コト/モノ /ヒトを
染めに重ねる「金井工芸 分室」

奄美に伝承する染めの技を現代に受け継ぐ金井工芸。11月28日よりBaBaBaで始まる展覧会で、彼らが見せるものとは。

奄美群島の伝統工芸である伝統の大島紬の染めを長年担ってきた染色工房、金井工芸は、いまや伝統の世界に留まることなく、独自の実験を重ねながら多様なデザイナー、クリエイターと協業している。

金井工芸の色は、草木、水、菌、土など、すぐそばにある豊かな自然のエレメンツの力を借りながら、そこに人の知恵と技を複雑に重ね合わせ、独自の表現を創り出していく。金井工芸がフォーカスするのは、形を持たない色がどのように生まれ、対象に映すことでどのような表現が成立するのかというプロセス。単なる自然や伝統へと畏敬の念や完成品としての美しさだけでなく、そのすべての過程に介在するコト/モノ/ヒトの一連の流れが金井工芸の色のなかに存在しており、一つでもその要素が欠ければ、まったく違うものづくりの形になってくる。

本展では、金井工芸の金井志人がこれまでに手がけてきた制作物や実験内容を紹介しながら、その思考の組み立てやものづくりのプロセスを紹介。自然と呼応しながら制作を行う奄美大島の工房を再現したかのような「金井工芸 分室」がBaBaBaに誕生する。また、展示に合わせ、泥染めのワークショップや、持ち込みで染めをオーダーするサービス、奄美の本工房との中継など、さまざまなイベントも開催。普段は表に出ない金井工芸の全貌を明らかにしていく。

「金井工芸 分室」

会期=2021年11月28日[日]~12月12日[日]火休
時間=12時~19時(土日祝11時~18時) 
会場=BaBaBa (東京都新宿区下落合2-5-5-1F)

企画=金井志人 / 飯田将平 / 大脇千加子
出展協力=WONDER FULL LIFE / ミロコマチコ / LIGHT YEARS /
TIMBER CREW / KITTANAI / ON AIR / ONE KILN
展示構成=ido


|EVENT|泥染ワークショップ

■日時=2021年11月28日(日) 13時〜(※2時間ほどを予定しております。15時終了予定)

■募集人数=12名(※先着順)

■参加費=6,000円

■持ち物=染めたいもの1点(小さいものなら2点)

■注意事項=当日は汚れても良い服でお越しいただくか、着替えをご持参ください。

奄美に伝承する染めの技「泥染め」をはじめ豊かな自然から作る天然染色を現代に受け継ぐ金井工芸。11月28日(日)よりBaBaBaで始まる展覧会の初日イベントとして泥染のワークショップを開催します。

泥染めは奄美大島特有の染色方法で、島内に自生する「テーチ木(車輪梅)」という低木常緑樹を煮出して作った染料で染めた後に、泥田 に浸す作業を繰り返すことを言います。「テーチ木」に含まれるタンニン色素と奄美大島の泥に含まれる鉄分の化学反応を利用した染色方法 で、奄美の自然が作る色と言われてます。

今回のワークショップでは、奄美大島から染料をお持ちいただき、BaBaBa内とエントランス付近を使用して泥染めを行います。金井工芸・金井志人さんとの会話を楽しみながら形を持たない色がどの ように生まれ、対象に映すことでどのような表現が成立するのかというプロセスを一緒に体験していただけたらと思います。

ご予約のお申し込みは11/20(土)12:00からメールにてお承りいたします。下記詳細をご覧くださいませ。

 

〜ご予約方法〜

下記メールアドレスまで下記情報をご明記の上、お申し込みくださいませ。

info@bababa.jp

件名『BaBaBa 金井工芸・泥染め 参加申し込み』

①お名前 ②電話番号 ③参加者人数をご明記ください。

・11/20(土)12:00からお申し込みを承ります。先着順で定員に達し次第終了とさせていただきますのでご了承くださいませ。

・参加者が複数名いる場合は代表者様のご情報のみご明記お願いいたします。

・ご予約内容確認のため、以下の番号よりお電話させていただく場合がございます。

電話:03-6363-6803

※お申し込み後のキャンセルはご遠慮くださいますようお願い申し上げます。

|EVENT|染めスタンド

■期間=会期中会場内にて随時受付

■人数=20名(※先着順・1人1点まで)

■料金=5000円~1万円程度(色目によって金額は変動)

持ち込みいただいたアイテムをお預かりして染めを行うサービス”染めスタンド”。
染めサンプルを見て相談をしながら好きな染色方法をお選びいただけます。
お預かりしたものは一度、奄美大島・金井工芸に持ち帰られ、染色を行います。
仕上がりは20221月中を予定しており、順次ご自宅に発送させていただきます。

|EVENT|奄美工房とのライブ中継

■時間=毎日1317時(日曜は工房休みのため録画対応)

■中継予定場所=窯の焚き場 / 泥田 / 作業場 / 干場等

(※天気、状況に応じてスイッチ中継を行います)

会期中、奄美の本工房とBaBaBaをバーチャルで繋げます。
自然と呼応しながら制作を行う奄美大島の工房のリアルを是非ご体感ください。
また日々、中継ポイントが異なりますので現場のライブ感もお楽しみいただければと思います。

色で世界が広がる。
SPREADの個展がスタート。

色彩表現を巧みに引用しながら、新たなクリエーションを手がけるSPREADが待望の個展が東京・青山のスパイラル・ガーデンではじまった。

2020年初頭からの蔓延したパンデミックは、世界を陰鬱なムードに包み込んだ。さまざまに制御、制限がかかるなか、クリエイティユニットのSPREAD(スプレッド)も、昨春に予定していた個展の開催延期を余儀なくされた。

「目に見えない大きなものが迫ってきて、肩に重くのしかかる。自ら行動を起こさなければ、どこかに押し流されてしまう気がした」

そう語る彼らは、待機が続くなかでも意欲的に創作を継続。半年遅れての開催となった展覧会『SPREAD by SPREAD 明日は何色?』がいまスパイラルガーデンで開催されている。

スペースの特性を存分に生かしながら、大胆な手法で鮮やかな色の世界を表現しているSPREAD。独創的な発想とともに注目したいのはそれぞれの作品に使っている素材だ。活版印刷の紙片、工業用メッシュ、アルミパネルなど、どれも身近な存在ながら、意識的には見ることのないものばかり。普遍的な素材が鮮やかな色をまとった瞬間に、人々の意識を瞬時に捉え、思考と感覚を刺激する存在へと変化していく。

既存の概念を解き放ち、新しい目線で世の中を見る。そんなきっかけにもなりそうな、自由で清々しい空気感に包まれた展示だ。

  • Text: Hisashi Ikai

『SPREAD by SPREAD 明日は何色?』

20211027日~117()

11:0020:00 無休 入場無料

会場:Spiral Garden 

東京都港区南青山 5-6-23スパイラル1F 

https://www.spiral.co.jp

SPREAD[スプレッド]

東京を拠点に活動する山田春奈と小林弘和によるクリエイティブユニット。生活の記録をストライプ模様で示す作品「Life Stripe」を2004年から発表。以降、国内外で定期的に個展を開催する。主なプロジェクトに「燕三条 工場の祭典」「HARU stuck-on design;」「Dance Base Yokohama」など。

https://spread-web.jp

木工の意識が変わる、次世代デジファブ。

10月9日から、新しい展覧会「EMARFでつくる新しい生業─自分を解放するものづくり」がBaBaBaでスタートする。そもそも「EMARF」とは何なのか? 企画チームであるVUILDのアトリエを訪ねた。

 自分がいる環境をぐるり見まわすと、建築、家具、日用品にいたるまで、木でできたものが想像以上に多いことに改めて気づく。しかし、多くの人はその製品が、どのような過程を経てできたものか知らないのではないだろうか。

「日本には、古くから大工や指物など、精度の高い木工文化が伝わっていることも影響してか、木工は難しくて、ハードルが高いという意識が強い。そのため、デザイナーや建築家でも製造のことは現場任せで、方法論を知る人はあまりいません。こうした状況のなかで、僕たちは、デジタルテクノロジーの力をもって、こうした“ものづくりの壁”をどんどん壊していけないかと考えているのです」

そう語るのは本展を担当であるVUILD・EMARFチームのデザイナー、戸倉一(はじめ)さん。2017年に創業したVUILDは、デジタルツールを用いたデザイン・設計と、製造の現場をシームレスにつなぐプロジェクトを軸に活動を続けている建築スタートアップだ。

「製材工場や家具製造の現場では、『CNCミリングマシン』と呼ばれるコンピュータ制御で工作を行う機械が使われていますが、とても高額で、操作も煩雑なため、その利用・操作は一部の専門家に限られています。僕たちは、廉価な『ShopBot』というアメリカ製のCNCと一般的なデザインアプリケーションを連動させることで、『ネット印刷』のような感覚で、デザインに携わる誰しもが簡単に木のものづくりと触れ合えるようにしたいと考えているのです」

このオンラインで簡単にオーダーできる木のものづくりのクラウドサービスこそが「EMARF」だ。操作は明解で、ネット印刷や3Dプリンターなどのアプローチにも似ている。

「高度な工芸」or「単純なDIY」。二極に分断していた木工の世界にEMARFのようなサービスが登場することで、さまざまなタイプのクリエイターが参加し、これまで想像できなかったようなクリエイティブの可能性がどんどん生まれていくだろう。展覧会タイトルにある「新しい生業(なりわい)」とは、プロ/アマを問わず、発想さえあれば方法論を知らずとも形づくることができるという、新しいデザインアプローチのメタファーでもある。まずは、「この形を木でつくってみたいな」というアイデアを持って、展覧会場を気軽に訪れてみてほしい。

  • Text: Hisashi Ikai
  • Photo: Hayato Kurobe

VUILD

秋吉浩気が2017年に創業。デジタルファブリケーション&エンジニアリング、ソーシャルデザインを掛け合わせることで、分化している木工、木造建築、設計、製材などの垣根を取り払い、より広いものづくりの可能性を模索している。SHOPBOTの国内販売とEMARFの企画・運営も行う。

https://vuild.co.jp

「迷い、見つけ、近づく」。
酒井駒子展のつくりかた。

東京・立川のPLAY! MUSUEMで開催中の「みみをすますように 酒井駒子」展。京都在住のフランスの建築家デュオ、2m26が考えた、独自の展示デザインとは。

『よるくま』『金曜日の砂糖ちゃん』などで知られる絵本作家の酒井駒子が、初となる本格的な個展「みみをすますように 酒井駒子」を開催。およそ250点の原画を展示する会場には大小さまざな形をした木の塊のなかに絵が隠れていたり、黒い小屋のなかに入って絵の世界に没入するなど、ユニークな仕掛けが多数用意されている。

会場デザインを担当したのは、フランス出身で、京都で活動する建築家ユニット、2m26。

「酒井さんのアートワークは、美しい筆のタッチが表すマチエールと絵のなかにぐっと引きこまれる緊張感が特徴的。絵本を読むと、まるで大人に向かって話しかけているようにさえ感じる。この感覚を会場でそのままに表現してみようと思ったのです」

彼らがもっとも尊重したのは、作品と鑑賞者の距離感。タワー状の展示台は形も大きさもランダムにして、いろいろな角度、高さから鑑賞の鑑賞を促す一方で、渦巻状になっている会場の特性を利用して、曲面の壁は、一定の高さにフレームを展示した。

「来場は、会場を移動するたびに、酒井さんの絵を違う角度から見えるようにと、敢えて順路は設けませんでした。最初は森の中を彷徨っているような感覚を覚えるかもしれませんが、次第に慣れていくと、自分で一番心地よいと思える景色のところで時間を過ごすようになる。鑑賞者の積極性が自然と生まれるような空間を目指しました」

会場の什器やフレームはすべて木製だが、サイズや仕様は統一せず、会場を進むと支持体にもさまざまな見栄がかりがあることに気づく。いくつかの展示台は、大人には少し小さく、子供にはちょっと大きいという、不思議なサイズ感のモジュールで展開している。これも2m26が意図的にデザインしたもので、定型と不定形、整頓と不均一の中間域にあるものを模索することで、酒井駒子の作品をよく知るものでも、改めて新鮮な視点から鑑賞ができるようにしているという。

「素材に木を用いたのは、まるで手品のように、同じ部材からいろんな形や仕掛けをつくることができるから。木は廉価で頑丈な上に、解体&再生も繰り返しできるので、移動やシステムの組み替えにも最適。巡回することを前提に企画されている本展のセッティングとしては、それ以外の素材は考えられませんでした」

シンプルな素材、合理的な機能の掛け合わせでも、視点を違えることで新たな可能性が現れることを改めて学んだと語る2m26。彼らが日本を拠点に活動を続けるのも、同じ理由からかもしれない。

「フランスでは椅子に座った生活が基本であるのに対し、日本では椅子にも、床にも座ります。椅子から床に移動するだけで目線の高さが大きく変わり、空間が一気に縦に広がる。二人とも身長が180cm近くある大柄な私たちにとっては、この空間の新しい見えがかりは大きな発見でした。人、空間、そしてそこに漂う空気感をとても繊細に、そして独特の『間』をもって捉える日本で活動を続けられていることは、とても貴重な経験なのです」

  • Text: Hisashi Ikai
  • Photo: Fuminari Yoshitsugu

2m26

メラニー・エレスバクとセバスチャン・ルノーの2人建築デュオ。ともにフランス出身で、2015年に独立し、広島を経て、京都に活動の拠点を構える。シンプルな工程から、機能的かつ現代的な家具および建築のアプローチを試みる。現在、京都郊外に購入した茅葺の民家を、自らの手で改修している。

http://2m26.com

「みみをすますように 酒井駒子」展

1114日(日)まで。

平日10時~17時、休日10時~18時。無休

PLAY! MUSEUM

東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3

Tel. MUSEUM 042-518-9625

同展は、20211211日~2022130日@長島美術館(鹿児島)以降、関西を含む数会場を巡回予定。

https://play2020.jp/museum/

EMARF でつくる新しい生業 - 自分を解放するものづくり

高田馬場にあるケーススタディスタジオ BaBaBa では、10 月 9 日(土)~ 10 月 23 日(土)の期間、木製ものづくりのクラウドサービス EMARF(エマーフ)のエキシビション「EMARF でつくる新しい生業 – 自分を解放するものづくり」を開催します。
EMARF は、職人にしかできなかった家具や建築のデザイン・部品加工などを、すべての設計者・デザイナー・DIY ユーザーに解放。既成部品の組み合わせではなく、ニーズや好みに合わせた思い通りのデザインを、1点からでも、大量にでも、ボタン 1 つで素早く、安く、カタチにしていく画期的なサービスです。
VUILD 株式会社が開発したデジタルファブリケーションを用いたクラウドプレカットサービス「EMARF」は、木製ものづくりのデザインから、パーツ加工までの工程を、全てオンラインで完結できます。CAD データを準備し、WEB でオンライン入稿すると、まるでプリントアウトするようにデジタル加工機で出力。後は組み立てるだけの状態でお手元にお届けします。

本展覧会は、『EMARF でつくる新しい生業 - 自分を解放するものづくり -』と題して、これまで EMARF を活用した様々なシーンを集め、デジタル時代の新しい生業の動向に迫ります。
ここで起きていることは、与えられた仕事をこなす製作ではなく、自身の内から湧き出る内発的動機に基づく能動的な製作です。仕事・趣味の枠組みにとらわれない、より生活に近い生業稼業が行われ始めています。「いきる」と「つくる」を繋げるために、すべての人々を「作り手」にしたい。
私たち VUILD の思いが、いま様々なシーンで芽吹きはじめています。
本展示が、「自分のつくりたいを解放する」きっかけになれば幸いです。

– VUILD 株式会社

2021 年現在までの間に、家具やプロダクト製作シーンは勿論、アート製作、建築内装など幅広いシーンで利用され始めています。本展では、これまで EMARF を使って家具 / プロダクト / 空間など、様々なシーンで活用された方の実作品やパネルを通じて、デジタル時代のメイカーたちの動向に迫ります。
会期中 VUILD が所有する小型の CNC 加工機 (ShopBot) を BaBaBa に持ち込み、実際の制作風景がご覧いただけるラボが出現。また、その場で来場者の方がデザインを作れる制作体験スペースも準備しております。ぜひこの機会にEMARFのものづくりをBaBaBaでご体験ください。





– SHOWCASE



「EMARF でつくる新しい生業 - 自分を解放するものづくり」

会期=2021 年 10 月 9 日(土)~ 10 月 23 日(土)
会場=BaBaBa 東京都新宿区下落合 2-5-15-1F
電話=03-6363-6803
時間=12:00-19:00 (* 土日祝 11:00-18:00)
定休日=月曜日
入場=無料
共催=VUILD 株式会社 / BaBaBa

https://bababa.jp

見逃す視点、見間違う感覚。

千葉市美術館で開催中の「つくりかけラボ04 飯川雄大 デコレータークラブ 0人または1人の観客に向けて」。会場にいる人の行動や認識を思わぬ方向へと転換させる、アーティストの独創的な発想の裏側を覗いた。

エレベーターホールの床に置きっぱなしになったスポーツバッグ。廊下から顔をちょこんと覗かせる巨大なピンクの猫。会場の入り口を塞いでいる巨大な茶色い壁。飯川雄大さんの展示は、一見なんの脈略のないように思えるのだが、実はそのすべてが、観客自身の観察眼や行為によって思いがけない展開が生まれるという共通点を持つ。

「たとえば行ったことがない場所や見たこともないモノの情報を、写真や文字だけで理解してようとしても限界があります。しかし、こうしたうまく伝えきれていないもどかしい状況も、現場にいると人は視点を変えたり、触れたりすることで、新たに情報が追加され、次第にクリアに理解を深め、感覚を擦り合わせていく。一般的な美術展では、作品を静かに鑑賞しながらこっそりと何かを感じ取っていくというのがよくあるけれど、僕の作品は観客の行為を誘発・強制したりするもの。来場者にあるタイミングで作品の一部になってもらう必要があるんです。少しわかりづらくて、勇気がいるかもしれませんが、すべて人が必ずしも同じ理解や感動を得ずとも、一人でも『あれ?』と気付いて、そこから作品が始まるのも面白いかなって」

冒頭写真=《デコレータークラブ−ピンクの猫の小林さん》撮影:飯川雄大
上写真=《デコレータークラブ−ベリーヘビーバッグ》撮影:飯川雄大

展示タイトルにもなっている「デコレータークラブ(Decorator Crab)」とは、天敵から身を守るために、環境下にあるさまざまなものを身に付けたカニのこと。カニ自身はただ擬態して捕食者から身をかわしているだけなのに、人はそれを装飾やもっと特別な意味があると捉える。こうした誤読や曲解は日常的にもよく起きている事象で、人間らしい自発的行動、自由な発想の現れとも言える。こうした視点の切り替えの原点は、飯川さんの少年時代に遡る。

「子供の頃、実家の部屋が6畳くらいだったんですが、ただ漠然とこれと同じ大きさのものが、部屋の中にあったら邪魔だなとか、大変だなと空想していました。その記憶は大人になってもたまに蘇ってきて、面白いなと思うようになったんです。作品を作るようになってからは、その状況や想像がなぜ興味をそそるのか。また、その感覚を共有するのはなぜ大変なんだろうと、理由を考えるようになったんです」

人は目の前のものからしか情報を取り込めず、見えない部分や把握できないことに対して不安になる。知ってるはずの自分の部屋のサイズや目の前のものが何か把握できないから想像したくなる。そんな仮説をもとに、目の前に見えているものとは違う現実と直面したとき、人はどのように反応するのかを飯川さんは作品から誘発している。

《デコレータークラブ−0人もしくは1人以上の観客に向けて》撮影:飯川雄大

冒頭で解説した展示作品群のなかで、巨大なピンクの猫は、かわいいからと写真を撮ろうとしても、どう頑張っても全身が写せないような設計に。また、置き去りになったバッグを忘れ物かと持ち上げようとしても、重すぎて容易に持ち上げることができず、通行を邪魔する大きな壁は実は可動式で、手で押すとどんどん奥へと下がっていく。目視だけでは判断できないものに満ちた空間のどこかに、人々は自分の力で新しい意識を見出していく。

多様な情報が瞬時に飛び交い、コミュニケーション過多と言われるほどの世の中でも、一方で思想の予定調和が起こりやすく、マイノリティの意見を大切に取り上げる風潮はいつまで経っても現れない。こうした社会に対するアンチテーゼも、少なからず飯川さんの作品には込められているのだ。

今回の千葉市美術館の作品のなかには、どうしても一人の力ではどのように機能しているのか確認できない作品があるというのもトピック。自分の行為がどのように作品に影響しているのか。一緒に来た人や、同じ時間に訪れている人々と相談しながら、鑑賞してみるのも面白いかもしれない。

  • Text: Hisashi Ikai

飯川雄大[いいかわたけひろ]

1981年兵庫県生まれ。2003年成安造形大学卒業。認識の不確かさにフォーカスしながら、作品と鑑賞者が能動的に関わり、新たな反応示す作品を手がける。インスタレーションのほか、映像、写真、イラストなど、その表現手法は多岐にわたる。六本木クロッシング2019、ヨコハマトレンナーレ2020に参加するほか、高松市美術館にて個展「デコレータークラブ 知覚を拒む」を開催。10月1日からすみだ向島EXPO2021に出品。今春には、兵庫県立美術館、国立国際美術館の展覧会に参加予定だ。

https://takehiroiikawa.tumblr.com/

つくりかけラボ04 飯川雄大 デコレータークラブ — 0人もしくは1人以上の観客に向けて

会期:2021714()103()

休館日:82()96()

開館時間 10001800(金土は~20:00)

入場料:無料

会場 千葉市美術館4階 子どもアトリエ

千葉市中央区中央3-10-8

TEL043-221-2311

https://www.ccma-net.jp/exhibitions/lab/21-7-14-10-3/

家具職人・鰤岡力也の仕事

インテリアだけでなく、店舗什器として扱われる椅子やカウンターといった家具も、店のコンセプトを伝える大切なツール。人気ショップを数多く担当する家具職人の鰤岡力也のデザインアプローチを聞いてみた。

「手伝ってくれる人はいますが、メインの作業は一人が基本。小さなアトリエであまり営業らしいこともしていないのに、仕事の依頼がもらえるのはありがたいですね」

190cm近い長身から長い手足をぶらりと伸ばしながら、穏やかな口調で話す鰤岡力也さん。話題の飲食店、ブティック、ショールームとコラボレーションを重ねながらも、鰤岡さんの仕事に対する姿勢はいたってマイペースだ。

独立以前は、輸入古材などを扱う「ギャラップ」で働いていたが、家具製作に関してはほぼ独学。いまだ徒弟制が残る家具工房出身の職人が多いなか、それでここまでキャリアを続けられるのは異例だとも言える。

「中学生のときにアメカジにはまって以来、いつも僕の興味の中心にはアメリカンカルチャーがありました。ギャラップ時代も、お店にやってくるのは『バックドロップ』や『プロペラ』といった渋谷・原宿の人気ショップ関係者など、肩の力が抜けたセンスの良い大人ばかり。そんな人々と交流を重ねているうちに、家具やインテリアのノウハウは知らずとも感覚がどんどん研ぎ澄まされていき、自分だったらはこうものが作りたいと強く思うようになったんです。でも今冷静になって考えると、あんなに無知だったのによく独立したと思いますよ」

ギャラップ卒業後は、カントリー家具店「Depot39」の天沼寿子さんや、美術家でデザイナーの吉谷博光さんなど、時代を切り開いてきたクリエイティブな先輩たちのサポートもあり、順調に経験を重ねていく。しかし、依頼をすべて受けていたら仕事が集中し、35~36歳の頃は、2日おきに徹夜するほど多忙を極めた。

「そんなとき父が突然他界したんです。人生いつ何が起こるか分からないことを実感しました。それまでお願いされていた仕事も十分楽しいものだったんですが、この出来事をきかっけに自分でやりたいに100%フォーカスしていようとシフトチェンジしたように思います」

その後、フォトグラファーの平野太呂さん、パドラーズコーヒーなどを運営する松島大介さん、建築事務所のすわ製作所など、鰤岡さんにさらなる刺激を与えるメンバーとの出会いから、次々に新しいプロジェクトが生まれた。

「技術的に優れた家具職人は数えきれないほどいます。でも僕にあるのは、空間全体の空気を読み解きながら、木工だけでなく金具や仕上げのディテールまでこだわり抜き、美しい風景を完成させたいという気持ちだけ。一人でできることには限りもありますが、規模小さくとも妥協のない空間をこれからも目指していきたいと思います」

既製品はほとんど使わず、小さな部材まですべてオリジナルで手がけていく鰤岡さん。プロジェクトが進行するほどに新しいアイデアが次々と現れ、空間を埋め尽くしていく。鰤岡さんの手がけたさまざまなショップを訪れ、家具や建具のディテールまで眺めてみるのも面白いかもしれない。

  • Text: Hisashi Ikai

鰤岡力也[ぶりおかりきや]

1976年東京都生まれ。「Gallap」「Depot39」を経て、2003年に独立。2010年自身のスタジオMobley Worksを設立する。以降、店舗の内装設計、家具製作を手がける一方で、オリジナル家具の企画・販売も行う。代表作に「Paddlers Coffee」「KITTE 旧東京中央郵便局長室」「松㐂」など。

https://www.mobley-works.com

記憶の連鎖から広がっていく風景。

日本からフィンランドに移住して13年。テキスタイルデザイナーでアーティストの星佐和子が創作の拠点を北欧の国に決めているのは、彼女なりの理由がある。

「フィンランドに暮らしていて、常に鮮明に感じているのは、自分の周囲にいる人たちとの距離感や関係性。私が外国人であることや、小さな子供を育てていることも少しは影響してくれるのかもしれませんが、周りの人が親切に振る舞ってくれます。でもそれでいて、適切なディスタンスがあり、決してお節介にはならない。それぞれのパーソナルスペースをしっかりと尊重しているように感じるのです」

 生まれも、育ちも東京という星さん。小さな頃から多くのモノと人に囲まれて生きてきた。出会いの可能性がたくさん存在する一方で、それがものすごい勢いで通り過ぎていく日常。数えきれないほどの情報を見聞きしているのに、アクションを起こさなければ何も感じ取ることができない。

「ここにいると、人間関係だけでなく、自分が何とつながっていて、何を大切だと思っているかを肌で感じ取ることができるんです。フィンランド人はあまり無駄な買い物をしないのですが、倹約家というよりも、それぞれが独自の感覚で本当に素敵だと納得するものにしか手を出さないからのような気がします」

 生活者のこだわりが強い分、デザインの役割も大切になる。北欧デザインにシンプルで簡潔な表現が多いのも、こうしたことが理由だろうと星さんは考察する。そんな星さんがデザインの核として捉えているのは、どのようなものなのだろうか。

「私のデザインは、決して見たままの景色を写し撮ったものではありません。フィンランドの冬はとても厳しく、その間あまり外にでることができない代わりに、夏のあいだはいろいろなところに出かけたり、旅をしたりします。訪れた土地で見た美しい風景を目に焼き付けながら、私はそこに漂っている匂いや頬にそよぐ風といった感覚までもどんどん記憶のなかに刻んでいくのです。創作の時が来ると、脳裏に目一杯に広がる記憶を辿り、独自の世界を再び巡っていきます。もしかしたらいま私が思い出している記憶は、また誰かの記憶とつながるかもしれない。そんな感情のゆらぎをも筆先に託して、描いているように思います」

幻想的なイメージのなかに隠されているのは、心の変化を細やかに捉える鋭敏な感覚。見るものも自らの経験や記憶と重ね合わせて、想像を広げられるからこそ、星さんの作品は多くのものの心を惹きつけるのだろう。

  • Text: Hisashi Ikai

星佐和子[ほしさわこ]

1986年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業後、2008年にフィンランドに移住。アアルト大学修士過程修了。以来フィンランドに拠点を構え、創作を続ける。テキスタイルデザインを軸に、MarimekkoSamujiUNIQLOなど、国内外のブランドと協働。今年オリジナルブランド「arkietti」を設立する。

http://www.sawakohoshi.com

星佐和子|展覧会情報

arkietti 1st exhibition 「alku
2021916日(木)~920日(月)
12:0018:00

TEGAMISHA GALLERY soel
東京都調布市下石原2-6-14 ラ・メゾン2
TEL. 042-444-5572

https://tegamisha.com

漂流物に投げかける自由な視線。

浜辺に流れ着く漂着物に新たな見立てを加え、オリジナルのアートワークを作り出すユニット、オートゥルノトゥルス。昨年末、活動の地を淡路島から沖縄に移した彼らは、いまどのような景色を見ているのだろう。

 大洋に面した海岸線には、流木、貝殻、サンゴといった自然物はもちろんのこと、ブイや魚網などの漁具、ペット飲料や洗剤ボトルなどのプラスチック容器といった人工物を含むさまざまな漂着物が流れ着く。こうした漂着物を拾い集めては、オリジナルの真鍮パーツと組み合わせ、美しいオブジェに仕立てていくオートゥルノトゥルスは、尾崎紅がデザインを考え、種村太樹が金工で仕上げていくアーティストユニットだ。

最初に収集を始めたのは、大学時代、沖縄を拠点にカヤックで全国を旅していた種村の方。浜に打ち上げられているさまざまな漂着物のなかでぱっと目に入ってくるものを、特に目的もなく拾い集めていたという。その頃、東京の美術大学に通っていた尾崎紅と出会い、尾崎が種村のコレクションを“新鮮なもの”に感じたところからクリエーションが始まる。

「一般には“海洋ごみ”と呼ばれる世の中には不必要なものなのに、まだ人の興味をくすぐる不思議な魅力がある。どのような経緯でこのような形になったのか。原型はどんな状態だったんだろう。どんどん頭のなかで想像が広がっていくんです」

そう語る種村に、尾崎も続く。

「海岸に漂着したものは、なにか生き物の最終形のようでありながら、見るものがそれぞれに自由な視線を投げかけることができる余地があるのが面白い。だからこそオブジェのデザインにも、鑑賞や飾り方を限定しないようなゆとりを残しているように思います」

金工で加えていく真ちゅうのパーツも、次第に明るい金色から赤みを帯びた深い茶色へと経年変化していく素材。オブジェとなってもなお移ろう姿を見て、目にする気持ちも日々揺れ動き、また新たな視線を投げかける。

昨年末には、8年を過ごした淡路島を離れ、沖縄県今帰仁村に移住した。

「淡路島にいたときは、大阪にも近いことから日本の都市から流れ着いたと思われるモノがたくさんありました。一方、外洋に面している沖縄の浜には、国内だけでなく遠い違う国から流れ着いたものもたくさんありますし、一度生命を終えた多様なサンゴも見られ、とにかくカラフルな印象です」

現在は壁や天井に固定するタイプのオブジェが創作のメインだが、今後は公共施設に置かれるような大型のものから、身につけられる小型のものまで、飾るという目的だけに限定されない新たな存在を目指したいと語る。

自由に波間を漂い、辿り着いた美しい何かを求めて、オートゥルノトゥルの2人は、今日も浜辺を歩き続ける。

  • Text: Hisashi Ikai

O’ Tru no Trus[オートゥルノトゥルス]

種村太樹と尾崎紅によるアーティストユニット。2014年に出会い、淡路島に移住。2017年から本格的な製作を開始し、2019年にminä perhonen eläväで開催した「seed of sea」で個展デビュー。合同展「Tracing the roots」に参加するほか、各地の企画展に参加している。95日まで銀座のCIBONE CASEにて展覧会を開催中。9月4日〜9月12日、Knulp AAにて個展を開催。

https://www.otrunotrus.com

見逃したくない、日常のかたち。

アイスキャンディー、ポテトチップス、皮を剥いたリンゴなど、日常のなかにある“見慣れた形”を独自の視点で切り取っていく西本良太が、創作の先に見るビジョンとは。

変化に富む四季と国土の多く占める森林。こうした環境のおかげで、日本には古くから、大工、挽物、指物といったさまざまな木を削ってものを作り出す文化が育ってきた。木工でつくられるものといえば、家や家具にはじまり、うつわや箱ものなど、日々の生活を補うための「道具」がほとんどだ。そういう視点から見ると、東京都青梅市に工房を構える木工作家、西本良太の作品づくりは一風変わっている。

 「木工作家といえば、生活工芸や伝統工芸を基本とした暮らしの道具をつくっていた方が分かりやすいですよね。でも僕の場合、自分がつくりたいもの優先してを考えると、どうしても形や素材そのものに意識が向いてしまい、機能などは抜け落ちてしまうんです」

 はじまりは、大学卒業後に入所した家具製作所での体験だ。西本は、日々の製作の合間に、切り落とされては捨てられていく木の削りくず「木端(こっぱ)」を使って、自分の作品を作り始めた。

「依頼を受けたものを、ただ正確に早く作れば良いという職場だったので、単価によって製作にかける時間もエネルギーもまちまち。そのなかで自分のやり方、考え方を持ちたいと、休みの日に作業場を借りて、いろいろと試作を始めたんです。そのときに材料として使ったのが、工場に転がっていた木端。家具づくりには必要とされなくなって廃棄されるゴミなはずのに、手をかけるとどんどん形を変えていくのが面白くて」

何も特別ではない素材から感じる新たな見えがかり。その魅力を探っていくうちに、西本の創作意欲はさらにモノの形へとフォーカスしていく。

「木端と同じなのですが、特定の機能からこぼれてしまったけれど興味惹かれるものって、世の中にたくさんあると思うんですよね。たとえば、僕が好きで集めているのは、ペットボトルやカップ麺、プリンやヨーグルトのケースといった、食品用のプラスチック容器。食材によって形状が異なり、メーカーや時代によって、微妙に形が変わったりもする。すべて何かしらの意味があるのでしょうが、僕たちはその意味をしらないまま、日頃その容器に触れているんです。集めて何になるのかと家族には飽きれられていますが、僕はその状況が気になるし、見落としたくないんです」

 自身のものづくりがどのようなジャンルに属するものかは、明確には答えられないという西本。しかし、継続して日常を観察することで微細な違いに気づき、次々に新たな発見が繰り返されていく。

「それでもまだ勝手な思い込みが頭のなかにたくさんある。もっと自由にいろいろな世の中の見方ができるようになりたいんです」

ニュートラルな視点で世の中を読み解いていく西本良太。彼の手から繰り出されるものには、あまりにも存在が近すぎるためにうっかり見落としている素敵なものがたくさん詰まっているように思う。

  • Text: Hisashi Ikai

西本良太[にしもとりょうた]

1977年東京都生まれ。東京学芸大学を卒業後、家具製作会社勤務を経て、2008年に独立。木工作家として日用品を手がける一方で、機能性をもたないオブジェ作品も手がける。主な個展に「ACTUAL SIZE(PLACE by method2018年、土谷みおとの2人展「something something」スパイラル/2020年などがある。

http://www.nishimotoryota.com

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