるので、音楽的なバランスはヘンな感じだが(B席だからしょうがない)、ステージ間近なので各楽器の音そのものは残響音抜きで生々しく聞こえていた。

 1曲目、いきなりチャイコフスキー。第1楽章からかなり速めのテンポで、グイグイと引っ張っていくようなピアノである。もとより今日は横山さんが主役のコンサートだから、テンポ設定などはすべて横山さんの考えだろう。チャイコフスキーの抒情的な旋律の美しさに浸っている時間を惜しむがごとく、圧倒的な推進力で引っ張っていく。横山さんのピアノは、抜群のリズム感、重音・和音のバランス感、旋律の浮かび上がらせ方など、実に明快で、ためらいもなく、自信に満ちた演奏である。打鍵が早くキレの良い音色が明瞭に響き渡り、超絶技巧の音の奔流の中からも、主旋律を鮮やかに描き出してくる。それを快速電車に乗っているようなスピード感で演奏するのである。
 第2楽章も通常よりは速めのテンポ設定。余計な感傷に浸ることはせず、ある意味、醒めた演奏のようにも思えるが、よく耳を澄まして聴くと、微妙なニュアンスとテンポの揺れがある。ここがさりげないロマンティシズムといえる部分だ。ロマンティックな旋律を抒情的に弾くのは照れくさい。男は強くなくてはいけない、といわんばかりのスタンスかもしれない。
 第3楽章はさらに速めのテンポで、キレ味の鋭い、怒濤の推進力で、一気呵成に盛り上げてフィニッシュまで突っ走った。今まで聴いた中で、一番早い演奏だったのではないだろうか。「そんなに急いで何処へ行く…」という感がしないでもないが、曲全体はよくまとまっていて、異論を挟む余地がないと思えるほど。感傷的なロマン派の音楽も、個人的な思い入れや過度な装飾を削ぎ落としたような今日の演奏で、曲の持つ別の面(あるいは本質)が描き出されていたように思う。

 2曲目はラヴェル。この曲は、つい先日(2012年2月17日)、南西ドイツ放送交響楽団バーデン=バーデン&フライブルクと萩原麻未さんの演奏で聴いたばかりだ。やはり予想していた通り、横山さんのピアノの方が一枚も二枚も上手(うわて)のように思えた。
 第1楽章キラキラと輝くような分散和音が明瞭に響き、オーケストラに溶け込まずに、独立した主張をしているように聞こえた(席の違いもあるかもしれないが)。そして縦横無尽に跳ね回る指先にも見とれつつ、明快で、躍動的で、ちょっと諧謔的なピアノが、目が覚めるような色彩感と輝きである。
 第2楽章の長い独奏の部分も、速めのテンポで、意外に思えるほど大きな音で弾いていた。それでもppのように繊細な印象に聞こえるのはさすがである。おそらく、2階の一番奥のRD・LDブロックの最後列まで、この音はハッキリと届いていたに違いない。このあたりの音楽作りも見事なものである。
 第3楽章は、もうひたすら楽しく、突っ走るだけ。良い意味での協奏曲。ピアノとオーケストラが溶け込まず、互いの役割と主調がぶつかっていくが、ガチンコ勝負のような対立軸に置かれているわけではなく、互いに刺激し合って、より高みを目指していく、といったイメージだろうか。

 後半はラフマニノフの3番。3番、というところがちょっとひねっていてなかなか良い。この曲もロマンティックな情緒に溢れる名曲ではあるが、人気の第2番に比べると通好みである。
 第1楽章の主題を、横山さんはこれもまた早いテンポで、虚飾なく淡々と弾いて行く。小泉さんの率いる都響もハギレの良いリズムを刻み、両者とも、あえて感情を押し殺したような演奏のようにも聞こえるのだが…。これは、曲想があまりにも感傷的な甘美な旋律に彩られているために、あえて冷静に演奏することで、曲の本質を描き出そうとするアプローチのようだ。中間部(展開部)のカデンツァは華麗な技巧のオンパレードとなるが、横山さんのピアノはあくまで冷静に、完璧さを目指すように音の山を構築していく。
 第2楽章の緩徐楽章は不思議な曲想だ。オーケストラによる主題部分はロシア的なエキゾチックなイメージもあり、ピアノが入ってくるとまたまた感傷的な美しい旋律が続いていく。横山さんは、淡々とした中にも時折煌めくようなロマンティシズムを感じさせ、(悪い意味ではなく)映画音楽のように、涙をそそるほど美しい。
 第3楽章は、一転して元気闊達な曲想に、横山さんのピアノが縦横無尽に跳ね回る。ここも速めのテンポで、推進力が漲っている。第2主題(だと思う)は、劇的でロマンティックな旋律が鮮やかに浮きがって来るあたりは、心憎いばかりの表現力。ここぞというところで、ピアノが大きく歌うのである。とくに再現部での第2主題の美しさは落涙ものであった。コーダに入ってからのテンポアップと盛り上げ方は、都響の正確なアンサンブルとリズム感にも裏付けられて、素晴らしい高揚感を聴かせた。
 この演奏は…、何と言ったらいいのだろう、完全にBravo!!そのもので、文句のつけようもない。速いテンポ、キレの鋭い演奏、輝くばかりのピアノの奔流…。冷静でガッチリした構造的な演奏の中から、溢れ出てしまうような感傷…。ロシアのロマンティシズムを超越した、純音楽としての完成度の高さが感じられた。横山さんのピアノはもちろんのこと、小泉さんの率いる都響も、卓越した演奏技術をベースに、曲の本質を明快に描き出していた。表層的に見れば横山さんの超絶的な技巧が目立つ(とにかくテンポが速いのにピアノが全く乱れない)が、その深層部には熱くたぎるロマンの炎があり、それを「技巧」というオブラートで覆い隠している、そんな印象の名演であった。

 この3つの協奏曲を弾いた後でもアンコールに応えて、自作の「アヴェ・マリア」の主題による即興を。横山さんは「日本の現代のラフマニノフ」と呼ばれている一面、天才ピアニストであると同時に作曲家でもある。協奏曲とはまたひと味違った華麗な演奏だった。

 横山幸雄というピアニストは、とにかくスゴイ人だ。驚異的な演奏技術、記憶力、体力、そして多方面にわたる才能…。しかも颯爽としていて、実にカッコイイのである。女性ファンが多いのもよく分かる。ちょっと気障っぽい感じ(失礼)に色気はあるし、男性諸氏の中にはとやかく言うひともあるようだが、音楽は本物すぎるくらい本物であり、冷徹な自己主張ゆえに、非常に惹き付けられる思いがする。とにかく魅力的な人、そして音楽だと思う。

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1 コメント

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耳の中によみがえる… (蘭子)
2012-03-09 03:57:34
横山さんの演奏も素晴らしかったけれど その魅力を 今一度言葉で浮かび上がらせて再現する ぶらあぼさんの表現力もなかなかのものです。色彩感ある言葉にあふれていて…言葉につられて今一度横山さんの 若々しい力強い演奏が耳の中に聞こえてきました。ああ…横山さんのファンクラブはいっちゃおうかなぁ…

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