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「中堅・ベテラン世代」と「Z世代・さとり世代」の世代間ギャップを超えて良好な関係を作るには?

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 20代のいわゆる「Z世代・さとり世代」と呼ばれる世代を部下に持つ40代以降の世代において、部下が何を考えているのかよくわからない、コミュニケーションがうまくいかない、若手がすぐ辞めてしまうと悩んでいる人が増えています。その世代間ギャップは何に起因し、どう解決していけばいいのでしょうか。今回は特定非営利活動法人しごとのみらいの理事長で、組織づくりやコミュニケーションの研修やコーチングなどを手掛ける竹内義晴さんの著書『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』(翔泳社)から、その原因や解決策の1つを紹介します。

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本記事は『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント』(竹内義晴)の「2-1 上司と部下がわかり合えない本当の理由」「2-2 コミュニケーションに潜む「3つの罠」」「3-2 メンバーと良好な関係をつくるコミュニケーションスキルの全体像」を抜粋したものです。掲載にあたって一部を編集しています。

上司と部下がわかり合えない本当の理由

 まず、「コミュニケーションギャップが生じるしくみと特徴」についてお話ししていきます。「コミュニケーションにはどのような特徴があるのか」「なぜ、ギャップが生じてしまうのか」という構造的なしくみを知っておけば、そのギャップに自ら気づき、改善できるようになります。

 最初にお話ししたいのは、「事実」と「解釈」についてです。コミュニケーションギャップは、それぞれが持つ「解釈の違い」によって生まれています。「事実」は1つだけれど、「解釈」は人それぞれ、その結果、同じものを見聞きしても、コミュニケーションギャップが生まれる……という意味です。

 事実と解釈を理解するために、私が研修のときによくする「赤信号」の話をさせてください。企業で研修を行うとき、私はよく、こんな話をします。

私「今日、この会場に来られるまで、どのようにいらっしゃいましたか?」
受講者「電車と徒歩です」
私「その間に、信号機はありましたか?」
受講者「はい、ありました」
私「その中に、赤信号はありましたか?」
受講者「ありました」
私「赤信号を見てあなたはどうしましたか?」
受講者「え? もちろん止まりましたよ」
私「どうして赤信号で止まったのですか?」
受講者「それは……そういうルールだからですよね」
私「どうして『赤信号=止まる』がルールだと思うようになったのですか?」
受講者「え……?」

 きっとあなたも、歩道を歩いているとき、あるいは、車を運転しているとき、交差点の信号が赤だったら止まると思います。当然ですよね。「赤信号では止まる」はルールですから。でも、あえて問います。なぜ、赤信号は止まらないといけないのでしょうか? よくよく考えてみると、赤信号はただの「赤く光る物体」ではありませんか?

 赤く光る物体を見たとき、なぜ、私たちは「止まる」と解釈するようになったのか。それはおそらく子どもの頃に、「赤信号は危ないから止まるんだよ、車が来るからね」などと、親や先生から繰り返し教わってきたからなのでしょう。その結果、今ではことさら意識せずとも「赤信号=止まる」と認識するようになりました。

 「何を、当たり前のことを言っているんだ」と思われるかもしれません。しかし、コミュニケーションギャップを縮める上で、事実と解釈の違いを理解することが、とても重要なのです。

「事実」は1つ、「解釈」は複数

 信号機の場合、「赤く光る物体」が「事実」です。「止まる」は「解釈」です。そして、多くの人が、毎日を安全に過ごすために、「赤信号=止まる」を共通の認識として受け入れています。このように、ある「事実」に対して、多くの人が同じ「解釈」ならば、コミュニケーションギャップは起きません。

 しかし、私たちが日々体験するさまざまな「事実」に対して、必ずしもみんなが同じ「解釈」であるとは限りません。なぜなら、私たちすべての人は、育ってきた環境も違うし、生きてきた背景も違います。当然、それによって培ってきた価値観、つまり「解釈」も違います。

 このように、1つの「事実」に対して、人が意識的あるいは無意識に持っている「〇〇は、□□である」「〇〇は、□□すべきである」といった「解釈」の違いが、コミュニケーションギャップの「もと」なのです。

 なぜ、このような解釈の違いが生まれるのか? それは、「育ってきた社会環境や時代背景が異なるから」です。

世代間ギャップが起こる原因は「事実」と「解釈」のズレ
世代間ギャップが起こる原因は「事実」と「解釈」のズレ

 この、「事実と解釈のズレ」が、「世代間ギャップ」として感じられるのです。言い方を変えると、事実ベースで会話をしたり、「そもそも、なぜ私は、この解釈を正しいと信じているのだろう?」のように、自分の考えを内省すると、コミュニケーションギャップは起きにくくなります。

日本人だとつい同じ「解釈」を求めてしまう?

 もう1つ、事実と解釈の話をさせてください。突然ですが、あなたの職場には外国人の同僚がいますか? もしいなければ、想像してみてください。もし、その同僚がイヤホンで音楽を聴きながら、ノリノリで仕事をしていたとしたら、あなたはどう感じると思いますか? おそらく、「ノリがいいなぁ」とか、「海外だと音楽を聴きながら仕事をするんだな」のように、受け入れられる人も多いでしょう。

 では、同じ行動を、Z世代の新入社員がしていたらどうでしょうか? おそらく、「ここは職場だぞ!」とか、「音楽を聴きながら仕事なんて、けしからん!」といった反応になるのではないでしょうか。

 外国人の同僚の場合、「彼(彼女)の出身の国では、音楽を聴きながら仕事をしてもOKな文化なんだな」のように、違いを許容できます。ところが、日本人の同僚が、しかも、新入社員がイヤホンで音楽を聴きながら仕事をしている場合、なぜか「いやいや、職場でイヤホンはおかしいでしょ」というように、違いを許容できません。

 とっている行動は同じなのに、なぜ、相手によって解釈が変わるのか。それはおそらく、「自分との距離感」によって、感じ方が変わるからではないでしょうか。

 外国人なら、生きてきた社会や文化、価値観が「異なる」と認識できる。でも、同じ日本人だと「相手の価値観も、きっと自分と同じだろう」と期待をします。そして、相手が期待通りの行動をとらないと、イラっとしてしまいます。距離感が近いと、自分の常識や価値観を当てはめ、同じ「解釈」を求めてしまう。それが、「コミュニケーションギャップ」を生んでいます

 日本人の若手世代だって、生きてきた社会や文化、価値観が違うはずです。もっと言うと、そもそも生きてきた背景は1人ひとり違います。「相手は、自分とは違う」……その「違い」があることを前提にすることが、世代間ギャップを縮める第一歩です。

異なる価値観は「受け入れる」のでなく「置いておく」

 「相手の『違い』を認めよう」という話を聞いて、ひょっとしたら、こんなふうに思っているかもしれません。

「いや、そうは言っても、同じ職場で働いている以上"違い"を認めるのは限度があるのではないですか。自分の価値観とどうしても相いれない部下の"解釈"も受け入れろと言うのですか?」

 確かに、どうしても相いれない人を「受け入れる」のは簡単ではありません。それでも受け入れなければならないなら、こちらが何かしらの我慢をする必要があります。

 たとえば、私は暴力をふるうような人や、批判的で強い言動をする人が苦手です。そのような人を「人は多様で、さまざまな考え方があるのだから受け入れろ」と言われても、私には受け入れられそうにありません。でも、事実として、そのような人もいます。

 そこで、提案したいのが、相手を「受け入れる」のではなく、受け取るだけ受け取って、「自分の外に置いておく」方法です。イメージとしては、「あなたはそう思うんですね。私はこうですが」「確かに、そういう考え方もありますよね。私は違いますが」といった感じ。必ずしも自分の中に受け入れなくてもよいのです。

 若手世代と接している中で、あなたの目から見たら「ありえない」と思う発言や行動をするような人もいるでしょう。でも、「解釈」は人それぞれです。その発言や行動はその相手の「解釈」によって生まれています。

 だからといって、「それは違うだろう! 正しいのはこうだろう!」と自分の考えを押し付けてばかりでは、コミュニケーションギャップは縮まりません。「なるほど、この人はそう思うんだな」といったん受け取る。そして、「でも、私は違うけどね」のように、いったん外に置いておく。このスタンスが、価値観の異なる相手と接するとき、自分をいい状態に保つ上でことのほか重要です。

コミュニケーションに必ず起きる「削除・歪曲・一般化」

 ここまで、1つの「事実」に対して複数の「解釈」によって生じるのが、コミュニケーションギャップの「もと」である、とお話ししてきました。ここからは、その「もと」によって、コミュニケーションギャップが実際に、どのように生じるのか、そのメカニズムについて見ていきましょう。

 そもそもコミュニケーションギャップは、世代の違いにかかわらず、仕事や日常生活などのさまざまな場面で起こっています。コミュニケーションギャップが生じる理由を理解するためには、次の3つの「コミュニケーションの特徴」を知っておくと便利です。

  1. 削除:人はすべての体験を言葉にできない(情報は省略される)
  2. 歪曲:必ずしも事実とは言い難い、ゆがんだ解釈
  3. 一般化:「すべてそうに違いない」という思い込み

 この「3つの罠」が、どんなコミュニケーションにも潜んでいます。1つずつ説明していきますね。

【コミュニケーションギャップを生む特徴1】削除

 削除とは、人が自分の考えや体験を言葉にするとき、「情報が省略されてしまう」という特徴です。「人はすべての体験を言葉にできない」と言い換えることもできます。具体的な例を使って説明します。私は企業研修で、この「削除」について解説するとき、受講者によくこんな質問をします。

私「昨日の夕食は何を食べましたか?」 受講者「ラーメンです」

 あなたも実際に、昨夜食べた夕食を思い浮かべてほしいのですが、きっと、この受講者と同じように、「カレー」「かつ丼」「パスタ」のように、一言で料理名を答えるのではないかと思います。さて、実際はどうでしょうか? 話を事例に戻します。

私「昨日はラーメンを食べたんですね。ところで、何ラーメンですか?」
受講者「味噌ラーメンですね」
私「へぇ、何か特徴はありましたか?」
受講者 「もやしと、肉と、きくらげを炒めたものがトッピングされていました」
私「野菜がふんだんに入った味噌ラーメンだったのですね」
受講者「そうです」
私「他には、何か食べませんでしたか? 味噌ラーメンだけですか?」
受講者「半ライスを食べました。あとは、漬物も」
私「ビールは?」
受講者「飲んでいません。アルコールが苦手なので。でも、お茶は飲みました」

 最初の「昨日の夕食は何を食べましたか?」という質問に対する受講者の答えは「ラーメン」だけでした。しかし、私が質問を繰り返すうちに、受講者の昨日食べた夕食は、単なる「ラーメン」ではなく、「味噌ラーメン。半ライスと漬物付き。あと、お茶」という「事実」が明らかになりました。質問することで、解像度が上がった感じです。言い方を変えると、最初の「ラーメン」は、実際の体験と比較すると、かなりの情報が省略されています。これが、コミュニケーションにおける情報の「削除」です。

 人は、頭の中で考えていることや体験したことを第3者に伝えようとするとき、情報が削除されます。実際の体験はもっと詳細なはずなのに、すべての体験を言語で再現できません。その結果、何かを言葉にするときは情報が削ぎ落とされるわけです。

「削除」の例
「削除」の例

 「人が自分の考えや体験を言葉にするとき、情報は省略される」という特徴を知った上で、仕事上で行われているコミュニケーションを改めて振り返ると、「いかにあいまいな情報でやりとりしているか」が理解できるでしょう。

「何で、休暇連絡をLINEで送ってくるの?」
「(電話だと、部長が移動中だと出られないかもしれませんし)そのほうが便利じゃないですか」
「プロジェクトの進捗はどう?」
「(ちょっと遅れているタスクもありますが)うまくいっています」
「何で、報連相してこないんだ?」
「(部長はいつも怒るから)別に、しなくてもいいかなぁと思って」

 この「削除」が、コミュニケーションギャップを生む第一の「罠」です。

【コミュニケーションギャップを生む特徴2】歪曲

 歪曲とは、人が自分の考えや体験を言葉にするとき、必ずしも事実とは言い難い、ゆがんだ解釈で話をしてしまうことです。

 たとえば、私は新潟の中山間地に住んでいますが、よく、こういった話を耳にします。

「都市部に比べて、地方は学ぶ機会がありません」
「地方はビジネスチャンスが少ないから不利なんですよ」

 確かにそういう一面もあるかもしれません。しかし、「地方だから」といって、必ずしもそうとは言い切れません。誰かの困りごとを解決するのがビジネスだとすれば、課題が多い地方は、むしろ、ビジネスチャンスの宝庫です。

 では、これらは事実でしょうか?

「若い世代は、自発的ではない」
「ベテラン世代は、頭が固い」

 これらも、必ずしも事実とは言い難い解釈でしょう。このように、ある「事実」に対して、ねじ曲がった「解釈」をしてしまうのが「歪曲」です。

 歪曲の問題は、「地方はダメだ」のように、事実とは言えない思い込みによって思考が停止してしまうことです。歪曲のパターンは大きく分けて、2つあります。

歪曲のパターン1:「〇〇によって、〇〇になる」

 ある結果に対し、そうとは限らない原因が結びつけられてしまったパターンです。「○○だから」「○○のせいで」「○○のために」「○○によって」「○○が□□させる」はすべてこのパターンです。前述した「地方はビジネスチャンスが少ないから不利だ」もこの一例です。

「歪曲」の例1
「歪曲」の例1

歪曲のパターン2:「〇〇は、〇〇だ」

 必ずしもイコールではないものどうしが、イコールで結びつけられてしまったパターンです。「○○は□□だ」「○○は□□に違いない」などと、自分が相手の(もしくは相手が自分の)行動や思考、感情をすべて知っているかのように決めつけてしまいます。しかし、その評価や判断の基準、出所、エビデンスは必ずしも、本当にそうなのかはわかりません。

 よく「あの人の意見にはバイアスがかかっている」と言います。「バイアス(bias)」とは、その人の持っている価値観や先入観から「事実」を偏って認識してしまうことを意味します。これも情報の歪曲の1つです。

「歪曲」の例2
「歪曲」の例2

【コミュニケーションギャップを生む特徴3】一般化

 一般化とは、「すべてそうに違いない」という思い込みです。

「最近の若い世代は自分で考えようとしない」
「おじさんはやる気がない」

 このような否定的な言動をする人があなたの周りにもいると思います。「最近の若い世代は」「おじさんは」のように、あたかも世の中のすべての人がそうであるかのように、まるっとひとまとめにして話してしまう。これが「一般化」です。

 居酒屋などで「うちの会社は……」とグチを言う人がいますが、「会社」というのは、個の集団を、便宜上「会社」と呼んでいるだけで、「会社さん」という人が存在するわけではありません。また、「この国はいったいどうなるんだろう」などという言葉も同様で、「国」という特定の誰かがいるわけではありません。これも一般化の一例です。

 このように「すべて」「絶対に」「いつも」「誰でも」「みんな」などの言葉を使って、まるですべてがそうであるかのように認識・表現してしまうのが一般化の特徴です。

 そうすることで、無意識のうちに特定の必要性に相手を縛りつけたり、すべての可能性を否定したり、思考や行動を制限したりしてしまいます。また、「みんな、そう言っているよ」のように、自分の正しさを主張するようなケースでも一般化が起こりやすいです。

「一般化」の例
「一般化」の例

メンバーと良好な関係をつくるコミュニケーションスキルの全体像

 コミュニケーション力というと、「先天的な才能で、あとから身に付けるのは難しい」と感じている人もいるかもしれません。確かに、周囲を見渡せばコミュニケーション上手な人はごまんといます。はじめて会った人でも、すぐに仲良くなれる人を見ると「自分も、あんなふうに振る舞えたらいいのにな」と、私自身も思います。

 コミュニケーションに苦手意識がある人ほど、「もっと積極的に話さなくちゃ」と、努力した経験もあるでしょう。しかし、どんなに努力をしても、明るく、積極的に振る舞うのは難しかったのではないでしょうか。

 でも、安心してください。確かに、コミュニケーションには先天的な才能の面もあるかもしれませんが、コミュニケーションは「スキル」であり「技術」です。スキルなので、センスとは異なり、トレーニングさえすれば誰でも身に付けることができます

 しかも、これからお話しする方法は、いわゆる「積極的で」「明るく振る舞い」「誰とでも仲良くなれる」といったコミュニケーションの方法ではありません。むしろ、その逆。それほど話し上手である必要はないし、無理に明るく振る舞う必要もありません。「話す」のではなく、「聞く」方法です。ですから、コミュニケーションに苦手意識がある人でも、意識的に実践さえすれば、誰でもうまくなります。

 もし、管理職の仕事に対して「リーダーとは、チームや部下を正しい方向に『導く』のが仕事である」という意識が強くはたらき、チームのミッションや達成目標に向けて「絶対に達成しなければならない。そのためにも、オレ(私)がメンバーを適切にリードする必要がある」と過度に気負っていたり、「だから、自分がその部下を教えて、鍛えて、正していかなければならない」と前のめりになっていたりする人にとっては、少し、肩の力が抜け、リラックスできるでしょう。

 もちろん、メンバーをよりよい状況になるようにリードする、適切な指導やアドバイスをする、そのような行為が一切必要ないと言いたいわけではありません。アドバイスが必要なこともあるでしょう。けれども、そのアドバイスを受け取ってもらうためには、まずは、あなたとメンバーとの間に信頼関係を築くことが重要です。信頼関係が十分築けてこそ、メンバーを適切な方向にリードできるのです。

「コミュニケーションU」理論─スキルとステップを体系的に理解する

 ここで、メンバーとの間に信頼関係を築き、相手の意識をよりよい方向にリードするコミュニケーションのプロセスについてご紹介します。メンバーとの心の距離を縮めて、支援するさまが、Uの字に似ていること、また、マサチューセッツ工科大学のC・オットー・シャーマー博士が提唱した「U理論」(組織や集団が過去にないイノベーションを起こすための実践的なプロセス)にかけて「コミュニケーションU」理論と名付けました。

 コミュニケーションUは、前半の、心の距離を縮めて信頼関係を築く「ペースを合わせる」プロセスと、後半の、相手の意識をよりよい方向に導く「リードする」の、大きく分けると2つのプロセスで構成されています。

コミュニケーションU
コミュニケーションU

 前半の「ペースを合わせる」では、相手との信頼関係を築くために、話を「傾聴する」ことによって相手が言いたいことを受け取り、「質問する」ことによって相手が言葉にできていないこと(削除されている情報)を掘り下げます。このプロセスを繰り返すことによって、相手から「〇〇さんは自分のことをわかってくれる」「信頼できる」と言ってもらえるような信頼関係の構築を目指します。

 U字の底辺の「心と心が通い合う」状態のことを、心理学用語で「ラポール(rapport)」と言います。フランス語で「橋を架ける」という意味です。ラポールが形成されると、こちらの言い分を受け取ってもらいやすくなり、後半の「リードする」のプロセスに移ることができます。

 ここで言う「リードする」とは、相手がネガティブな状況に置かれている場合、「この経験をしたおかげで、今後の〇〇に役立ちそうだね」のように、相手の意識を前向きに「リード」したり、何かアドバイスが必要な状況があった場合に、「〇〇のようにするといいんじゃないかな?」のように「伝える」ことによって、相手の変化を促したりすることです。

 こういったプロセスを、順番を意識することなしに実践するのは、一筋縄ではいきません。しかし、相手と信頼関係を構築するためには「段階」があり、「プロセス」があり、「ステップ」があります。「よし、まずは話を聞くことからはじめよう」などのように、最初は傾聴することだけに意識を向けましょう。そして、それができるようになってきたら、「よし、もう少し深堀りできるようになろう」と次のステップに進み、質問を実践してみましょう。このように、ステップ・バイ・ステップで実践することによって、少しずつメンバーとの間に信頼関係が構築され、成長を支援できるようになります。焦らなくても大丈夫です。1つずつ、実践してみてください。

コミュニケーションUで「内省」と「行動」を促す

 コミュニケーションUは、1回の会話の中ですべてを活用することもできますし、「まずは、『傾聴する』を実践して」「次は、『質問する』を意識しよう」のように、段階的に行っても効果を発揮します。最初のうちは、すべてを意識することはできないでしょう。そこで、まずは「傾聴する」から実践しましょう。

 私自身、これらのコミュニケーションスキルは、はじめて管理職になったときに1つずつ身に付けていきました。一度にすべてを意識することは難しかったため、意識的に最初は傾聴の方法だけ取り組みました。

 もちろん、通常の会話では、「そうなんだ。つまり、〇〇なんだね」と相づちを打ち、相手の話を傾聴しながら、「ところで、〇〇はどうなの?」などと質問を組み合わせるのが一般的です。今では、それを無意識に行っています。

 先ほども述べた通り、人は同時に複数のことは意識できないため、「今日は傾聴を」というように、1つひとつ意識しながら行うほうが実践しやすいでしょう。慣れてくると無意識にできるようになり、次のステップを意識的に身に付けることができます。

 そして、「傾聴する」「質問する」「意味付けを変える」「伝える」が一連の流れでできるようになると、「本当は、どうしたかったの?」と質問しながら内省を促し、「それは、いい経験をしたね」のように、相手の意識を前向きにリードできます。さらに、「〇〇は、□□にしていくといいかもしれないね」とアドバイスをし、「じゃあ、次回までに何ができそう?」などと続けることで、行動を促せるようになっていくのです。

 このように、コミュニケーションUを意識することによって、メンバーに対して「内省」と「行動」を促せるようになっていきます。

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Z世代・さとり世代の上司になったら読む本
引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント

著者:竹内義晴
発売日:2022年5月27日(金)
定価:1,760円(本体1,600円+税10%)

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