【人事向け】パーソナリティ障害とは?特徴・原因・向いている仕事について

パーソナリティ障害の症状は種類によって異なりますが、発達障害や気分障害などと混同されることがあります。
「パーソナリティ障害」は物事の考え方に起因して周囲が巻き込まれる状態であるのに対し、「気分障害」は落ち込んだり高揚したり、大きく変動する疾患の総称です。

また、先天的な脳の性質や働き方やその後の発達の課程に偏りがあることにより起こる言語や行動、情緒などの特性を「発達障害」といいます。
本記事では、パーソナリティ障害の特徴や原因などを詳しく解説します。

向いている仕事やパーソナリティ障害ごとの仕事傾向と具体的な対策について、触れていますので、特に人事担当者の方は参考にしてください。

パーソナリティ障害とは?

パーソナリティ(人格)とは、人の振る舞い方やものの見方、他人の関係との作り方を指しています。

パーソナリティ(人格)とは、人の振る舞い方やものの見方、他人の関係との作り方を指します。

パーソナリティ障害は物事の捉え方や考え方(認知)、感情のコントロール、人間関係など精神機能の偏りから生じる疾患です。
パーソナリティ障害は多くの人とは違う反応や行動をしてしまうことにより、本人が苦痛を感じたり周囲の人が対応に困ったりする場合に診断されます。

米国精神医学会(APA)刊行の「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」では以下のように定義されています。

パーソナリティ障害とは、その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的経験および行動の持続的様式である。

引用:American Psychiatric Association「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」

障害がありながら社会で働いている人も多くいますが、周囲の無理解や生きづらさを感じている人も少なくありません。
パーソナリティ障害には種類がありますが、経過中に大きく症状が回復する場合や治療によって改善する可能性が高いことが、最近の研究からわかっています。

パーソナリティ障害の原因 

パーソナリティ障害の原因について、詳しいことは明らかになっていません。
さまざまな要因が複雑に絡んで起きるものと考えられています。

パーソナリティ障害の発症については研究途上ではありますが、遺伝子と環境の相互作用によって起こるのではないか?といわれており、主な原因は大きく分けて3つあります。

  • 遺伝的要因
  • 生育環境
  • 社会的要因

ここでは上記の3つの要因についてみていきましょう。

遺伝的要因 

生まれつきの気質や遺伝的要因により、パーソナリティ障害の症状が現れている可能性があります。
遺伝的なパーソナリティ障害の傾向を、生まれつきもっていることにより幼い頃からまわりの人と良いコミュニケーションを築くことが難しいとされてるケースです。

しかし、パーソナリティ障害と遺伝については研究途中であり、完全には解明されていません。可能性のひとつとして捉えましょう。

生育環境 

人間は生育環境や家族関係、社会状況などがパーソナリティの形成自体に大きな影響を受けると言われています。
家族、特に母親との関係は重要で、乳幼児期に適切な養育環境でなかった場合などにパーソナリティ障害を発症する可能性があります。

母親の子どもに対する思いやりや、子どもの気持ちに寄り添う環境が整っていないとのケースが考えられます。

社会的要因 

虐待や犯罪被害、事故や病気、災害などの経験が、パーソナリティの偏りが起きる要因として特に大きな影響を及ぼすのではないか、と言われています。
さらに、パーソナリティ障害の背景に発達障害が隠れている可能性もありますが、発達障害は先天的な認知の偏りです。

つまり発達障害は、生まれつきの特徴で生涯続きます。子育てや人生経験は関係ありません。

すべてのパーソナリティ障害に共通する仕事の傾向 

パーソナリティ障害のほぼ全ての人に共通しているのは、「白か黒か」「0か100か」のような「二極思考」です。
業務を行ううえで充分な能力があるにもかかわらず、自己肯定感がとても低く不安やストレスに弱い面があります。

その結果、自傷行為や衝動的な行動をとってしまう可能性があると理解しておきましょう。

パーソナリティ障害の種類と特徴 

A群妄想性パーソナリティ障害
シゾイドパーソナリティ障害
統合失調型パーソナリティ障害
B群 反社会性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害
演技性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害
C群回避性パーソナリティ障害
依存性パーソナリティ障害
強迫性パーソナリティ障害
パーソナリティ障害の種類と特徴 

パーソナリティ障害には種類があり、A~C群の3つのグループに分類されています。

各グループの障害には、それぞれ際立った特徴的なものがあります。
それぞれの詳しい種類と、仕事での傾向についてひとつひとつ説明していきます。

A群 

A群は別名「オッド・タイプ」と呼ばれ、奇妙または風変わりな様子が特徴としてあげられます。非現実的な思考も特徴のひとつです。

統合失調症や妄想性障害などの精神疾患との関係が指摘されています。
本人に問題意識がないことも多く、積極的に治療を受けることが少ないタイプです。

A群にはそれぞれの特徴をもつ以下の3つのパーソナリティ障害が含まれます。

妄想性・他人をなかなか信用しようとしない
・恨み深く、些細なことで他人を攻撃する
シゾイド・他人への関心が薄く、単独行動が多い
・感情の起伏をほとんど見せない
統合失調型・感情の幅がせまく、その場にあった感情を持てないため、ぎこちない反応になる
・独特の考え方にこだわる
参考元:「パーソナリティ障害 正しい知識と治し方 (健康ライブラリーイラスト版)」

妄想性パーソナリティ障害

「他人が自分に悪意を持っている」という他者への猜疑心が強く、自分自身を正当化しようとする傾向があります。
身の回りの出来事や他人の言動を、自分に対して悪意があると被害妄想的に解釈しがちです。

シゾイドパーソナリティ障害

よそよそしく、社会との関わりの薄さを認めます。また、感情表現が乏しい傾向にあり、孤立することが多いのもひとつの特徴です。

統合失調型パーソナリティ障害

統合失調症との関連性が指摘されているタイプです。

統合失調症発症には至っていないものの、思考や対人関係において問題があります。
物事の捉え方が奇妙で、風変わりな印象を持たれることが多いでしょう。

A群の仕事での傾向 

A群のパーソナリティ障害は、他人への興味関心が薄い半面、警戒心は強いという特徴があるため、周囲の人と信頼関係を築くことが難しい面があります。
そのため、チームの中で浮いた存在になってしまう可能性があり配慮が必要です。

B群 

B群のパーソナリティ障害のタイプは、感情的かつ衝動的です。
周囲を巻き込みやすいという特徴があると言われています。

B群のパーソナリティ障害には、以下のような4つのタイプがあります。

反社会性・何度でも嘘をつく
・無責任・無計画
・イライラしやすく攻撃的
・他人への愛情が乏しい
境界性・見捨てられ不安が強く、孤独を恐れる
・自分が「よい子」と「悪い子」に分裂してしまう
・問題行動や対人操作で周囲を巻き込む
演技性いつでも注目の的になろうとする
自己愛性・強い自尊心の陰に弱い自分が隠れている
・健全な自己愛が育っていない
・プロセスより結果が重要という価値観
参考元:「パーソナリティ障害 正しい知識と治し方 (健康ライブラリーイラスト版)」

反社会性パーソナリティ障害

人を騙すこと、操ることなどに抵抗がなく、法律を犯すリスクもあります。
子どものころからその傾向が強い場合が多いです。

境界性パーソナリティ障害

境界性パーソナリティ障害は、すべてのパーソナリティ障害のなかで、もっとも患者数が多いです。
「見捨てられないか」という不安が根幹にあるため、見捨てられないために依存したり、人を操作する、問題行動をおこなすなどします。

演技性パーソナリティ障害

自分が注目されていないと落ち着かないため、大袈裟な話し方や態度で注意を引く傾向があります。
注目を集めるために、嘘をつくこともあります。

自己愛性パーソナリティ障害

自己愛性と聞くと、ナルシストなどのイメージが浮かぶかもしれませんが、実際は違います。
自身が思い描いている理想の自分しか愛せないため、理想からかけ離れた自分になると抑うつ状態になり、逃避し引きこもりがちになる傾向があります。

B群の仕事での傾向

B群のパーソナリティ障害の人は感情の起伏が激しく、尚且つ不安定という特徴があります。例えば言動が衝動的であったり、移り気であったり等です。
ネガティブな言動に過敏に反応し怒りを表してしまい、周囲の人が困惑する場面もあるでしょう。

C群 

C群には3つのパーソナリティ障害がありますが、これらの共通した特徴として不安や恐怖心が非常に強いことが挙げられます。

回避性・恥をかいたり、批判されることを極端に恐れる
・新しいことに対して、異常に引っ込み思案
依存性・自分で決めたり、判断ができない
・他人といっしょにしないと不安になる
強迫性・ルールや手順にこだわりすぎる
・手順も含めて完璧でないと気が済まない
・自分なりのルールにこだわるあまり、生産性や効率が落ちても気にしない
参考元:「パーソナリティ障害 正しい知識と治し方 (健康ライブラリーイラスト版)」

回避性パーソナリティ障害

失敗することや、他人から否定されることを極度に恐れます。
積極的な社会参加を望まず、避ける傾向があります。

相手に拒絶されることを「恐怖」と感じ、良好なコミュニケーションを築くことが難しく感じる場面もあるでしょう。

 依存性パーソナリティ障害

自分自身で物事の判断・決断をすることができず、常に近しい人に依存してしまう傾向があります。
依存のタイプには、以下のように2つあります。

1.自分で判断できず他人の判断に委ねる「幼児型」

2.自分を犠牲にして他人に尽くす「献身型」または「服従型」

依存性パーソナリティ障害のある人は、例えばアルコール依存症の人などからDVの被害を受けるなど、辛い経験をしたとしても逃げられないといったケースが少なくありません。

強迫性パーソナリティ障害

自分自身の中に独自のルールがあり、それに沿って物事を完璧に進めることを優先します。独自ルールに合理性がなかったとしても、そのルールを守ること自体に強いこだわりを持ちます。

また、他人に対しても厳しい態度をとることが多いため、良好なコミュニケーションを築くことが難しいといえるでしょう。

C群の仕事での傾向 

C群のパーソナリティ障害の特徴は恐怖心や不安が強く、内向的という点です。
困難な状況を避けようとする傾向があるため、責任を伴う仕事や目立つことが苦手なことが多いでしょう。

自分の独自ルールにこだわり過ぎるあまり、生産性や効率を悪化させてしまう可能性もあり、配慮が必要です。

受動攻撃性パーソナリティ障害の仕事での傾向 

受動攻撃性パーソナリティ障害は「拒絶性パーソナリティ障害」とも呼ばれています。
怒りを相手に直接ぶつけるのではなく、相手を困らせるような言動をして反抗の意思を伝えるような障害を指します。

具体的には以下のような症状です。

  • わざとミスをしたり、頼まれていたことを忘れていたフリをする
  • 相手を無視する
  • 最初からやるつもりはないが、頼まれたらYESと返事をする

受動的行動の代表的な例として「無視」「サボタージュ」「抑うつ状態」があります。このような行動を取り相手を困惑させるなどして攻撃しようと考えます。

受動攻撃性パーソナリティ障害の仕事での傾向 

受動攻撃性パーソナリティ障害の特徴は、「間接的で遠まわしな拒否」です。
仕事を頼まれた時に直接拒否するのではなく、嫌そうな態度や非効率的な作業などの受け身的な方法で拒否の意思を伝えようとします。

周囲の人が受動攻撃性パーソナリティ障害のある人の気持ちを理解できず、困惑・疲弊してしまうといった状況が考えられます。

パーソナリティ障害の方への雇用と接し方のポイント 

パーソナリティ障害の方は、人間関係や業務内容などの職場環境によってストレスを感じやすく、周囲の人と衝突してしまうことも多くなりがちです。
一方で、適切な治療を受けることで症状が改善され、社会生活での困りごとを徐々に減らしていくことも可能であると考えられています。

パーソナリティ障害の方が職場にいる場合には、以下のような対応を行うと良いでしょう。

  • 障害にあった業務を切り出す
  • パーソナリティ障害に適した配慮を行う
  • チームでコミュニケーションをとる
  • 根拠をもとに冷静に話し合う
  • 適度な距離を保って接する

ひとつひとつ解説していきます。

障害にあった業務を切り出す

障害者雇用において「障害の特性に合わせた業務の切り出し」は、とても重要です。
業務の切り出しとコミュニケーションがうまくいくと、パーソナリティ障害のある方だけでなく、雇用する企業にとっても大きなメリットになります。

個々のパーソナリティ障害の特性に合わせ、「納期のない、マイペースに行える業務」「自分自身が興味がある・得意な業務」などを考慮し、業務の切り出し・配置を行うと良いでしょう。
また、「判断が求められないフロー化した業務」や「対人関係ではない業務」もおすすめです。

パーソナリティ障害に適した配慮を行う 

パーソナリティに適していない作業や苦手とする業務は、本人にとってストレスとなるため、症状が悪化しやすくなり、周囲の人との問題も起こりやすくなります。
パーソナリティに配慮した業務の割り当てや、障害に理解のある人を近くに配置するなど、本人の不安感を少しでも減らす配慮が職場での困りごとを減らすことにもつながるでしょう。

チームでコミュニケーションをとる 

パーソナリティ障害のある方との「1対1のコミュニケーション」だと、自分が攻撃の対象になる距離感をあやまってしまう可能性があります。
言った言わないにもなりやすいため、メッセージを伝えるときなど、1対1にならないよう、誰か第三者も含めて対応すると良いでしょう。

情報を共有しながらチーム全体でサポートしていくことが大切です。

根拠をもとに冷静に話し合う

困りごとが起こっているなど、重要な事柄を本人に伝えるときは、実際のデータや記録等の客観的な指標や数値を見せ、冷静に話し合うことで本人も納得しやすくなります。
また、パーソナリティ障害のある人の多くが持っている不安感を増やさないためにも、否定するような表現は避け、その人の良い部分を評価していることも本人にしっかりと伝えることが重要です。

適度な距離を保って接する

パーソナリティ障害のなかには、周囲の人との適切な距離が掴めない人も多くいます。

この場合、本人との関わり方について一定のルールや枠組み等を作っておき、それを保つことがおすすめです。
具体的な仕組みとしては、まず指示を出す人や相談する人を決めておきましょう。そのうえで、対応できる業務の範囲や具体的な時間帯も明確に伝えておくこと。

さらに、そのときの状況や相手の反応に関わらず一貫した態度をとるなどの対応が考えられます。

まとめ 

パーソナリティ障害の症状は人間関係の問題を引き起こしやすく、仕事の支障となってしまうこともあるでしょう。
しかし適切な治療を受けながら、パーソナリティの特徴に合った環境を整えることで、困りごとを徐々に減らしていくことが可能だと考えられています。

多くの場合、治療には長期間を要します。上司などの近しい人と相談して業務の調整を行ったり、休職や退職の場合には経済的支援を利用することで、焦らずに治療を続けることが可能な環境を作っていくと良いでしょう。
障害者雇用については、労働条件や就労環境への配慮だけでなく「業務の切り出し」や「コミュニケーション」についても考える必要があります。

以下の「障がい者雇用「業務切り出し」先行事例集(精神・発達障がい編)」もぜひ参考にしてください。

参考書籍

■監修者コメント

パーソナリティ症の社員へのサポートは理解と寛容さが重要です。彼らが持つ独特な認知や行動を否定せず、受け入れるところからスタートし、適切なサポートをしなくてはなりません。彼らの一見奇異に見える態度は様々な摩擦や対立を生むかもしれませんが、それを乗り越えた時に職場全体の成熟度は上がっていると思います。

監修 : 益田 裕介 (医師)

防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属

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